ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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地下水道の咆哮、共鳴する蒼

 宿の喧騒を背に、カグヤたちはシャワーズに導かれ、街の端にある古い排水口から地下へと潜り込んだ。

 地上に広がる白亜の景観とは対照的に、そこは苔むしたコンクリートと、重油の混じったような嫌な臭気が漂う、ミナモシティの「内臓」そのものだった。

「……ここが、街の裏側。浄化塔から排出された廃液が、一時的に貯められる場所ね」

 シオンが足元の濁った水を冷静に見つめながら呟く。彼女の傍らでは、シャワーズが警戒するように周囲を伺っていた。

「効率的に街を浄化すれば、その分だけ不純物が一箇所に凝縮される。……理論上、ここが最も汚れた場所になるわ」

「うぱぁ……」

 ウパーがカグヤの胸元で不安そうに鳴く。カグヤはその柔らかな体をそっと撫で、前方の闇を見据えた。

「……ルカリオ、何か来るか?」

 カグヤの問いに、ルカリオは無言で頷き、鋭い波導を前方へ飛ばした。

 その瞬間、暗闇の中から赤い光が幾つも浮かび上がった。

 それは管理局が配置した、水陸両用型の自律防衛プログラム『クリーナーズ』。

 一見するとカニのような形状の多脚ロボットだが、その先端には鋭い放電ブレードが備わっており、不法侵入者を「不純物」として即座に排除するよう設計されている。

『侵入者を検知。強制排除シーケンスを開始します』

 無機質な音声と共に、数十機の『クリーナーズ』が壁や天井を這い回り、一斉に飛びかかってきた。

 

「――ハッサム、左! ルカリオ、右!」

 カグヤの鋭い指揮が飛ぶ。ハッサムの『バレットパンチ』が先頭のロボットを粉砕し、ルカリオの『はどうだん』が天井から迫る機体を撃ち落とす。

 だが、ここは足場の悪い水路だ。破壊されたロボットから漏れ出したオイルと電気が、水面を伝ってカグヤたちの足を奪おうとする。

「……っ、数が多いわ! このままじゃ押し切られる!」

 シオンが叫ぶ。その時、彼女の足元にいたシャワーズが、決然とした瞳で一歩前に出た。

「シャワーズ……? まさか、あなたが戦うというの?」

 シャワーズはシオンを見上げ、短く鳴いた。その瞳には、かつて自分が捨てられかけたこの場所で、今度は自分を救ってくれた「家族」を守るという強い意志が宿っていた。

「……わかったわ。論理的な勝率は、今のあなたのコンディションでは30%以下……。でも、私がそれを100%まで引き上げてみせる!」

 シオンは泥で汚れたシャツの袖を捲り、初めて自分自身の力でバトルフィールドに立った。

「シャワーズ、『とける』! 水面に意識を分散させて、敵のセンサーを攪乱しなさい!」

 シャワーズの体が水に溶け込むように消えた。ロボットたちは目標を見失い、無差別に周囲を攻撃し始める。

「今よ! 右前方45度、距離3メートル! 『ハイドロポンプ』、最大出力!!」

 シオンの精密な指示に合わせて、虚空から凄まじい激流が放たれた。それは単なる水の弾丸ではない。地下水道の壁に反射させ、複数の『クリーナーズ』を一度に巻き込む、高度な幾何学計算に基づいた一撃だった。

 

「すごい……! シオンさんの指示、一分一秒の狂いもない!」

 ナオが感嘆の声を上げる。

「ハッ、あいつらしい戦い方だ。……ルカリオ、ハッサム! シオンたちの死角をカバーしろ。暴れさせてやれ!」

 カグヤは笑みを浮かべ、あえてシオンに主導権を預けた。

 シオンの合理性と、シャワーズの柔軟な生命力。二つが重なり合った時、かつて一人で孤独に計算を繰り返していた少女の戦いは、熱い「共鳴」へと昇華されていた。

「トドメよ、シャワーズ! 『れいとうビーム』で、その汚れたシステムごと凍らせなさい!!」

 放たれた極低温の光線が、水路ごと敵を氷の彫刻へと変えた。

 静寂が戻る地下水道。シオンは荒い息を吐きながら、水から姿を現したシャワーズを、泥も気にせずしっかりと抱きとめた。

「……よくやったわ、シャワーズ。あなたの動き、理論を超えて素晴らしかった」

「シャァー……!」

 シャワーズは嬉しそうにシオンの頬を舐める。

 カグヤは二人を眺め、満足げにウパーの頭を撫でた。

「……さて、一仕事終わったな。この先が浄化塔の心臓部だ」

 一行は、氷に閉ざされた水路を越え、ミナモシティの最深部――水ポケモンたちの悲鳴が響く、巨大な監獄へと足を踏み入れようとしていた。

 

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