ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
シュートスタジアムを揺るがす大歓声と、フィールドで繰り広げられるジュカインとゴリランダーの激しい攻防の音は、選手通路の奥にある静まり返った医務室の廊下にまでかすかに響いていた。
スタジアムの観客席では、カメックスが重い前足を揃えてじっと前方を凝視し、その隣でゾロアが落ち着かない様子で尻尾を揺らし、ヒノヤコマが鋭いクチバシをピタリと閉じて息を潜めている。そして少し離れた場所では、ウパーが「ぱー……」と小さな不安げな声を漏らしながら、仲間たちの背中を見守っていた。
先発として戦う仲間たちをベンチ裏から支えるため、彼らもまた固唾を呑んで試合の行方を追っているのだ。
「カメッ(……すごい、熱気だ……)」
「キュゥ(先輩たち、あんなに激しく……っ!)」
ゾロアが小さく呟いたその時、背後の医務室の自動ドアが静かに開いた。
ピリッとした冷気のような、しかしどこか懐かしい鋭い気配が廊下に広がる。はっと振り返った後輩たちの視線の先には、本来であればベッドで深い眠りについているはずの絶対的エース――ハッサムの姿があった。
「カメッ(ハッサム先輩……!?)」
カメックスが目を見張り、ウパーが驚きに小さな体を跳ね上げる。
蓄積疲労の限界を迎え、ドクターから厳重な安静を言い渡されていたはずのハッサムの体は、まだ完全に回復しているとは言えない。赤い装甲の随所に疲労の影が残り、歩みを進めるだけでもその巨躯がわずかに揺れていた。
ヒノヤコマが慌てて飛び立ち、ハッサムの前に立ちはだかるようにして羽を広げた。
「ヒノッ!(何やってるんだ……っ! ドクターにも止められてるはずじゃ……! まだしっかり療養してないと、体に障るぞ……!)」
心配の色を隠せない後輩たちの言葉を受け止め、ハッサムはゆっくりと首を横に振った。その双眸には、衰えるどころか、より一層深く燃え盛る誇りと熱量が宿っている。
「ハサッ(……心配するな。俺の体くらい、俺が一番よく分かっている)」
低く、しかし確かな響きを持つハッサムの声に、その場にいた全員の空気がピタリと引き締まる。ハッサムは一歩前へ進み、激しい歓声がこだまするフィールドの方へと鋭い視線を向けた。
「(フッ……じっとしてろと言われてもな。あいつらが命を削って、俺のいない穴を必死に埋めようと戦っているというのに、医務室のベッドで一人天井を見上げて大人しくしていられるか)」
ハッサムは小さく笑うと、真っ直ぐに後輩たちを見据えた。
「(それに――カグヤが勝ち進み、あの無敗の王者を倒して、チームが最高の栄光を掴む瞬間だ。……最初から最後まで、みんな揃ってその目に焼き付けないと意味がないだろう)」
その言葉を聞いた瞬間、カメックスの瞳が強く輝き、ゾロアの不安の色が消え去った。ヒノヤコマも力強くうなずき、ウパーが「ぱーっ!」と元気いっぱいの声を響かせる。
言葉はなくとも、全員の胸に同じ熱い炎が灯った。
エースの背中を中心に、廊下の隅に集まった後輩たちの結束は、いまや誰にも断ち切れないほど堅い絆へと変わっていた。フィールドの戦いが最高潮を迎える中、仲間たちの熱い視線もまた、確実にカグヤたちの背中を押し続けていた。
【カグヤ】 【ダンデ】
スピアー ✕――✕ ドラパルト
ジュカイン ―― ゴリランダー