ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
浄化塔の広場を埋め尽くすのは、管理局の制服を纏った隊員たちと、その統制されたポケモンたちの軍勢だった。数十体のレントラーが放つ電撃が、溢れ出した運河の水面を走り、逃げ場を奪う。重厚な足音を響かせ、ボスゴドラの列が盾のようにカグヤたちを包囲していく。
「……不合理な数の暴力ね」
シオンが呟く。だがその瞳に、かつての諦念や冷徹な計算はない。あるのは、ただ一歩も引かないという強固な意志だ。
「ナオ、ゼニガメを守りながら後ろに下がっていろ! ここは俺たちがこじ開ける!」
カグヤの鋭い号令が飛ぶ。スリングのウパーが、主の戦意を感じ取り、「うぱあぁっ!」と高く鋭い声を上げた。それが合図だった。
「ルカリオ、全周囲の波導を展開しろ! 敵の連携の『繋ぎ目』を見つけ出せ! ハッサム、お前は一撃離脱だ。まずはあのレントラーたちの電撃を封じるぞ!」
カグヤの言葉が終わるより早く、紅い閃光が動いた。ハッサムの『バレットパンチ』が、電撃を溜めようとしていたレントラーたちの眉間を、正確に、そして瞬時になぎ払っていく。相手が怯んだ隙を逃さず、ルカリオが『しんそく』で懐に滑り込んだ。
「――そこだ!!」
カグヤの指が空を切る。ルカリオが放ったのは、単なる『はどうだん』ではない。地面を流れる運河の水を波導で巻き込み、巨大な「水の槍」として敵の陣形の中央を貫いたのだ。
ドォォォォンッ!!
「な……何という威力だ! たった二匹で、私の精鋭部隊を……!?」
市長が演壇の上で顔を歪ませる。
「無駄よ。あなたの『管理』された戦術には、不測の事態への柔軟性がないわ」
シオンがシャワーズと共に前に出る。
「シャワーズ、あまごい! この広場全体を私たちの『領域』に変えるのよ!」
天から降り注ぐ激しい雨が、運河の水と混ざり合い、視界を遮る。
「今の私には、あなたのセンサーでは捉えられない『不規則な揺らぎ』が見える。シャワーズ、水面に溶け込んで、ボスゴドラの足元を狙いなさい! 『泥かけ』と『ハイドロポンプ』の連続攻撃!!」
シャワーズが水の中に消え、次の瞬間にはボスゴドラの重厚な足首の隙間から激流を噴き出させた。体勢を崩した鋼鉄の巨躯を、シオンは一切の慈悲なく追い詰めていく。
その激闘の最中、ナオの腕の中で様子を見ていたゼニガメが、震える身体を必死に持ち上げた。
「ゼニッ……ゼニゼニッ!」
自分を助けてくれた兄貴分たちが傷ついていく姿を見て、その小さな胸に火が灯ったのだ。
「ゼニガメ!? まだ動いちゃダメだ!」
ナオの制止を振り切り、ゼニガメは地面に降り立った。そして、ボロボロの甲羅を震わせながら、管理局の背後から迫るドローン群に向かって、細い、だが真っ直ぐな『みずでっぽう』を放った。
「……っ、よくやったぞ、ゼニガメ!」
カグヤが笑った。その瞬間、カグヤの波導が周囲にいた「解放されたポケモンたち」にも伝播した。
地下から逃げ出し、物陰に隠れていたゼニガメやメノクラゲたちが、一匹、また一匹と姿を現し始めた。彼らは、自分たちを「不純物」と呼んだ者たちへ、一斉に反撃の水を放ち始めたのだ。
「馬鹿な……! あのゴミ共が、人間に刃向かうというのか!」
市長の声が裏返る。
「……ゴミじゃない。彼らは、この街の誇りよ」
シオンが真っ直ぐに浄化塔を見据えた。
「あなたの計算には、命の『熱』が入っていなかった。……それが、あなたの唯一にして最大の不合理よ、市長!!」
カグヤ、シオン、ナオ。そして新しい家族であるゼニガメと、街のポケモンたち。
バラバラだった意志が、一つの大きな「潮流」となって、白亜の塔へと押し寄せた。
だがその時、浄化塔の頂上から、不気味な黒い光が放たれた。
「……ならば、街ごと凍れ! 最終プログラム『ゼロ・ディフェンス』起動!!」
市長が狂気に満ちた手でレバーを引いた。
浄化塔の冷却機能が逆流し、周囲の水を一瞬で凍結させる「死の冷気」が広場を飲み込み始める。