ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

163 / 163
蒼き傷跡と、誇り高き鼓動

 

 シュートシティの大型ポケモンセンター。その地下深く、厳重なセキュリティと最先端の医療設備が施された特別集中治療室には、世界最高峰のトーナメントを駆け抜けた者たちだけが纏う、独特の静けさと緊密な空気が満ちていた。

 アイリスとの激闘――あの死闘の果てに満身創痍となったカグヤのポケモンたちが、それぞれのカプセルや専用のリカバリーベッドで深い眠りに就き、あるいは静かに傷を癒やしている。人工の微香が漂う清潔な空間には、生命維持装置や治療カプセルの規則正しい電子音と、傷ついた巨体が奏でる重厚な寝息だけが響いていた。

 

 一番手前の広々としたベッドスペース。そこには、大将戦の終盤でオノノクスの猛攻と激突し、全身に深い傷を負ったハッサムが横たわっていた。

 特殊な修復ジェルが塗布された硬質な赤い装甲のあちこちに痛々しい亀裂が走っているが、その胸の刻印は今なお誇らしく脈打っている。

 その隣に設置されたリカバリールームでは、キュレムの絶対零度の冷気と壮絶な肉弾戦を耐え抜いたルカリオが、カプセルのなかで深い瞑想状態に入り、乱れた波動の波長を懸命に整えていた。

 ――やがて、静寂を切り裂くように、ルカリオがゆっくりと重い瞼を開いた。

『ルカッ……(ふう……。相変わらず、派手にやられたものだな、ゲッコウガ)』

 低く響く、しかしどこか晴れやかな声でルカリオが呟きながら上半身を起こすと、その隣のベッドから、青い水流を模した特殊な冷却シートの上で寛いでいたゲッコウガが、ヒュッと小さく鼻を鳴らした。

『ケロ……(お前こそ、メガシンカの反動ですべての力を使い果たしていたくせによく言うぜ)』

『ルカッ……(まあ、お互い様さ。だが、この全身を焼くような痛みも悪くない。俺たちがそれだけの死闘を潜り抜け、勝利を掴み取った証拠だからな)』

 ルカリオは自らの両手を握り締め、体内に残る微かな痛みを噛みしめるように力強く頷いた。

 言葉はなくとも、幾度もの修羅場を共にしてきた相棒同士、その深い眼差しだけで互いの労苦を十分に分かち合う。ハッサムもまた、ベッドの上で静かに頷き、その赤く輝く双眸に鋭い光を宿した。

 この3体――ハッサム、ルカリオ、ゲッコウガにとって、次の準決勝の相手であるアラン、そしてその相場であるメガリザードンXは、かつてカロスリーグの準々決勝で目の当たりにし、打ち砕かれた「因縁の壁」そのものだった。あの日の悔しさを誰よりも肌で知っているからこそ、彼らの胸中にある闘志は人一倍熱く燃え盛っている。

 

 一方で、部屋の奥に広がる大型のウォーター&アイスプールからは、カイリューが巨体を揺らしながらザプンと水面から頭をもたげた。

『リュゥ……(ふぅ、いい水加減だ。アイリスの連中もなかなか骨のある連中だったよ……)』

 笑い声をあげるカイリューだが、その声音の奥には、どこか割り切れない悔しさが混じっていた。彼にとって、カロスリーグでのアラン戦は、仲間が散るのをただ見ることしか出来なかったという悔しさしか残らなかった。だからこそ、アランとの再戦には並々ならぬ思いを抱えていた。

 そして、それはカロスリーグで控えだった他のメンバーも同じである。カイリューの隣で、漆黒の毛並みに月光のようなリングを湛えたブラッキーが、鋭い三日月型の瞳を静かに伏せる。

『ブラッ……(あの時俺たちは、カロスでの敗戦をただベンチから見ていることしかできなかった……)』

『ビーッ……(そうだ。俺たちのこの針と毒を、あのクソッタレなリザードンやメタグロスに叩き込んでやりたくて、当時からずっとウズウズしていた)』

 スピアーが鋭い双針をカチリと合わせながら吐き捨てるように言う。ジュカインもまた、口元にいつもの草の茎をくわえたまま、悔しげに拳を握り締めた。

『ジュカ……(あの時の無念を晴らすのは、何もハッサムたちだけの特権じゃない。俺たちだって、あの日のリザードンに一矢報えなかった悔しさを、この胸にずっと溜め込んできたんだ)』

