ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
クリムガンを破り、見事に初戦を飾ったジュカインの姿を見届けながら、カグヤはわずかに息を整えた。
最高の滑り出しではあるが、相手はかつてイッシュの頂点に立ったドラゴンマスター――アイリスだ。ここで油断すれば、一瞬で形勢を逆転されることは火を見るより明らかだった。
「ふぅ……よし、よくやってくれたな、ジュカイン。一度下がって休んでくれ」
カグヤがボールを向け、ジュカインを優しく回収しようとしたその瞬間、対戦相手のトレーナーズエリアから放たれた新たなモンスターボールが、鮮やかな光の軌道を描いてフィールド中央へと突き刺さった。
「ゴオォォォ――ッ!!」
解き放たれた光の中から現れたのは、地を抉るような重低音の咆哮と、ジェット機を思わせる凄まじい風圧を纏った巨大な影。
青藍色の頑強な巨体に、赤い腹部、そして頭部と両腕に備わった鋭利な刃。陸上を音速で駆け抜けると言われる最速クラスの暴君、ガブリアスだった。
「いけっ、ガブリアス! 先制された分を取り返すよ! 『ドラゴンクロー』で一気に距離を詰めて!」
アイリスの弾けるような号令と同時に、ガブリアスの姿が文字通りかき消えた。
あまりの加速力に人間の動体視力では追いつけないほどの超スピード。風を切り裂く轟音だけがフィールドを駆け巡り、一瞬にしてジュカインの目の前へと肉薄する。
「なっ……速い……っ! ジュカイン、避けて!」
カグヤが咄嗟に叫ぶ。だが、クリムガンとの激闘を終えた直後のジュカインにとって、この極限の初動スピードはあまりにも過酷だった。
ガブリアスの両腕から繰り出された青白い竜の爪が、ジュカインの回避行動のわずかな隙を捉えて強烈に叩きつける。
「グガッ……!」
凄まじい衝撃波が巻き起こり、ジュカインの体が紙切れのように吹き飛ばされてフィールドの壁際に激突した。土煙が舞い上がり、ジュカインはそのまま地面に崩れ落ちてピクリとも動かない。
「ジュカイン、戦闘不能! 勝者、アイリスのガブリアス!」
審判の旗が素早くアイリス側へと掲げられる。一瞬の隙を突いたガブリアスの圧倒的な速度と破壊力が、カグヤの先制点を瞬く間に帳消しにした。
「すごい……! クリムガンを倒した余韻を全く残さない、見事な切り返しだ……!」
観客席で戦況を見守っていたナオが、目を見開いて感嘆の声を漏らす。
その隣でフィールドを注視していたシオンも、鋭い視線を画面に向けながらすばやくタブレットを操作した。
「クリムガン戦で消耗したジュカインの隙を、最速のガブリアスで完璧に突かれたわね。……カグヤ、あの子のスピードをまともに受けたら押し切られるわ。ここは一度、相手の勢いを削ぐ手札が必要よ」
「シオンちゃんの言う通りやねぇ。ガブリアスの猛攻をいなせるのは、あの頑丈な子しかおらんわ。……それにしても、この試練を乗り越えたら、いよいようちとのウェディングロードが現実味を帯びてきて――」
「頼むから今はバトルの話だけに集中してくれ……!」
マリアンヌの飘々とした求婚アプローチに、カグヤは心の中で激しくツッコミを入れつつも、すぐに表情を引き締めて手元のボールを握り直した。
仲間の的確な分析を受け、取るべき選択肢は一つしかない。
「……よくやったなジュカイン、あとは任せてくれ!」
カグヤはジュカインをボールに戻すと、静かに、しかし強い決意を込めて次のボールを投げ放った。
「――ブラッキー!」
漆黒の毛並みに黄金のリング模様を纏った四足のポケモンが、重厚な足音を立ててフィールドに降り立つ。
アイリスのガブリアスが放つ圧倒的なプレッシャーのなか、ブラッキーは微動だにせず、真っ直ぐに目の前の暴君を見据えた。
「おっ、今度はブラッキーかぁ! 特殊な耐久力が高そうな相手だね。でも、そんなのに関係なくブチ抜くよ! ガブリアス、『じしん』!」
アイリスの豪快な指示を受け、ガブリアスが強靭な両足を地面へと叩きつける。
ドゴォォォンッ!! とスタジアム全体が大きく揺れ動き、大地を割るような凄まじい衝撃波がブラッキーへと迫り来る。
「耐え抜け、ブラッキー! 『まもる』!」
カグヤの指示に合わせ、ブラッキーの全身が淡い緑色の光の壁に包まれる。地面から吹き荒れる激震のエネルギーを完璧にシャットアウトし、ブラッキーは一歩も引かずに踏みとどまった。
「ふんっ、硬いね! ならこれでどうだ、『げきりん』!」
アイリスの号令で、ガブリアスの全身に狂暴な竜のオーラが渦巻く。理性を超越した連続の猛撃が、まるで嵐のようにブラッキーへと襲いかかろうとしていた。
【カグヤ】 【アイリス】
ジュカイン ◯――✕ クリムガン
ジュカイン ✕――◯ ガブリアス