ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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漆黒の盾と暴君の嵐

 

 シュートスタジアムのフィールドを揺るがす地鳴りのなか、アイリスのガブリアスが放つ狂暴な竜のオーラが一段と輝きを増した。

 理性を捨て去り、ただ目の前の敵を粉砕することだけに特化した連続技――『げきりん』の構えだ。音速の暴君が繰り出すその猛攻は、いかに頑丈なポケモンであろうとも容易く鉄屑に変えてしまうほどの破壊力を秘めている。

 

「ガブリアス、一気に叩き潰すよ! いけぇっ!」

 アイリスの弾けるような掛け声とともに、ガブリアスが凄まじい風圧を纏って突進してきた。

 連続する強烈な爪と牙のラッシュが、まるで嵐のようにブラッキーへと浴びせかけられる。ズガガガガッ! と響き渡る衝撃音のたびに、ブラッキーの足元の地面が蜘蛛の巣状に砕け散っていく。

「負けるなブラッキー、耐え切るぞ……!」

 カグヤが歯をくいしばりながら叫ぶ。

 その声に応えるように、ブラッキーは漆黒の身体を低く構え、全身の筋肉を極限まで硬直させて凄まじい猛攻を一身に受け止めた。ガブリアスの一撃一撃は重く、防御を固めてなおブラッキーの体力を確実に削り取っていく。だが、あえて隙だらけの『げきりん』を全受動で受け止め続けることこそが、カグヤの描く戦略の核だった。

 

 一方、観客席で戦況を見守っていたシオンは、鋭い視線をフィールドに向けながら腕を組み、冷徹な分析を紡ぎ出す。

「クリムガン戦で消耗したジュカインの隙を突かれたのは痛かったけれど……カグヤは最速のガブリアスを真っ向から受け止めるためにブラッキーを選んだわ。あの子の持久力を信じて、あえて相手の『げきりん』を枯渇させるつもりね。見事な戦術だわ」

 シオンの的確な解説を聞きながら、その隣に座るマリアンヌは和服の袖で口元を隠しつつ、優雅にふふっと微笑んだ。

「まあ、ガブリアスの猛攻をあの巨体で耐え抜くなんて、まるでうちと結ばれるために課せられた試練のようやねぇ。この耐久戦を乗り越えたら、いよいよ結婚式の招待状のリストアップを始めんとあきませんわぁ」

「ちょっとマリアンヌさん、今はのんびり婚活トークしてる場合じゃないよ! 兄貴のブラッキーがすごくがんばってるんだから、応援してあげてよ!」

 ナオがハラハラした様子で観客席の柵にじりじりと身を乗り出す。その隣でマリアンヌは涼しい顔のまま「勝ちはったらうちの旦那様やさかい、応援の熱量も人一倍どすえ」と平然と言ってのけた。

 

 そんな仲間たちの賑やかな声援が飛び交う中、フィールド上では暴君の嵐が最高潮に達しようとしていた。

「はぁーっ、終わりだよ! 最後の一撃!」

 アイリスの号令のもと、ガブリアスが全霊の力を込めた強烈な一撃をブラッキーの頭上から振り下ろす。

 ガシャァァンッ!! と激しい衝撃が走り、ブラッキーの足元が深く沈み込んだ。だが、その猛攻を耐え抜いた瞬間、ガブリアスの全身がわずかに硬直し、荒い息を吐き始めた。『げきりん』を使い切った反動による、ほんの一瞬の隙。

「――今だ、ブラッキー。『イカサマ』!」

 カグヤの鋭い号令が響き渡る。

 耐えに耐え抜いたブラッキーの赤い瞳が妖しく光り輝いた。相手の力の大きさをそのまま倍返しにして乗せるカウンター技――ガブリアス自身の圧倒的な攻撃力を上乗せされた漆黒の衝撃波が、至近距離から暴君の巨体を直撃する。

「グアッ……!?」

 自らのパワーをそのまま跳ね返されたガブリアスが、たまらず大きくよろめき、その巨体を支えきれずにガクリと膝をつく。だが、すんでのところで踏み留まったガブリアスが、最後の気力を振り絞って猛烈な闘気を放った。

「まだだ……! ガブリアス、『ドラゴンクロー』!」

「ブラッキー、最後まで耐えて反撃だ……!」

 お互いのトレーナーの声が重なり合うと同時に、満身創痍のガブリアスが放った最後の一撃と、ブラッキーの渾身の反撃が真っ向から激突した。

 ドゴォォンッ!! とフィールドの中心で凄まじい爆風が巻き起こり、砂塵が辺りを包み込む。

 やがて煙が晴れていくと、そこには――。

 静かに倒れ伏し、同時に光を失ったブラッキーとガブリアスの姿があった。

 

「ブラッキー、ガブリアス、両者戦闘不能!」

 審判のフラッグが両者に向けて高々と掲げられる。一歩も引かない壮絶な削り合いの果てに訪れた、劇的な相打ちだった。

「よくやってくれた、ブラッキー。最高の仕事だったよ」

 カグヤが優しくボールを向け、相棒を労うように回収する。対するアイリスも、満身創痍で戦い抜いた相棒のボールをしっかりと握り締め、どこか誇らしげな笑みを浮かべて顔を上げた。

「やるね、カグヤ! あたしのガブリアスをここまで追い詰めるなんて思わなかったよ。でも、まだまだドラゴンマスターの戦いはこれからだからね!」

 熱狂に包まれるシュートスタジアムのなか、互いの意地と意地がぶつかった第2ラウンドは、さらなる激闘の次なる舞台へと動き出そうとしていた。

 




【カグヤ】      【アイリス】
ジュカイン ◯――✕ クリムガン
ジュカイン ✕――◯ ガブリアス
ブラッキー ✕――✕ ガブリアス
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