ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
シュートスタジアムの広大な競技場の中央で、圧倒的なスピードを誇るマニューラの小さな体が、カイリューの巨大な両手にガッチリと掴み捕られていた。
氷と悪の属性を宿す俊足のハンターにとって、自ら仕掛けた突進の勢いを利用される形で捕縛されるのは、想定外の事態だった。マニューラの紅い瞳にわずかな動揺の色が走る。
「捕まえたぞ……! カイリュー、そのまま地面へ叩きつけろ!」
カグヤの鋭く力強い号令に呼応するように、カイリューが凄まじい咆哮を轟かせた。
相性不利という圧倒的な逆境、そして『冷凍パンチ』による手痛いダメージを負いながらも、ここまで耐え抜いてきた執念の巨体が、まるで満月の弓を絞るかのように大きく反り返る。そして、掴んだマニューラをそのままの勢いで対戦フィールドの硬い床へと叩きつけた。
ドゴォォォンッ!! と、凄まじい地響きがスタジアム全体を激しく揺るがす。
叩きつけられた衝撃で周囲の砂塵が円形に吹き飛び、氷の結晶と砕けた瓦礫が四散した。
「ぐっ……!」
アランの口元から、わずかに苦渋の息が漏れ出る。
しかし、百戦錬磨のマニューラはただでは転ばない。地面に激突する直前、その鋭い鍵爪をカイリューの腕に深く食い込ませ、強烈な負荷を掛けながら素早く身を翻して後方へと跳び退いた。辛うじて致命的な追撃は免れたものの、その全身の毛並みは荒れ、呼吸は荒く乱れている。
「よくやった、カイリュー! だが、まだ油断するな。相手のスピードは衰えていない!」
「ふっ……上出来だな、カグヤ。相性の不利を覆すその執念、見事だ。だが、まだ終わらんぞ。マニューラ、『つららおとし』!」
アランの冷徹な号令に合わせ、マニューラが痛む体を奮い立たせて上空へと跳び上がる。
その頭上から、フィールドの空気を一瞬にして凍りつかせるほどの巨大な氷の塊が次々と生み出され、まるで隕石の雨のようにカイリューめがけて降り注いだ。
「まともに受けるな、カイリュー、『ほのおのパンチ』で撃ち砕け!」
カグヤの指示を受けたカイリューは、その巨体に似合わぬ俊敏な動きで両拳に灼熱の炎を纏わせると、上空から降り注ぐ巨大な氷の塊に向かって凄まじい勢いで突進した。
ガキンッ! ボゴォッ! と、次々と氷塊が拳の炎によって粉々に蒸発し、水蒸気の白煙がフィールドを包み込んでいく。
白煙の向こう側から、マニューラが氷の破片を背負いながら急降下し、最後の一撃を狙って鋭い爪を光らせた。
しかし、炎を纏ったカイリューのカウンターの拳が、その軌道を完全に先読みしていたかのように、マニューラの懐へと真っ直ぐに突き出される。
「くっ……!」
間一髪で回避しようとしたマニューラだったが、先ほどの地面への叩きつけによるダメージと疲労が足の動きをわずかに鈍らせていた。
灼熱の拳がかすめただけで、凄まじい熱量と衝撃波がマニューラの小さな体を吹き飛ばし、そのままフィールドの端へと激しく転がらせる。
「マニューラ、戦闘不能! カイリューの勝ち!」
主審の力強い宣言が、シュートスタジアムに響き渡った。
観客席からは、相性不利を跳ね返したカイリューの驚異的な粘りと、一進一退の攻防を繰り広げる両者の激闘に対して、割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こる。
「戻れ、マニューラ。よく戦ってくれた」
アランは静かにモンスターボールを向け、激闘の末に倒れた相棒を優しく回収した。その表情には悔しさよりもむしろ、この戦いを楽しんでいるかのような熱い闘志が満ちていた。
これでアランの手持ちは残り3体――リザードン、キリキザン、ファイアロー。
一方のカグヤの陣営は、ブラッキーとスピアーを失ったものの、カイリューはまだ健在であり、後ろにはゲッコウガ、ルカリオ、そしてハッサムが控えている。
「ふう……危なかったな、カイリュー。本当によく耐えてくれた」
「きゅ、う……!」
カグヤがホッと胸を撫で下ろし、カイリューもまた信頼の籠もった鳴き声を返して大きく頷く。
世界王者の座をかけた準決勝は、お互いの牙が剥き出しになる後半戦へと、さらに熱を帯びて突入していくのだった。
【カグヤ】 【アラン】
ブラッキー ✕――◯ バンギラス
スピアー ◯――✕ バンギラス
スピアー ✕――◯ メタグロス
カイリュー ◯――✕ メタグロス
カイリュー ◯――✕ マニューラ