ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
シュートスタジアムの砂嵐がわずかに薄れかけたフィールドに、凄まじい高周波の羽音を響かせながら降臨したのは、鋭い双針を携えたスピアーだった。
カロスでの敗北をベンチから見つめ続け、サトシのピカチュウによる過酷な特訓を経て牙を研ぎ澄ませてきた古参の猛者。研ぎ澄まされたスピード、そして毒の技術でアランの要塞に挑む構えだ。
アランは鋭い眼光を向けながら、毒に侵されたバンギラスの様子を一瞥した。紫色の斑点は確実に巨獣の体力を蝕んでいるが、それでもなお絶対王者の威圧感は衰えていない。
「行け、スピアー! 相手の巨体に惑わされるな、スピードで翻弄しつつ『どくづき』だ!」
カグヤの澄み切った号令が響いた瞬間、スピアーの姿がかき消えた。
通常の姿であっても、その飛行速度は目にも留まらぬ神速の領域に達している。砂塵の残る空間を文字通り滑るように駆け抜け、バンギラスの死角である巨体の懐へと一瞬にして潜り込む。
「甘い! バンギラス、『かみくだく』で迎撃しろ!」
アランの指示に合わせ、バンギラスが猛毒の苦しみを押し殺して巨体を旋回させ、漆黒の牙を大きく見開いて噛みつきにかかる。重量級の巨躯から繰り出される一撃は、掠めただけでも致命傷になり得るほどの破壊力を持っていた。
しかし、スピアーの動きはその予測の遥か上を行っていた。
直前でふわりと軌道を変えたスピアーは、バンギラスの噛みつきを紙一重でかわし、その硬質な外皮の隙間へ向かって、紫色の毒のエネルギーを纏わせた鋭い右の双針を容赦なく突き入れた。
「ガァッ……!」
バンギラスの巨体が苦悶の声を漏らし、凄まじい衝撃に大きくよろめく。毒針から直接流れ込んだ猛毒が、先ほどのブラッキーが与えたものと相まって、バンギラスの体力を一気に限界へと追い詰めていく。
「追撃だ、スピアー! 『シザークロス』!」
一息に畳みかけるカグヤの指示を受け、スピアーは空中から鮮やかな軌跡を描きながら急降下する。両腕の双針を十字に交差させ、バンギラスの頑強な胸元へと強烈な一撃を叩き込んだ。
激しい金属音と閃光が弾け飛び、ついにバンギラスの巨体が耐えきれずに対戦フィールドの床へと崩れ落ちる。起き上がろうと四肢を踏ん張るが、すでにその目に光はない。
「バンギラス、戦闘不能! スピアーの勝ち!」
主審の力強いコールが、シュートスタジアムの観客席に大きなどよめきを巻き起こした。
アランの誇る重厚な要塞の一角が、スピアーの圧倒的なスピードと毒の連撃によって、見事に崩壊させられた瞬間だった。
「戻れ、バンギラス。……よくやってくれた」
アランは静かにボールを向け、苦しみながらも戦い抜いた相棒を回収した。その表情に焦りはないが、カグヤのチームが積み上げてきた緻密な戦術と個々の仕上がりの良さに、わずかに険しい色を宿す。
カグヤは静かに息をつき、空中を軽やかにホバリングするスピアーを見上げた。ブラッキーが蒔いた楔を、スピアーが完璧な速度で突き刺し、初戦の主導権を引き戻したのだ。
「さあ、次は何が出てくるか……!」
世界王者を決める準決勝の舞台は、早くも次なる局面へと突入しようとしていた。
【カグヤ】 【アラン】
ブラッキー ✕――◯ バンギラス
スピアー ◯――✕ バンギラス