ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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計算を超えた共鳴

「撃て、『アブソリュート・ゼロ』。不純物を根こそぎ洗い流せ」

 市長の冷徹な号令と共に、強化カメックスの砲身から放たれたのは、澄んだ水ではなかった。それは浄化装置の廃液を強制的に圧縮した、黒く粘り気のある高圧のハイドロポンプだった。

 通り過ぎる大気が凍りつくほどの冷気。それは触れたものの生命活動を物理的に停止させる、まさに「死の水」だ。

「シャワーズ、右上方へ回避! 壁の反射角を利用して『アクアリング』を展開、衝撃を逃がして!」

 シオンの鋭い指示が飛ぶ。シャワーズは水面を滑るように跳ね、黒い激流を紙一重でかわした。だが、カメックスの攻撃は止まらない。機械的に制御された砲身が、ミリ単位の精度でシャワーズの着地狩りを狙う。

「……っ、回避率が10%を切る!? 計算が追いつかない……!」

 シオンの額に汗が滲む。敵は生き物としての揺らぎがない。プログラムされた「最適解」で追い詰めてくる機械的な暴力。

 その時、背後でドローン群を蹴散らしていたカグヤの声が響いた。

「シオン! 頭で戦うな、心臓で戦え! シャワーズが何を感じてるか、お前なら分かるはずだろ!」

 

「……心臓で……?」

 シオンは一瞬、目を見開いた。

 モニターの数値、地形の傾斜、風速。それらを統合して「正解」を出そうとしていた自分。だが、目の前のシャワーズは、そんな計算などしていない。ただ、自分を信じて背中で指示を待つ「家族」の体温だけを感じている。

「……そうね。私は、何を怖がっていたのかしら」

 シオンは端末を地面に投げ捨てた。

「合理性なんて、もういらない。シャワーズ……私を、あなたの『水』に混ぜて!」

 シオンが強く拳を握りしめると、シャワーズの全身から蒼いオーラが溢れ出した。それはルカリオの波導とはまた違う、命の源流が混ざり合うような柔らかな光。

「計算終了。……ここからは、私たちの『ワルツ』よ! シャワーズ、全感覚を解放して! 『とける』と『あまごい』の同時展開!!」

 地下空間に、ありえないはずの雨が降り注ぐ。その一粒一粒にシャワーズの意識が溶け込み、カメックスのセンサーを完全に飽和させた。

 どこにいるのか分からない。いや、この空間の「水」すべてがシャワーズになったのだ。

「何だと……!? バカな、そんな不規則な挙動、制御できるはずが――」

 市長が動揺を見せた瞬間、シオンの指がカメックスの死角を指差した。

「今よ、シャワーズ! 零距離からの『ドロポン(ハイドロポンプ)』!!」

 カメックスの懐、地面から噴き出すように姿を現したシャワーズが、最大出力の水を至近距離から叩き込んだ。機械の拘束具が火花を散らし、黒いオイルが霧散する。

 

「……シオン! 今だ、あの子の『心臓』を繋いでるコードを切れ!!」

 カグヤの叫びに応じ、シオンは自らカメックスの元へと駆け寄った。

「ごめんなさい……今、楽にしてあげる!」

 シオンがカメックスの胸元に突き刺さっていた供給プラグを引き抜く。

 その瞬間、カメックスの瞳に、ほんの一瞬だけ穏やかな光が戻った。そして、蓄電槽へと逆流したエネルギーが激しいスパークを起こし、広間全体を揺らした。

「……おのれ、私の『純水』を……よくも汚してくれたな!」

 演壇の上で市長が顔を真っ赤にして叫ぶ。だが、その背後の壁には、激闘の衝撃で大きな亀裂が入っていた。

「……不純物(わたしたち)の力を、舐めないで」

 泥と水に濡れながらも、シオンは凛とした立ち姿で市長を見据えた。

 隣には、同じように誇らしげに胸を張るシャワーズの姿があった。

 

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