ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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受け継がれる眼差し

 

 シュートスタジアムの近くにある広々としたトレーニング施設。ガラル地方の澄んだ風が吹き抜ける中、決勝戦まであと3日と迫ったカグヤは、次の大一番に向けてポケモンたちと入念な調整を重ねていた。

 フィールドの隅で、カイリューやルカリオたちと息を合わせるように動くカグヤの背中を、少し離れた休憩スペースからじっと見つめる二つの影があった。

 アサメタウンから駆けつけたサトシとセレナだ。

「……カグヤ、動きにキレはあるけれど……少し無理をしているみたいね」

 セレナは手元に置いた水筒の蓋を閉めながら、心配そうに細い眉をひそめた。その隣で、サトシは大きく腕を組み、鋭い眼光のままフィールドの端で静かに佇む一匹のポケモンへと視線を注いでいる。

 それは、真紅の巨鋏を畳んでじっと壁にもたれかかっているハッサムだった。

「ああ。カグヤ自身は必死に前を向いてるから気づいてねぇが……あいつの様子、どこかおかしいぞ」

 サトシの言葉に、セレナも小さく頷いた。旅の初めからずっとカグヤやポケモンたちを見守ってきた親として、そして数々の修羅場をくぐり抜けてきたポケモントレーナーとして、二人はハッサムが纏う微細な違和感を敏感に察知していた。全盛期のような鋭い瞬発力が失われ、肉体の限界に耐えながら無理に立っているその姿は、痛々しいほどに痛切だった。

「ハッサム……。ずっとカグヤを支えてきた、チームの大黒柱だものね。きっと、今の自分の状態に誰よりも苦しんでいるのは、あのこ自身だわ」

 セレナが切なげに胸元で手を握り締めたその時、サトシはフッと息を吐き出すと、立ち上がってトレーニングフィールドへと真っ直ぐに歩き出した。

 

「おーい、カグヤ! ちょっと休憩だ! 親父の特製ドリンクでも飲んで、一息入れろ!」

 サトシの元気な声に、カグヤはハッと顔を上げ、驚いたように父親のほうへ駆け寄る。

「父さん、母さん……! どうしてここに?」

「決まってるだろ、お前の応援に駆けつけたんだよ!」

 セレナも優しく微笑みながら近づき、ボロボロになったカグヤの肩にそっと触れ、汗をハンカチで拭ってやる。その温かい手のぬくもりに、カグヤは少しだけ緊張を解きほぐしたような笑みを浮かべた。

「ありがとう……。次の決勝が、本当の最後の戦いだ。みんなボロボロだけど、絶対に勝つよ」

 カグヤのその力強い言葉を聞きながら、サトシは視線を少しずらし、じっと控えていたハッサムへと目を向けた。

 ハッサムはサトシの視線に気づき、わずかに目を見張ったが、すぐにその鋭い双眸を静かにそらした。言葉はなくとも、かつて無数の戦いを共に潜り抜けてきた男同士だからこそ、交わされた視線だけでその胸の内は十分に伝わっていた。

(……分かってるさ、ハッサム。お前がどれだけの想いを背負って、その体を動かしているのかはな)

 サトシは心の中で静かにつぶやき、ふっと優しく笑ってみせた。

 

 世界王座をかけた決勝戦まであと3日。故郷から駆けつけた両親の温かい眼差しと、決して言葉には出さない相棒たちの深い覚悟を胸に、カグヤの最終調整は熱を帯びて続いていくのだった。

 

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