ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
樹海都市フォレスタルの出口。空中歩道を降り、ようやく開けた場所に出ると、カグヤは一度大きく伸びをして、肩に乗っていた青い影に視線を落とした。
「……悪いな、ウパー。森の中じゃ道が狭くて、ずっと肩の上だったろ。少し歩くか?」
そこには、のんびりとした顔で「ぱぁ~」と鳴く、一匹のウパーがいた。カグヤはウパーを地面にそっと下ろすと、その滑らかな肌を愛おしそうに撫でた。
カグヤにとって、ウパーとの触れ合いは、バトルの激闘で昂ぶった神経を鎮めるための、穏やかな儀式のようなものだ。父譲りの熱い血が、オンの状態で過熱しすぎるのを、この小さなパートナーが持つ特有の質感と空気感が、優しく「オフ」へと切り替えてくれる。
「ウパァ、ウパッ」
ウパーは短い足でペタペタと地面を叩き、カグヤの脚に身体を擦り寄せる。カグヤは腰を下ろすと、ウパーを抱き上げ、そのお腹の弾力を確かめるように優しく抱きしめた。
「ああ……やっぱり落ち着く。この感触があってこそ、俺は俺でいられるんだ」
カグヤの表情からは、先ほどまでの冷徹な勝負師の面影が消え、一人の少年としての柔和な笑みが戻っていた。ウパーはされるがままになりながら、安心しきった様子でカグヤの腕の中に収まっている。
「……カグヤ、本当にその子を大切にしているのね」
シオンが、傍らでその様子を静かに眺めていた。彼女の計算では測れない、理屈を超えたパートナーシップ。
「さっきまでのあなたとは別人のよう。でも、その『オフ』があるからこそ、あなたは戦場で誰よりも冷静な『オン』になれる……。私の分析に、また新しい項目が必要になったわ」
「シオン、こいつは俺にとって一番の相棒なんだ。触ってみるか? どんなに波導が乱れていても、一瞬で心が整うのが分かるはずだぜ」
「……今は遠慮しておくわ。でも、そのウパーがあなたの精神的な支柱であることは、十分に理解できたわ」
十分な休息を終え、カグヤはウパーを再び頭の上にひょいと乗せた。ウパーはそこが定位置であるかのように、平らな頭の上でゆらゆらと揺れている。カグヤは立ち上がり、樹海の向こうに広がる茶褐色の地平線を見据えた。
目の前に広がるのは、フォレスタルの緑とは対極にある、乾いた岩場と砂埃の荒野。
マホロバ地方・中央砂漠エリア。
「よし、みんな行くか! 次の街『ガンスモーク』は、凄腕のトレーナーが集まるって噂だ」
「カメェッ!」
カメールが甲羅の稲妻の傷跡を輝かせ、先陣を切る。ハッサムは静かに、ルカリオは周囲を警戒しながらそれに続く。
だが、一行を、遠くの岩陰から見つめる鋭い影があった。
ベックのような科学の信奉者ではない。
カグヤの持つ「特異な波導」と、その傍らにいる「進化の傷跡を持つカメール」に興味を示した、荒野の用心棒――。
「……波導使いの少年か。フォレスタルの自警団を黙らせた腕前、試させてもらうぜ」
乾いた風が吹き抜け、砂嵐が舞う。
カグヤの「オン」のスイッチが再び入るまで、あとわずか。