 

 長年カグヤを支えてきた古参のポケモンたちがそれぞれに闘志をぎらつかせる中、部屋の端にある重厚な水流カプセルから、圧倒的な防御力と重量感を誇るカメックスがガシリと力強く拳を突き出した。

『カメッ……(俺はマホロバでカグヤの仲間になったから、カロスでのアラン戦の悔しさは直接知らない。だけど……カグヤが背負ってきた過去の痛みも、このチームの絆も、俺には痛いほどよく分かる。だからこそ、俺は俺のやり方で、カグヤの夢を叶えるために暴れてやる!)』

 カメックスの力強い言葉に、部屋全体の空気が一気に引き締まる。

 

 かつて敗れ去った者たちの執念と、新たに加わった仲間の頼もしい気迫。そのすべてが混ざり合い、カグヤのポケモンたちの胸に宿る闘志の炎は、治療の痛みを完全に凌駕して、消えることのない熱い光を放ち続けていた。

 世界最高の舞台、準決勝の壁として立ちはだかるのは、アランとメガリザードンX。

 過去の雪辱を果たすため、そして全員で最強の頂点へ辿り着くため、誇り高き相棒たちは万全の静けさの中で、その牙と翼を再び鋭く研ぎ澄ませていくのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

サトシ君(転生者)の目指せ、ポケモンマスター!!(作者:DestinyImpulse)(原作:ポケットモンスター)

▼ 転生したのはオリ主でもモブでもなく紛れもなく主人公。▼ 定期的に世界を救わなくてはならない大役を背負いながらも、ポケモンとの出会いと冒険に胸を躍らせる。▼ ▼「通りすがりのポケモントレーナーだ、覚えておけ!ピカチュウ、君に決めた!!」▼「ピカチュウ!!」▼ コレはアニポケ主人公のサトシに転生した少年が、時にポケモンと絆を深め、時に女の子とのフラグを作り、…


総合評価:8480/評価:8.59/連載:72話/更新日時:2026年10月02日(金) 19:30 小説情報

俺、サトシになってました(笑)(作者:黒ソニア)(原作:ポケットモンスター)

気がついたらアニポケの主人公:マサラタウンのサトシに転生した平凡な一般人。▼転生憑依したものの、アニポケと全く異なる展開に戸惑ったり、様々なトラブルに遭遇したり……甘酸っぱい青春を送ったりする。▼そんな彼が頑張って『ポケモンマスター』を目指す物語だ。▼作者はポケモンにわか初心レベルなので、ご了承下さい。


総合評価:11596/評価:8.49/連載:125話/更新日時:2026年10月02日(金) 06:00 小説情報

ポケットモンスター:オーバー・ザ・レジェンド(作者:ガチャガチャクツワムシ)(原作:ポケットモンスター)

サトシと同期の5人目の新人トレーナーとして主人公が旅に出て成長していく物語。▼オリジナルキャラが多めに出る上、原作キャラの強化もしようと考えています。▼生成AI使用して作成してします。


総合評価:163/評価:6.25/連載:154話/更新日時:2026年10月02日(金) 19:01 小説情報

アニポケ転生者物語(作者:投稿者)(原作:ポケットモンスター)

物心ついた時、主人公はこの世界がアニメ『ポケットモンスター』の世界だと気づいた。▼リーグ制覇や最強を目指すつもりはない。ただ、この世界の空気を吸い、ポケモンたちと触れ合う「エンジョイ勢」として生きていきたい。▼そう思っていたはずが、旅立ちの日に母から託されたのは、シルフカンパニー製の試作デバイスと、データ収集用のポケモン「ポリゴン」。▼オーキド博士から貰った…


総合評価:1910/評価:7.32/連載:351話/更新日時:2026年08月10日(月) 18:44 小説情報

ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話(作者:葛城)(オリジナル:現代/日常)

▼ その日、1人の男がめっちゃ美女な神様の手で転生した▼ なんでも、色々あって3徹していたせいでテンションおかしくなっていた時に、うっかり爆走させていた黒塗りの高級車で跳ね飛ばしてしまったお詫びらしい▼ 男には、未練などなかった。しかし、危機感はあった▼ 記憶を持ったまま転生させてくれるのは有り難いが、骨の髄まで現代っ子である男にとって、毎日風呂に入れないよ…


総合評価:19751/評価:7.73/連載:333話/更新日時:2026年09月28日(月) 12:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>