ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
シュートスタジアムの広大なバトルフィールド。その中央を挟んで対峙するカグヤとダンデの間に、一瞬の静寂が落ちる。周囲を埋め尽くす大観衆の喧騒が、まるで遠くの波音のように消え去っていく。
「さぁ、行くぜ、カグヤ!」
ダンデが迷いのない鮮やかな動作でモンスターボールを投げ放つ。真紅の光弾がほどけた瞬間、空間を歪めるかのような超高速の尾を持つガラル地方の象徴――ドラパルトが姿を現した。その圧倒的な存在感だけで、フィールドの空気がピリリと凍りつく。
対するカグヤが初手として選んだのは、その極限のスピードに対抗するための切り札――スピアーだった。
控室で眠るハッサムの姿を思い出し、その不在を自分たちの手で埋めると誓い合った昨夜から、スピアーの心にはかつてないほどの鬼気迫る闘志が漲っていた。世界大会決勝の先鋒に選ばれたという誇りと、カロス組としての意地。そのすべてが紫色の毒のオーラとなって、スピアーの小さな体を包み込んでいる。
「頼む、スピアー! 奴の足を縛り、ペースを絶対に握らせるな!」
カグヤの力強い号令と同時に、スピアーの双針が凄まじい風切り音を立てて微動だにせず構えられる。
バトル開始の主審の合図が響いた瞬間、ドラパルトが消えた。目にも留まらぬ速さで放たれる「ドラゴンアロー」の二連撃が、まるで空間を引き裂く矢のように一直線にスピアーへと襲いかかる。
「っ……見切るぞ!」
しかし、ハッサムの抜けた穴を支えるという決意に燃えるスピアーの複眼は、その常軌を逸した軌道を完璧にとらえていた。紙一重。文字通り一髪の差で最初の矢をかわし、身を翻したスピアーの背中から爆発的な加速が生まれる。
「はやっ……!?」
ダンデの表情に、わずかな驚きの色が走った。無敗の王者が想定していなかったほどの、スピアーの執念が宿る機動力。それはカロス組として泥臭く磨き上げてきた底力の証明だった。
「いま隙ができた! 『どくづき』!」
カグヤの叫びと共に、スピアーが音速を超える突撃を敢行する。纏った紫色の猛毒のオーラが、ドラパルトの強靭な鱗を捉え、その懐深くへと突き刺さった。
手応えあり。しかし、無敗の王者の先鋒がただの伊達であるはずがない。ドラパルトは激痛をその巨体に受け流しながらも、不敵な笑みを浮かべるかのように尾をしならせ、超至近距離から猛烈な「シャドーボール」を叩き込んできた。
凄まじい爆発と衝撃波がフィールドの中央を揺らし、スピアーとドラパルトの双方が激しく吹き飛ばされる。
開口一番の激突は、お互いの実力が本物であることを証明する、息もつかせぬ死闘の、文字通りの狼煙となった。
【カグヤ】 【ダンデ】
スピアー ―― ドラパルト