ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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忍び寄る影と、水の刃

 

 シュートスタジアムを揺るがしたカイリュー同士の壮絶な同族対決は、カグヤのカイリューの執念の勝利という形で幕を閉じた。

 満身創痍となりながらも自力で立ち上がり、勝利をもぎ取った相棒の姿に、カグヤは大きく息を吐き出しながら安堵の笑みを浮かべる。

「よくやってくれた……! ゆっくり休んでくれ、カイリュー」

 カグヤがボールを向け、深い労いの光とともにカイリューを回収する。これで手持ちの消耗は激しいものの、カグヤ側は着実にアイリスの戦力を削り取っていた。残るアイリスの手持ちは、あと3体。

 

 一方、手痛いエースの敗北を喫したアイリスだったが、その表情に焦りの色は微塵もない。むしろ、強敵との全力勝負を楽しんでいるかのように、その瞳を一層輝かせながら新たなモンスターボールを手に取っていた。

「すごいよカグヤ、本当に強いトレーナーになったんだね! でも、ここからがドラゴンマスターの本当の底力だよ。いけっ、ヌメルゴン!」

 アイリスが力強く投げ放ったボールから現れたのは、淡い紫色を帯びた粘着質の巨体に、愛嬌がありながらも底知れない威圧感を漂わせるドラゴン、ヌメルゴンだった。

 フィールドに降り立ったヌメルゴンは、のんびりと触手を揺らしながらも、周囲の水分を微かに集めるような特殊なオーラを静かに放ち始める。

「ヌメルゴンか……特殊耐久が高いうえに、粘り強い厄介な相手だ。なら、こっちの切り札で一気に畳み掛ける!」

 カグヤが手にしたのは、忍者のような素早さと多彩な戦術を誇る水・悪タイプの切り札、ゲッコウガのボールだった。

 「シュウッ……!」

 鮮やかな身のこなしでフィールドに降り立ったゲッコウガは、低い姿勢で鋭い眼光をヌメルゴンへと据える。

 

「いっくよー! ヌメルゴン、『れいとうビーム』!」

 アイリスの号令に合わせ、ヌメルゴンが口元から強烈な冷気のビームを直線状に放ち放つ。

 しかし、ゲッコウガはその速度を完全に置き去りにするような圧倒的な俊敏性で、地面を蹴って軽やかに跳躍した。ビームが掠めた地面が瞬く間に凍り付くが、ゲッコウガの姿はすでに空中へと消えている。

「早いね! でも、それなら……!」

「かまわない、ゲッコウガ、『みずしゅりけん』だ!」

 空中で体勢を反転させたゲッコウガの手元で、背中に背負った水の膜が圧縮され、鋭い手裏剣の形へと一瞬で変化する。

 ゲッコウガが両手を振るうと同時に、幾重もの水の手裏剣が回転しながら猛スピードでヌメルゴンへと飛翔した。

 ズシャァァァンッ!!

 連続で叩き込まれた水の手裏剣がヌメルゴンの巨体を切り裂き、水飛沫と冷気がフィールドのあちこちに飛び散る。

 特殊耐久に優れたヌメルゴンも、至近距離から放たれたゲッコウガの連続水技の前に、たまらず大きく体勢を崩した。

「すごい……! カグヤのゲッコウガのスピードと手数は、ヌメルゴンの粘り強さすら上回っているわ!」

 観客席の最前線で、シオンが鋭い分析の声を漏らす。

 その隣でナオも「このまま一気に押し切れるかも……! がんばれ、ゲッコウガ!」と両手を握り締めて声援を送った。

 

 だが、ドラゴンマスターであるアイリスが繰り出すポケモンが、ここで沈むはずもなかった。

「まだだよ! ヌメルゴン、『あまごい』からの『ハイドロポンプ』!」

 アイリスの力強い指示に合わせ、ヌメルゴンが頭上の天蓋に向けてエネルギーを放つ。瞬間、スタジアムの上空に人工的な雨雲が形成され、激しい雨がフィールドへと降り注ぎ始めた。

 雨の恩恵を受けたヌメルゴンは、その巨体に似合わぬ凄まじい水圧を纏ったハイドロポンプをゲッコウガへと浴びせかける。

「ぐっ……! 雨で威力が跳ね上がったか……! ゲッコウガ、影縫いだ、回避しつつ翻弄しろ!」

 カグヤの鋭い指示を受け、ゲッコウガは降り注ぐ雨粒を足場にするかのように変幻自在のステップで水流の奔流を紙一重でかわしていく。

 水と影が交錯する極限のスピード勝負。ゲッコウガは相手の懐へと潜り込むと、背後に影を引くような巧みな身のこなしから、渾身の『れいとうビーム』を至近距離でヌメルゴンの体表へと叩き込んだ。

 バリバリバリッ……!!

 極寒の冷気がヌメルゴンの粘着質な巨体を一気に凍り付かせ、動きを完全に封じ込める。

「今だ、ゲッコウガ! 『いあいぎり』!」

 カグヤの最終号令とともに、ゲッコウガの手元に鋭く研ぎ澄まされた水の刃が顕現する。

 一閃の光が雨雲を切り裂くように走り抜け、氷結したヌメルゴンの巨体を鮮やかに両断した。

 ドスッ……!

 凍り付いた巨体が地面に崩れ落ち、ヌメルゴンはそのまま意識を失って倒れ伏した。

 

「ヌメルゴン、戦闘不能! 勝者、カグヤのゲッコウガ!」

 審判のフラッグが高々と掲げられ、スタジアムはこの日一番の歓声に包まれる。

 忍者のような圧倒的な機動力と戦術眼で、カグヤのゲッコウガが見事に難敵ヌメルゴンを撃破したのだった。

 




【カグヤ】      【アイリス】
ジュカイン ◯――✕ クリムガン
ジュカイン ✕――◯ ガブリアス
ブラッキー ✕――✕ ガブリアス
カイリュー ◯――✕ カイリュー
ゲッコウガ ◯――✕ ヌメルゴン
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