ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

199 / 200
緑の疾風、ハッサムの気配を背負いて

 

 シュートスタジアムの広大なフィールド。草木の王・ゴリランダーが放つ圧倒的な重撃の余韻が揺らめく中、ジュカインはその鋭い爪を地面に深く突き立て、低く身を構えていた。先ほどまでの冷静沈着な戦術眼の奥底から、まるでマグマのような熱い闘志がフツフツと沸き上がっているのを、ジュカイン自身が一番よく分かっていた。

 

(……来る……!)

 卓越した五感が、選手通路の奥から漂ってきた微かな、しかし紛れもない気配を捉える。

 赤く輝く装甲、そして仲間全員を束ねる絶対者特有の圧倒的な威圧感――本来なら控室のベッドで眠っているはずのハッサムが、いまこの瞬間、自分たちの戦いを見守るためにその場に現れたのだ。ドクターの制止を振り切り、満身創痍の体を押してまで仲間のもとへと駆けつけた相棒の気配。

 ハッサムが背中で示してくれたその狂おしいほどの執念と覚悟が、ジュカインの闘争本能を心地よく焼き焦がしていく。

 ――俺たちがここで立ち止まるわけにはいかない。ハッサムのいない穴を埋めるどころか、あいつの魂をも背負って、この戦いを制する!

「ジュカイン! どうした、動きが一段とキレを増したぞ……!」

 カグヤの驚愕混じりの声が飛ぶ。その瞬間、ジュカインの身体から迸る緑色の闘気がまるで荒れ狂う嵐のように爆発した。

 背負った巨大な葉の尻尾が激しく鳴り響き、ジュカインの瞳が殺気すら帯びた鋭い光を放つ。それはもはや、ただ相手を討つための戦いではない。仲間たちの想い、そしてハッサムの気配をその身に纏った、負けられない総力戦の牙だった。

 

「グアァァッ!」

 猛烈な咆哮と共に、ジュカインが地面をえぐるようにしてかき消えた。

 視認すら困難な音速の立体機動。グラスフィールドの草木を足場にして天井知らずに加速したジュカインは、ゴリランダーが驚愕して丸太のドラムを構える隙すら与えず、一瞬にして王者の巨木の死角へと回り込む。

「ぬっ……はやい……!」

 ダンデの表情に、初めて明確な焦りの色が走った。

 研ぎ澄まされたリーフブレードが、月光のように冷たく、そして鋭く閃く。ジュカインが放った渾身の「インファイト」と連続の葉の刃が、ゴリランダーの頑強な巨体を容赦なく切り刻んでいく。

 グラスフィールドの回復効果すら追いつかないほどの、文字通りの圧倒的なラッシュ。ゴリランダーが耐えかねて大地を踏みしめ、「10まんばりき」の重撃で周囲一帯を吹き飛ばそうと暴れるが、その一撃はすでに怒涛のスピードに乗ったジュカインの影すら捉えることはできない。

「終わりだ……! 『リーフブレード』、すべてを断ち切れ!」

 カグヤの叫びと、ハッサムの想いを乗せたジュカインの最後の一閃が、一直線にゴリランダーの懐へと突き刺さった。

 直後、凄まじい衝撃波がフィールドの中央を両断し、草木の王の巨体がガクリと大きく崩れ落ちる。ゴリランダーの目が渦を巻き、ガタリと地面に倒れ伏した。

 

「ゴリランダー、戦闘不能! 勝者、ジュカイン!」

 審判のコールが響き渡ると同時に、スタジアムは再び地鳴りのような歓声に包まれた。

 王者の手持ちをさらに一枚剥ぎ取り、カグヤが猛追を見せる。しかし、無敗の王者の牙城には、まだ恐るべき精鋭たちが控えている――熱狂の渦は、更なる混沌とした終盤戦へと突入していく。

 




【カグヤ】        【ダンデ】
スピアー   ✕――✕  ドラパルト
ジュカイン  ◯――✕  ゴリランダー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。