ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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氷の女王、その圧倒的なる冷厳

 

 シュートスタジアムに降り注いだ人工の雨が、激しい熱気を受けてうっすらと蒸発していく。ヌメルゴンを鮮やかなコンビネーションで撃破したゲッコウガの姿を見据えながら、カグヤはわずかに息を整えた。

 これでアイリスの手持ちは残り2体。激闘の果てに、戦局は確実に終盤へと差し掛かっていた。しかし、対するイッシュの頂点――ドラゴンマスター・アイリスの顔には、依然として余裕の笑みと、さらなる高みを目指すような底知れない闘志が宿っている。

 

「すごいなぁ、カグヤのゲッコウガ、本当に速くて手強いよ! だけど、ここからが本当の試練だからね。あたしの誇る最強のパートナー、この子に行き先を教えてもらいましょう!」

 アイリスが大きく振りかぶって投げ放った最後のモンスターボールから、それまでのどのポケモンルアーをも凌駕する、圧倒的な気品と冷厳なオーラを纏った光が解き放たれた。

 「シャァァァ――ッ!!」

 地を這うような冷気が周囲の空気を瞬時に凍り付かせる。

 現れたのは、優美かつ凶暴な蒼き竜の体躯に、頭部と背中を覆う美しい氷の冠を戴いた伝説のポケモン、キュレムだった。

 フィールドに降り立った瞬間から、スタジアムの温度が数度も急激に低下し、観客席のあちこちから「うわっ、寒っ……!」「あれがアイリスの隠し札……!」と驚愕の声とどよめきが巻き起こる。

「……キュレム、だと……!?」

 カグヤは思わず目を見張り、冷たい息を白く染めながら身構えた。

 イッシュ地方の伝承に語り継がれる巨獣であり、あらゆるものを凍てつかせる絶対零度の力を宿したドラゴン。ドラゴンマスターと呼ばれるアイリスが隠し持っていた真の切り札が、ついにその圧倒的な姿を現したのだ。

 観客席の最前線で戦況を見守っていたシオンも、急激な温度変化に軽く身震いをしながら、素早くタブレットに指を滑らせて分析を始めた。

「嘘……キュレムを引っ提げていたなんて聞いていないわよ。特殊攻撃の威力も、氷とドラゴンの複合タイプとしての制圧力も、今までの相手とは次元が違うわ……! カグヤ、まともに食らったら一撃で持ってかれるわよ!」

「シオンちゃんの言う通りやねぇ。あの凍てつく冷気、まるでうちの熱い想いをシャットアウトする氷の壁のようやわ。……あ、でもキュレムの冷たさを逆手にとって、二人で寄り添う暖かな新婚生活のシミュレーションをしておくべきかしら?」

「戦闘の真っ最中にどこまで脳内ウェディングを進めてるんだよ……!」

 相変わらずの調子でボケを挟むマリアンヌに、カグヤの鋭いツッコミが飛ぶ。しかし、その背筋に走る緊張感は本物だった。キュレムの放つプレッシャーは、これまでのどんな強敵をも上回るほどの重圧感を纏っている。

 

「いっくよー! キュレム、『ふぶき』で一気に景色ごと冷え込ませちゃって!」

 アイリスの弾けるような、それでいて容赦のない号令が響く。

 キュレムがゆっくりと巨大な顎を持ち上げると、その口元から周囲の水分を一瞬で凍結させるような猛烈な吹雪の奔流が巻き起こった。

「させるか! ゲッコウガ、スピードで翻弄しつつ『かわらわり』だ!」

 カグヤの指示を受け、ゲッコウガは凄まじい俊敏性で地面を蹴り、猛吹雪の隙間を縫うようにして跳躍する。氷の牙を避けてキュレムの懐へと一気に肉薄し、鋭く構えた手刀を相手の硬質な装甲へと叩き込もうとした。

 だが――。

「甘いよ! キュレム、『ドラゴンクロー』で叩き落として!」

 アイリスの指示に呼応したキュレムは、巨体に似合わぬ驚異的な初動の速さで巨大な腕を翻す。凍てつく竜の爪が、ゲッコウガの予測を完全に置き去りにする軌道で閃いた。

 ガキィィィンッ!!

「ぐっ……!?」

 ゲッコウガが放った手刀の直撃の前に、キュレムの纏う冷気の障壁が圧倒的な重みとなって重くのしかかる。逆にキュレムの冷酷な一撃がゲッコウガの体を捉え、鮮やかな水色の残像を残しながらゲッコウガの体が大きく弾き飛ばされた。

 ドサッ、と地面を転がったゲッコウガが、辛うじて片膝をついて立ち上がるものの、その全身の表面にはうっすらと白い氷の結晶がこびりつき、明らかに動きが鈍くなっている。

「ゲッコウガ……っ!」

 カグヤが歯をくいしばる。キュレムの圧倒的な冷気とパワーの前に、忍者のような手数を誇るゲッコウガですさえ、徐々にその自由を奪われつつあった。

「すごい……! ゲッコウガの機動力を、キュレムの放つ絶対零度の冷気そのもので封じ込めているわ。圧倒的な力の差ね……!」

 観客席でナオが「ゲッコウガ、負けないで……!」と祈るようにタオルを握りしめる中、アイリスは満面の笑みを浮かべながらさらに追撃の構えを見せる。

「どうしたのカグヤ、あなたのバトルはそんなもんじゃないでしょ! キュレム、トドメの『れいとうビーム』!」

 キュレムの巨大な双眸が青白く光り輝き、全身の冷気を一点に集中させた極太の光線が、逃げ場のないゲッコウガめがけて放たれた。世界を凍てつかせる絶対零度の閃光が、一瞬にしてスタジアムの空間を切り裂いていく。

 




【カグヤ】      【アイリス】
ジュカイン ◯――✕ クリムガン
ジュカイン ✕――◯ ガブリアス
ブラッキー ✕――✕ ガブリアス
カイリュー ◯――✕ カイリュー
ゲッコウガ ◯――✕ ヌメルゴン
ゲッコウガ  ――  キュレム
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