ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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鋼の巨翼と竜の牙、頂上決戦の果て

 

 シュートスタジアムのフィールドに立ち込めていた激しい爆発の煙が、上空の風に流されてゆっくりと晴れていく。

 キュレムとの死闘の果てにルカリオが倒れ、カグヤの手持ちは瀕死寸前のカイリューを含めて残り2体。実質あと1体である。そしてアイリスの手持ちもまた、最後の1体を残すのみとなった。互いに退路を断たれたワールド・チャンピオンズ・トーナメント2回戦は、ついに文字通りの大将戦へと突入する。

 

「すごいよカグヤ……! キュレムまで倒しちゃうなんて、本当に驚かされたよ。でも、あたしたちの誇りにかけて、ここで負けるわけにはいかないんだから!」

 アイリスが最後のモンスターボールを力強く握り締め、楽しそうに、そしてどこまでも鋭い闘志を宿した瞳で前方を睨みつける。

 その手から放たれたまばゆい光の中から姿を現したのは、イッシュ地方の頂点を共に駆け抜けてきたアイリスの相棒にして、最強の牙を持つドラゴン、オノノクスだった。

 「ガァァァ――ッ!!」

 大地を揺るがすような凄まじい咆哮とともに、オノノクスの両頬に生えた黄金色の巨大な斧のような牙が、冷たいスタジアムの照明を浴びて鋭く光り輝く。圧倒的な攻撃力と、全てを両断する破壊の気迫がフィールド全体を激しく震わせた。

「最後の最後に出てきたのは、アイリスの相棒のオノノクスか……! なら、こっちの切り札もこいつしかいない!」

 カグヤは深く息を吸い込むと、しっかりと手元のボールを握りしめ、鮮やかな軌道を描かせてフィールドへと投げ放った。

 「ハサッ!」

 重厚な金属音が響き渡り、赤く輝く硬質な装甲と、ハサミの如き巨大な両腕を備えた鋼と虫の勇者、ハッサムが降り立った。

 満身創痍の激闘を潜り抜けてきたハッサムの赤いボディには無数の傷痕が刻まれているが、その双眸には一歩も引かない強い意志と鋭い闘気がみなぎっている。

 観客席の最前線で、シオンが息を呑みながら鋭い分析の声を上げた。

「最後のカードはハッサムね……! オノノクスの凄まじい攻撃力は脅威だけど、ハッサムの優れた鋼の耐性と先手を取る機動力があれば、十分に勝機はあるわ!」

「シオンちゃんの言う通りやねぇ。最後の最後を任されたハッサムはんが勝てば、いよいよ栄光の未来が現実のものになるわぁ。……あ、優勝記念の指輪のサイズ、何号がいいか今から調べておかんと」

「戦闘のクライマックスに婚活の準備を進めるな!」

 シオンの的確な解説の横で相変わらずの調子を見せるマリアンヌのボケに、カグヤの鋭いツッコミが綺麗に響く。しかし、その直後、フィールドの空気がピタリと静まり返った。互いの命運をかけた、本当の最終決戦が始まろうとしていた。

 

「いっくよー! オノノクス、『げきりん』で一気に粉砕して!」

 アイリスの号令と同時に、オノノクスの全身から禍々しくも圧倒的な竜のオーラが爆発的に噴き出す。

 理性を超越した最速かつ最強の連続攻撃が、嵐のような勢いでハッサムへと襲いかかった。

「受けて立つぞ! ハッサム、『バレットパンチ』で迎え撃て!」

 カグヤの魂の号令に合わせ、ハッサムの全身の装甲がメタリックな光を纏う。

 凄まじい加速力を乗せたハッサムの拳が、オノノクスの牙のラッシュと正面から激突した。

 ガキィィィンッ!! ズガガガガッ!!

 金属と牙が打ち付け合う激しい衝撃音と火花が、スタジアムの夜空に幾重もの軌跡を描く。

 一撃ごとに互いの体力が削られ、周囲の地面が崩れ落ちる極限の削り合い。しかし、オノノクスの放つ『げきりん』の猛攻は衰えることを知らず、ハッサムの鋼の装甲を確実に追い詰めていく。

「オノノクス、負けないで! 全力で押し切るよ、『ドラゴンクロー』!」

「負けるか……! ハッサム、すべてを掛けろ、『シザークロス』!」

 両者の絶叫が重なり合い、両者の命運を握る最後の一撃が放たれる。

 勝負は一瞬。

 オノノクスの両頬に輝く巨大な斧の牙が青白い竜の闘気を纏って振り下ろされ、それに対抗するようにハッサムの両腕のシザークロスが真っ向から交錯した。

 ズガァァァァンッ!!!

 シュートスタジアムのドーム全体が大きく揺れ動き、耳をつんざくような爆発音とともに凄まじい衝撃波が観客席のフェンスまで吹き抜ける。圧倒的な閃光がフィールドを完全に包み込み、誰もが息を呑んでその結末を見つめた。

 

 やがて、もうもうと立ち込めていた白煙と砂塵がゆっくりと晴れていく。

 そこに映し出された光景に、スタジアム全体の時間が止まったかのような静寂が訪れた。

 フィールドの中心。

 オノノクスの巨大な巨体がガクリと膝をつき、そのまま大きく横たわって完全に意識を失っている。

 そしてそのわずか数歩先――ハッサムもまた、全身の装甲から激しい火花を散らしながら、その場に崩れ落ちそうになっていた。

「ハッサム……っ!」

 カグヤが息を詰まらせて駆け寄ろうとしたその瞬間、ハッサムは最後の意地と執念を振り絞り、ガリリと地面にハサミを突き立てて、どうにかその巨体を支えて踏み留まった。決して倒れないという圧倒的な闘志の勝利だった。

 

「オノノクス、戦闘不能! 勝者、カグヤとハッサム!!」

 審判のフラッグがカグヤ側へと高々と振り下ろされた瞬間、シュートスタジアムを割るような絶叫と、地鳴りのような大歓声が爆発した。

 観客席でナオが「やったぁぁぁ、勝ったぁぁぁ……!!」と涙を浮かべて飛び跳ね、シオンも胸を撫で下ろしながら微かに笑みを浮かべる。マリアンヌは「流石はうちの……いや、カグヤはんの晴れ舞台どすえ!」と優雅に拍手を送った。

 ワールド・チャンピオンズ・トーナメント2回戦。

 ドラゴンマスター・アイリスとの壮絶なる激闘の末、カグヤはすべての死闘を制し、準決勝への扉を開いたのだった。




【カグヤ】      【アイリス】
ジュカイン ◯――✕ クリムガン
ジュカイン ✕――◯ ガブリアス
ブラッキー ✕――✕ ガブリアス
カイリュー ◯――✕ カイリュー
ゲッコウガ ◯――✕ ヌメルゴン
ゲッコウガ ✕――◯ キュレム
メガルカリオ✕――✕ キュレム
ハッサム  ◯――✕ オノノクス
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