ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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雪猫の疾風、巨竜の迎撃

 

 シュートスタジアムの空気を一変させるような、凍てつく冷気がフィールドを包み込んでいた。

 アランが新たに繰り出した3体目のポケモン――それは、全身を漆黒の毛並みと鮮やかな紅の体毛に包まれ、鋭い鍵爪と冷酷な眼光を持つ俊足のハンター、マニューラだった。氷と悪の属性を併せ持つこのスピードスターは、フィールドに降り立つやいなや、まるで周囲の熱をすべて奪い去るかのような圧倒的なプレッシャーを放ち始めた。

「マニューラか……! カイリューにとって、氷タイプは最も相性が悪い致命的な弱点だ。だが、圧倒的な物量と耐久力でそのスピードを押し切るぞ!」

 カグヤは瞬時に相性不利を判断しながらも、ここでカイリューを下げる選択肢は選ばなかった。マホロバでのディラン戦をはじめ、数々の修羅場をその巨大な翼と分厚い筋肉で乗り越えてきた絶大な信頼があるからこそ、カグヤは真っ向から迎え撃つ道を選んだのだ。

「いけるか、カイリュー!」

「きゅ、う……っ!」

 主の呼びかけに応えるように、カイリューは巨体を一段と大きく見せ、力強く頷いて一歩前に踏み出す。その全身からみなぎる闘志は、相性の不利など微塵も感じさせないほどの重厚な威圧感を放っていた。

 

「甘いな、カグヤ。相性が不利と分かっていて居座るとは、お前の甘さが命取りになるぞ。マニューラ、『冷凍パンチ』だ!」

 アランの冷徹な号令が響いた瞬間、マニューラの姿がかき消えた。

 あまりの神速に、人間の目ではその軌道を追うことすら不可能だった。一瞬にしてカイリューの懐へと飛び込んだマニューラは、極限まで冷却された青白く輝く拳を振り上げ、カイリューの頑強な胸元へと叩き込む。

 バキィィンッ!! と、氷が粉々に砕け散るような激しい音とともに、強烈な冷気がカイリューの巨体を容赦なく襲った。

「ぐっ……!」

 さすがのカイリューも、4倍弱点となる氷の拳を真正面から受け止め、その巨体が後方へと大きくのけ反る。分厚い氷の結晶がカイリューの皮膚を凍てつかせ、全身の動きを鈍らせようと猛威を振るうが、カイリューは持ち前の驚異的な生命力と圧倒的な基礎耐久力で、その場を踏み止まり、倒れることだけは拒絶した。

「耐えた……!? あのマニューラの『冷凍パンチ』を直撃しながら、まだ倒れないというのか!」

 アランの口元から、流石に隠しきれない驚愕の色が漏れ出た。

 マニューラの攻撃力と素早さは、世界大会の舞台でもトップクラスの破壊力を誇る。相性不利の相手であれば、一撃でマットに沈めるだけの威力が確実にあるはずだった。それを正面から耐え抜いたカイリューの異常なまでのタフネスに、観客席からもどよめきの声が沸き起こる。

 

「よくやった、カイリュー! そのまま押し返せ、『ほのおのパンチ』だ!」

 カグヤの鋭い指示を受け、カイリューは凍りついた腕を力任せに振り上げ、猛烈な熱量を宿した灼熱の拳をマニューラへと叩きつけようと繰り出した。

 しかし、百戦錬磨のマニューラはその巨体の反撃を読んでいたかのように、ふわりと軽やかに後方へと身を翻し、カイリューの拳を完璧に紙一重でかわし切る。

「速い……! 当たらないか!」

「動きが読めているうちは、お前のカイリューに勝機はない。マニューラ、追撃の『つららばり』だ!」

 アランの冷徹な追撃の号令に合わせ、マニューラは空中へと跳ね上がり、連続して鋭い氷の針を弾丸のように放ち始めた。

 無数の氷柱が雨あられのようにカイリューへと降り注ぎ、その巨体に次々と突き刺さる。直撃のダメージこそ先ほどの冷凍パンチほどではないものの、確実にカイリューの体力を削り取り、さらにその巨体を縛り付けるように自由を奪っていく。

 

 スタジアムの観客席では、ナオやシオンが固唾を呑んで戦況を見守り、仲間であるルカリオやゲッコウガも、次の展開に備えて全身の筋肉を緊張させていた。

「ここでマニューラのペースに完全に握られてはまずい……。カイリュー、一度距離を取って立て直すんだ!」

 カグヤが冷静に状況を分析し、指示を飛ばそうとしたその瞬間だった。

 マニューラはさらなる畳みかけを見せるべく、鋭い鍵爪を青白く光らせて再び凄まじいスピードで突進してきた。その狙いは、動きの鈍くなったカイリューの急所を完全に捉えることにある。

「逃がさない。一気に決める。『じごくづき』だ!」

 マニューラの拳が邪悪な悪のオーラを纏い、カイリューの喉元めがけて突き刺さろうとする。このままでは、いくら頑丈なカイリューといえども致命的なダメージは免れない。

「――そこだ、カイリュー! 腕を掴め、『ドラゴンクロー』で捉えろ!」

 カグヤの研ぎ澄まされた叫び声が、一瞬の静寂を切り裂いた。

 誰もがマニューラの圧倒的なスピードに押し切られると思ったそのコンマ数秒、カイリューはあえて自らの巨体を前に進め、マニューラの突進の勢いを利用するように巨大な腕を大きく広げた。

 

「なに……!?」

 アランの目が見開かれる。

 圧倒的なスピードを誇るマニューラであっても、突進の軌道上から自ら飛び込んできたカイリューの巨大な掌を避けることはできなかった。ガシッ、と鈍い音が響き、カイリューの分厚い両手がマニューラの小さな体をまるで万力のようにガッチリと掴み捕る。

「捕まえたぞ……! カイリュー、そのまま地面へ叩きつけろ!」

 カイリューの怒涛の咆哮がシュートスタジアムの天井を揺らす。

 相性不利の絶望的な状況から、絶対的なパワーと執念で掴み取った一瞬のチャンス。世界王者の牙城を揺るがすための反撃の狼煙が、今、激しく鳴り響こうとしていたのだった。

 




【カグヤ】      【アラン】
ブラッキー ✕――◯ バンギラス
スピアー  ◯――✕ バンギラス
スピアー  ✕――◯ メタグロス
カイリュー ◯――✕ メタグロス
カイリュー  ――  マニューラ
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