ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

31 / 32
鋼の牙、森の悲鳴

 ダーテングが去った後の静寂を切り裂いたのは、原生林にはあまりに不釣り合いな、硬質で重厚な駆動音だった。

 木々がなぎ倒される地響きと共に、巨大な回転鋸(ソー)を備えた重機が姿を現す。その車体には、交差する鋼の爪を模した紋章――密猟組織『スチール・クロー』のマークが刻まれていた。

「……あいつら、道なんてお構いなしかよ」

 カグヤが忌々しげに吐き捨てる。倒された巨木の上を、金属の履帯(キャタピラ)が容赦なく踏みにじっていく。

「カグヤ、見て。あの重機の後ろ……捕獲ケージの中にいるのは、森のキマワリやコノハナたちよ」

 シオンが鋭く指摘した。彼女の隣で、アリアドスが威嚇するように牙を鳴らす。

「彼らの狙いはフォレスタルの『希少種』だけじゃない。森の生態系そのものを根こそぎ奪って、高値で売り捌くつもりだわ」

「そんなの、絶対許せない! いくぞ、ナエトル!」

 ナオが叫ぶが、重機の上から数人の男たちが飛び出してきた。その中央、一際仕立ての良い防護服に身を包んだ男を見て、シオンの表情が凍りついた。

「……あら、まさかこんな泥臭い場所で再会するなんて。シオン・アクアお嬢様?」

「……ベック。あなた、ミナモシティの管理局を解雇された後、こんな汚い仕事に手を染めていたの」

 男――ベックは、かつてシオンの実家が栄えていた頃、出入りしていた若手実業家だった。市長の失脚後、行方をくらませていた彼が、今は密猟団の指揮を執っていたのだ。

「汚い? 失礼な。これは『資源の有効活用』ですよ。君なら理解できるでしょう? 効率の悪い自然を、金という名の価値に変換する。合理的な判断だ」

「黙れ。……今の私に、その言葉は通用しないわ!」

 シオンが腕を振り上げる。だが、ベックは冷笑を浮かべ、背後のコンテナを解放した。

「なら、君の得意な『計算』でこれに勝てるかな? 出てこい、アーマルド!」

 姿を現したのは、通常の個体よりも一回り大きく、全身を無機質な強化装甲で覆われたアーマルドだった。その腕の爪は鋭い鋼鉄の刃に換装され、目は赤いセンサーのように不気味に発光している。

 

「な……あれはポケモンじゃない! 改造されてるのか!?」

 カグヤがルカリオと共に身構える。

「ええ、管理局の技術を転用した『強化実験体』よ。痛覚を遮断され、命令に従うだけの戦闘機械……」

「ハッ! 壊せ、アーマルド! その目障りな蜘蛛と、野良犬どもをな!」

 改造アーマルドが、凄まじい推進力で突進してくる。その一撃は、傍らの巨木を紙のように一刀両断した。

 ルカリオが『しんそく』で拳を叩き込むが、鋼鉄の装甲はビクともしない。逆に、アーマルドが放つ『メタルクロー』の風圧がルカリオを弾き飛ばす。

「ルカリオ!」

 カグヤが駆け寄ろうとした瞬間、足元に潜んでいた警備ロボットが、ナオとゼニガメを分断するように立ち塞がった。

「……カグヤ、ここは私が引き受けるわ。あなたはナオたちを! ベックの相手は……私がケリをつけなきゃいけない」

 シオンがアリアドスの背に手を添える。彼女の波導は、静かに、しかし激しく燃えていた。

「……分かった。死ぬなよ、シオン!」

「誰に言っているの? 私の計算に『敗北』の二文字はないわ」

 鋼鉄の暴力が森を切り裂く中、かつての「お嬢様」と「冷徹な実業家」、そして「家族」を守るために牙を剥くポケモンたちの、誇りを懸けた戦いが始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。