ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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蜘蛛の糸、鋼の防壁

「計算通り……いえ、それ以上ね。その装甲、ただの合金じゃないわ」

 シオンは冷静に分析していた。アリアドスが放つ『どくばり』は、アーマルドの重厚な装甲に弾かれ、火花を散らすだけだ。ベックの操る改造アーマルドは、生命体としての柔軟さを捨て、純粋な「動く要塞」へと変貌を遂げていた。

「ハハハ! 気づくのが遅いですよ、シオンお嬢様。これは管理局が極秘に開発していた『対・高火力用防弾プレート』の試作型だ。君のひ弱な蜘蛛の糸など、触れるだけで千切れる!」

 ベックの合図と共に、アーマルドの背中の甲殻が展開し、そこから高圧の蒸気が噴き出した。ブーストされた突進が、シオンの至近距離を掠める。風圧だけでアリアドスが吹き飛ばされそうになるが、シオンは一歩も引かない。

「……糸が千切れるなら、千切れない場所へ通せばいいだけよ。アリアドス、上方へ! シャワーズは『泥かけ』で足元を狙いなさい!」

 シオンの指示は、かつてカグヤと戦った時よりもさらに鋭く、そして迷いがなかった。アリアドスは樹上の枝へと飛び移り、そこから複雑な幾何学模様を描くように糸を放ち始める。

「無駄だと言っているだろう!」

 アーマルドが再び突進しようとしたその瞬間、ガクンと、その巨躯が傾いた。

「な……何だ!?」

「計算外だったかしら? あなたのアーマルドは重すぎるのよ。シャワーズが泥でぬかるませた地面に、アリアドスが糸で編み上げた『偽の地面』を被せたわ」

 アーマルドの右脚は、アリアドスが巧みに落ち葉と糸で隠した底なしの泥濘(ぬかるみ)に深く沈み込んでいた。一度バランスを崩せば、その重すぎる装甲が仇となる。

「今よ、シャワーズ! 泥の中に『凍える風』を流し込みなさい! アーマルドの足場ごと凍らせるのよ!」

 シャワーズの冷気が泥を瞬時に凝固させ、アーマルドを地面に縫い止めた。

 

 一方その頃、カグヤはナオとゼニガメを救うため、森の奥へと走り抜けていた。

「ルカリオ、あそこだ!」

 ナオとゼニガメは、数台の警備ロボットに追い詰められていた。だが、絶体絶命のその時、頭上の枝から「風」が吹き下ろした。

「……ガアアッ!」

 一陣の旋風がロボットの一群をなぎ倒す。そこに立っていたのは、先ほど別れたはずのダーテングだった。

「……あんた、助けてくれたのか」

『勘違いするな、人間。森を鉄で汚す不届き者を、掃除しに来ただけだ』

 ダーテングはそう告げると、カグヤの方を向き、短く頷いた。

『……その小さな水の亀。あれの勇気に、免じてな』

 カグヤの隣で、ゼニガメが誇らしげに、しかし少し照れくさそうに「ゼニッ!」と鳴いた。

「よし……ダーテング! 力を貸してくれ。あいつらの『牙』を折るぞ!」

 カグヤとルカリオ、そして森の自警団長ダーテング。

 異色の「群れ」が、森を蹂躙する重機軍団へと逆襲を開始する。

 そして戦場の中央。足止めを食らった改造アーマルドを前に、シオンはアリアドスと共に最後の一手を準備していた。

「……ベック。効率ばかりを求めたあなたの『力』、私の『不合理な絆』で上書きしてあげるわ」

 

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