ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
熱狂の街、寄せ集めの奇跡
シュートシティのメインストリートを埋め尽くす巨大なホログラムビジョンには、明後日に迫った世界王座決定戦の特設ニュースが大きく映し出されていた。街を行き交うトレーナーやファンたちの間では、今大会の戦前予想がどれほど的外れだったかという話題で持ちきりだった。
「いや、本当に信じられねぇよ……。大会前の下馬評じゃ、本命は当然の如く無敗の王者ダンデ。そして対抗馬の筆頭にはカロス最強のアランか、あるいは百戦錬磨のドラゴン使い・ワタルが来るってのが大方の予想だったはずだ」
カフェのテラス席で熱心にスポーツ紙のコラムを読み上げていた男が、信じられないといった様子で首を横に振る。その向かいに座る仲間も、苦笑いを浮かべながらビールグラスを傾けた。
「そうだとも。誰もが『ダンデ対アラン』、あるいは『ダンデ対ワタル』の頂上決戦を夢見ていた。カグヤなんて名前、ガラルじゃ無名の若造にすぎなかったからな。それがどうだ……蓋を開けてみれば、その優勝候補たちを、あの若造が次々と撃破してやがった」
周囲にいた他の観客たちも、その会話に加わるように次々と声を上げる。予選からここに至るまで、カグヤが歩んできた軌跡は、まさに事前の予想を完全に粉砕する「番狂わせの連続」だった。
「特に信じられねぇのは、準々決勝あたりからの連戦だ。あの手持ちの連中……一体どこから湧いて出たバケモン揃いなんだよ」
「ああ、専門家の間でも徹底的なデータ分析が行われてるが、どれも一筋縄じゃいかない面々ばかりだぜ」
街のあちこちで、カグヤのパーティーに対する評価と驚愕の声が飛び交う。
「まず、チームの絶対的エースであるハッサム。あの圧倒的な機動力と硬質な巨鋏による連続攻撃は、どんな強豪の防御陣をも紙屑のように切り裂いてきた。まさに牙城の先陣を切る刃だ」
「だが、そのハッサムを支える他の面々も異常なまでの完成度だろ。あのルカリオはメガ進化と極限の波動を巧みに操り、一瞬の隙も逃さずに敵の急所を撃ち抜く。そしてゲッコウガの『絆シンクロ』。人馬一体ならぬ人とポケモンの完全同化なんて、映画の世界だけの話だと思ってたが、アランのリザードンを倒した水手裏剣の切れ味は本物だった」
「忘れちゃいけねぇのがカイリューだ。前回の準決勝じゃ、満身創痍になりながらも凄まじい執念と根性でキリキザンをねじ伏せ、チームに勝利を呼び込んだ最大の立役者だぜ。タフネスも火力も化け物クラスだな」
「それだけじゃない。スピードを活かして奇襲を仕掛けるスピアーの毒針、チームの盾となり闇を往くブラッキー、そしてずっとカグヤを支えてきたジュカインの鋭い一撃……。カロス地方やアサメタウンで培ってきたそいつらの絆の深さは、並大抵の努力じゃ築けないレベルに達してる」
観客の一人が感嘆の溜息を漏らすと、別のトレーナーが腕を組みながら、最近新しく加わったというもう一つのグループについても言及した。
「それに、今回の大会の途中で噂になったマホロバの連中も侮れねぇ。まだ若い連中だが、実戦の中でどんどん成長してるらしいぜ」
「ああ、あのカメの甲羅で強固な守りを見せるカメックスに、相手の目を欺くトリッキーな幻影を操るゾロア、上空から鋭い眼光で戦況を睨む好戦的なヒノヤコマ、そして一見頼りなさそうに見えて土壇場でしぶとく食らいつくウパーか。このメンツでマホロバ優勝してるし、ベテランの『カロス組』とはまた違った勢いが、あのパーティーに新たな爆発力を生んでるって話だ」
かつての優勝候補であったアランやワタルを打ち破り、数多の強力なポケモンたちと共にガラルに嵐を巻き起こした挑戦者。
「ダンデ以外の選択肢などない」と信じ込まれていたシュートシティの空気に、いまや「もしかすると、この若造が王座を奪うかもしれない」という熱を帯びたざわめきが、波のように広がっていくのだった。