ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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落日のミナモ、誓いの蒼

 浄化塔の崩壊から数時間が経過した。市長と管理局の幹部たちは、駆けつけた本部の査察官によって拘束され、街にはようやく平穏な、しかし少し騒がしい夕暮れが訪れていた。

 運河の水はかつてのような「透明な死水」ではない。地下から解放されたポケモンたちが泳ぎ回り、少し濁ってはいるが、確かな生命の匂いを感じさせる本来の姿を取り戻していた。

 カグヤたちは、かつてシオンの家族が所有していたという、今は使われていない古い波止場に集まっていた。

「……結局、パフェは食べ損ねちゃったな」

 カグヤが夕日に目を細めながら呟く。その隣では、ルカリオが静かに座り、波の音に耳を傾けていた。

「兄貴、それどころじゃなかったですよ! でも、見てください。ゼニガメ、あんなに元気になって……」

 ナオが指差す先では、ゼニガメがナエトルの頭に乗って、楽しそうに水面を眺めていた。まだ甲羅の傷は痛々しいが、その瞳には怯えの色は微塵もない。

 カグヤはゆっくりと立ち上がり、ゼニガメの元へ歩み寄った。

「……おい、ゼニガメ。さっきの話、覚えてるか?」

 ゼニガメが不思議そうに首を傾げる。カグヤはポケットから、使い古された、だが手入れの行き届いたモンスターボールを取り出した。

「俺は世界一の家長になるつもりだ。お前を檻に閉じ込めるつもりはない。でも、もしお前が、俺と一緒に広い世界を見たいと思ってくれるなら……この中に入ってくれ」

 カグヤはボールを地面に置いた。ゼニガメはしばらくの間、赤いボタンを見つめていた。それから、ひょこひょこと短い足で歩き出し、カグヤを見上げて「ゼニッ!」と短く、確かな決意を込めて鳴いた。

 ゼニガメが自らボタンを叩くと、赤い光が彼を包み込み、ボールの中に吸い込まれていく。

 カチリ。

 静かな波止場に、新たな家族が誕生した音が響いた。

「……よろしくな、ゼニガメ」

 カグヤがボールを拾い上げ、空にかざす。その様子を、少し離れた場所で見ていたシオンが、シャワーズの首筋を撫でながら微笑んでいた。

 

「……シオン。お前はどうするんだ? この街に残って、アクア家を再興するのか?」

 カグヤの問いに、シオンはシャワーズと共に歩み寄ってきた。彼女の瞳には、かつての冷たい計算ではなく、未来を見据える温かな光が宿っている。

「いいえ。アクア家の誇りは、建物や名前にあるんじゃない。……このシャワーズとの絆にあるんだって、今回の戦いで学んだわ」

 シオンはシャワーズの瞳を見つめた。

「私は、もっと知りたいの。あなたの言う『不合理な世界』に、どれだけの可能性があるのか。……だから、私もまだ、あなたたちの旅に同行させてもらうわ。……迷惑かしら、家長(リーダー)?」

「ハッ、断る理由がないな。計算ずくの参謀がいないと、俺たちはすぐ無茶するからな」

 カグヤがニカッと笑う。

「それに、シャワーズ。……シオンのこと、頼んだぞ。あいつ、意外と脆いところがあるからな」

「シャァーッ!」

 シャワーズは得意げに尾を振り、シオンの足元で楽しそうに跳ねた。

 沈みゆく夕陽が、ミナモシティをオレンジ色に染め上げる。

 カグヤはウパーを抱き上げ、新しく家族になったゼニガメのボールを握りしめた。

「よし、決まりだ。明日の朝には出発するぞ。……次に向かうのは、緑豊かな森の都だ」

「はい! どこまでもついていきますよ、兄貴!」

「……ふふ、効率的なルートを考えておくわ。……今度は、ちゃんとパフェを食べられるような街だといいわね」

 三人と、その「家族」たちの影が、波止場に長く伸びる。

 水の都・ミナモシティ。

 そこは、彼らが「管理」という名の鎖を断ち切り、本当の絆を手に入れた、忘れられない約束の地となった。

 

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