ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
主審の終わりの合図が響いた瞬間、シュートスタジアムを包み込んでいた圧倒的な緊張の糸がプツリと音を立てて切れた。
カグヤの前に立ちふさがった最大の壁であるアランを打ち破り、決勝進出という歴史的な偉業を成し遂げた高揚感の裏腹で、カグヤの肉体はすでに限界を迎えようとしていた。ルカリオのメガ進化による激しい波動の共鳴、そしてゲッコウガとのシンクロ。二大特殊進化の負担を立て続けにその身に受け止めた反動が、一気に押し寄せてくる。
「はぁっ……はぁっ……、ふぅ……っ!」
立っているのがやっとという状態で、カグヤは両膝に手をつき、荒く乱れた息を必死に整えようとした。目の前がぐらりと揺らぎ、立っていられなくなるほどの凄まじい倦怠感と疲労感が全身を駆け巡る。
そんな主の異変に真っ先に気付いたのは、フィールドに踏み止まっていたゲッコウガだった。戦闘の反動で元の姿に戻ったゲッコウガは、ふらつくカグヤの姿を見ると、すぐに駆け寄ってそっとその華奢な体を支えるように肩を貸す。
「すまない、ゲッコウガ……。お前のおかげで、勝てた……な……」
カグヤが力なく笑みを浮かべ、相棒の頭を優しく撫でると、ゲッコウガは誇らしげに、しかしどこか心配そうな瞳で主を見上げた。
その直後、控えに戻っていたルカリオたちに加え、先ほどのキリキザン戦で満身創痍ながらも驚異的な働きを見せ、この試合の真のMVPに他ならないカイリューが、大きな翼をバサリと羽ばたかせながらドスンと着地する。さらにボールから飛び出してきたハッサムたちも一斉に駆け寄り、ボロボロになりながらも勝利を分かち合うようにカグヤの周りを取り囲んだ。
一方、観客席は沸騰したような大歓声に包まれていた。
ナオは両手で顔を覆いながらも、大粒の涙をポロポロとこぼし、スタンドの最前線で声を限りに叫んでいる。
「やった……! やったああぁぁぁ! 兄貴が、あのアランさんに勝ったぞおおっ!!」
その隣では、シオンが手元のタブレット端末をスピーディに操作しながらも、普段のクールな表情を崩してわずかに頬を紅潮させていた。
「見事なデータ予測の範疇を超える、魂の勝利ね……。カイリューの戦術的突破が全ての勝因よ。本当によくやったわ……!」
シオンは興奮を隠せない様子で小さくガッツポーズを作った。
そのすぐ傍らで、カグヤに押しかけて婚約者を名乗るマリアンヌは、京言葉の混じる優美な口調で、うっとりと胸元に手を当てていた。
「まぁ、カグヤはん……ほんまにお見事どす。あんなに素敵なお姿、うちのハートがどうかなりそう……。やっぱり、うちの選んだお方は世界一の男やわ」
潤んだ瞳でフィールドの真ん中に立つカグヤの背中を見つめ、マリアンヌは胸をときめかせていた。
フィールドの反対側。
崩れた瓦礫の中から立ち上がったアランは、手元に戻したリザードンのボールを静かに見つめ、そしてフラフラになりながらもポケモンたちに支えられているカグヤのほうへと目を向けた。その表情に悔しさの色はなく、むしろ清々しいほどの笑みが浮かんでいた。
「ふっ……見事だったな、カグヤ。まさかここまで追い詰められるとは……」
アランは歩み寄ると、疲労困憊でまともに立てていないカグヤの前に立ち、力強く右手を差し出した。
カグヤはその差し出された手を見上げ、息を整えながらも、震える右手をしっかりと握り返す。
「ありがとうございます、アランさん……。あなたとの戦いだったからこそ、僕たちも限界の先へ行けた……!」
「ああ。だが、これで終わりじゃない。お前は次、もっと高みへ行くんだろう?」
アランのその言葉に、カグヤは深く頷き返す。
最大の壁を撃破し、ついに手が届く位置まで迫った頂点。仲間たちの絆とすべての想いを背負い、カグヤはいよいよ栄光の決勝戦へと歩みを進めるのだった。
【カグヤ】 【アラン】
ブラッキー ✕――◯ バンギラス
スピアー ◯――✕ バンギラス
スピアー ✕――◯ メタグロス
カイリュー ◯――✕ メタグロス
カイリュー ◯――✕ マニューラ
ハッサム ✕――◯ キリキザン
カイリュー ◯――✕ キリキザン
メガルカリオ◯――✕ ファイアロー
ゲッコウガ ◯――✕ メガリザードンX