ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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自警団の旋風、信じる心

 ダーテングが団扇を振りかざすたびに、木の葉が鋭い刃となってカグヤたちを襲う。

 沢のせせらぎは暴風にかき消され、穏やかだったキャンプ地は一瞬にして戦場へと変貌した。

「ナオ、俺の近くにいろ! シオン、右は任せていいか!」

「ええ、当然よ。私を誰だと思っているの?」

 カグヤの叫びに、シオンが不敵な笑みで応える。彼女は流れるような動作で二つのモンスターボールを投じた。

「出てきなさい、シャワーズ! そして……アリアドス、あなたの独壇場よ!」

 湿った樹海に、八本の脚が音もなく降り立つ。ミナモシティの人工的な環境では出番を控えていたアリアドスが、その複眼を鋭く光らせた。

「アリアドス、『いとをはく』! 樹間すべてに目に見えない粘着網を張り巡らせて。シャワーズは『あまごい』! 糸を濡らして、敵のわずかな振動も逃さず私に伝えなさい!」

 アコマシティの準々決勝でカグヤを追い詰めた、あの精密極まる「索敵陣形」。

 アリアドスの糸が周囲の空間を網羅し、シャワーズの雨がそれを伝導体へと変える。ダーテングたちの高速移動は瞬時にシオンの頭脳へデータとして送られ、彼女の「計算」が戦場を支配し始めた。

「カグヤ、10時方向の枝に三匹! ハッサムを走らせて、枝ごと『バレットパンチ』で叩き落として!」

「了解だ! いくぞ、ハッサム!」

 カグヤとシオン。かつての宿敵同士が、互いの実力を認め合い、阿吽の呼吸で森の自警団を圧倒していく。

 

 だが、森の主であるダーテングは、その連携をも力でねじ伏せようとした。最大級の『たつまき』が巻き起こり、アリアドスの糸を引き裂きながら、体勢を崩したナオとゼニガメを直撃しようとする。

「ナオ!!」

 カグヤが叫ぶ。だが、ルカリオもハッサムも、周囲を取り囲むコノハナたちの迎撃で手が離せない。

 絶体絶命の瞬間。ナオの前に飛び出したのは、まだ小さな身体のゼニガメだった。

「ゼニッ……ゼニィィッ!!」

 ゼニガメは震える足で地面を強く踏みしめた。檻の中で震えていた自分を振り払うように、彼は大きく口を開く。

 放たれたのは、細い水鉄砲ではない。

 身体中の水分を一点に凝縮し、自らの体を軸にした高速回転の遠心力を乗せて放つ、螺旋を描く水の壁――『アクアリング』を応用した防御流だ。

 激しい風が水の膜を叩くが、ゼニガメは甲羅を地面に深く沈め、一歩も引かない。その健気な、しかし強固な意志に、ダーテングは一瞬、団扇を止めた。

「……ゼニガメ。お前……」

 ナオが呆然と見る中、ゼニガメは肩で息をしながら、真っ直ぐにダーテングを見据えていた。その瞳には、敵意ではなく「この家族を守るんだ」という純粋な決意だけが宿っていた。

 

「……あんた、これを見ても俺たちが『森を荒らす人間』に見えるか?」

 カグヤが静かに歩み出た。

「この子は、あんたたちが憎んでいるはずの都市で道具にされていた。それを俺たちの『家族』が救い出したんだ。俺たちが守りたいのは、あんたたちと同じ『命』だ」

 ダーテングはゆっくりと団扇を下ろした。赤い瞳が、泥だらけで踏ん張るゼニガメと、アリアドスを連れて凛と立つシオン、そしてカグヤを順番に映し出す。

『…………奇妙な群れだ。人間に、蜘蛛に、水の精霊。これほどまでに種を超え、歪な絆を結ぶとは』

 周囲のコノハナたちが木々の上へ退いていく。ダーテングは一度だけ短く鼻を鳴らすと、森の奥を指し示した。

『……今の言葉に嘘はないようだな。だが覚悟しろ。森を汚しているのは、我らではない。……鉄の臭いを持つ「本物の不純物」が、すぐそこまで来ている』

 一陣の風と共に姿を消したダーテング。

 静寂が戻った沢で、ゼニガメはその場にぺたんと座り込んでしまった。

「……最高の初仕事だったぞ、ゼニガメ。それとシオン、アリアドスの糸、やっぱり厄介だな。味方でよかったぜ」

 カグヤが笑いかけると、シオンは少し得意げに髪をかき上げた。

「当然よ。ミナモシティの私は少し不自由だったけれど……ここからは私の『計算』に、一切の容赦はないわよ」

 だが、安堵したのも束の間。カグヤの波導が不吉に揺れ始める。

 森の深淵から響いてくるのは、生き物ではない、重厚な金属の駆動音だった。

 

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