ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
自爆を封じ込められたベックの顔は、屈辱と焦燥で歪んでいた。
「……認めない。あんな端役のポケモンが、私の最高傑作を、あまつさえ自爆プログラムまで無効化するなど……不合理にも程がある!」
ベックは震える手で予備の通信機を起動した。
「予備機を出せ! 森を更地にしてでも、奴らを仕留めるんだ!」
地響きと共に、後方の崖を崩して現れたのは、先ほどの重機よりも一回り巨大な、掘削用超大型重機『ガイア・ドリル』だった。回転する巨大なドリルが、森の神木さえも容易く削り取りながら迫り来る。
「……しつこい奴だ。シオン、ナオ、下がってろ!」
カグヤがルカリオと共に前に出る。だが、カメールはカグヤの腕をすり抜け、重機の前に立ち塞がった。
「カメール、お前、まだ身体が……」
「カメェッ!!」
カメールは、稲妻のような傷跡が残る甲羅を叩き、力強く吠えた。進化したことで一回り大きくなったその背中には、もう「助けられるだけの弱者」の影はない。
その時、頭上の枝から黒い影が舞い降りた。森の自警団長、ダーテングだ。
『……人間よ。その小亀の気魄、見事であった』
ダーテングは団扇を重機へと向け、静かに告げた。
『これ以上、我が友を傷つけさせるわけにはいかぬ。人間、力を合わせるぞ。……お前の「波導」で、我の「風」を導け』
「……ああ、喜んで! ルカリオ、ハッサム、合勢するぞ!」
カグヤが波導を練り上げると、ルカリオを通じてダーテングの精神と直結した。シオンの『あまごい』によって湿り気を帯びた森の空気が、カグヤの波導によって「流れ」を定められていく。
「カメール、あのドリルの根元を狙え! 『しおふき』で冷却系を焼き付かせるんだ!」
「カメェェッ!!」
カメールが放った超高圧の水流が、赤熱したドリルに直撃し、凄まじい水蒸気が噴き出した。急激な温度変化で鋼鉄のドリルが悲鳴を上げ、回転が鈍る。
「今だ、ダーテング! 風をくれ!!」
『承知した……吹き荒れろ、樹海の烈風!』
ダーテングが全力で団扇を振る。カグヤの波導によって増幅された旋風は、ただの風ではなかった。ハッサムが放った『シザークロス』の残光を巻き込み、無数の鋼の刃を内包した「真空の嵐」へと変貌する。
ドォォォォォォンッ!!
波導、風、そして水。三つの力が一点に集中し、超大型重機の装甲を紙細工のように切り裂いた。
「バ……バカな……! 私の計算では、これほどまでの出力は……」
ベックの叫びをかき消すように、重機は火を噴き、その場に沈黙した。
煙が晴れた戦場。カグヤはカメールの隣に立ち、ダーテングと視線を合わせた。ダーテングは静かに首を垂れ、一本の古い木の枝をカグヤに差し出した。
『……これを持っていけ。フォレスタルへの通行証だ。……お前たちは、もう「人間」ではない。この森の「家族」だ』
カグヤはその枝をしっかりと受け取った。
鋼鉄の死臭が消え、森には再び、瑞々しい緑の香りが戻ってきた。