ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

39 / 44
荒野への咆哮、安らぎの質感

 樹海都市フォレスタルの出口。空中歩道を降り、ようやく開けた場所に出ると、カグヤは一度大きく伸びをして、肩に乗っていた青い影に視線を落とした。

「……悪いな、ウパー。森の中じゃ道が狭くて、ずっと肩の上だったろ。少し歩くか?」

 そこには、のんびりとした顔で「ぱぁ~」と鳴く、一匹のウパーがいた。カグヤはウパーを地面にそっと下ろすと、その滑らかな肌を愛おしそうに撫でた。

 カグヤにとって、ウパーとの触れ合いは、バトルの激闘で昂ぶった神経を鎮めるための、穏やかな儀式のようなものだ。父譲りの熱い血が、オンの状態で過熱しすぎるのを、この小さなパートナーが持つ特有の質感と空気感が、優しく「オフ」へと切り替えてくれる。

「ウパァ、ウパッ」

 ウパーは短い足でペタペタと地面を叩き、カグヤの脚に身体を擦り寄せる。カグヤは腰を下ろすと、ウパーを抱き上げ、そのお腹の弾力を確かめるように優しく抱きしめた。

「ああ……やっぱり落ち着く。この感触があってこそ、俺は俺でいられるんだ」

 カグヤの表情からは、先ほどまでの冷徹な勝負師の面影が消え、一人の少年としての柔和な笑みが戻っていた。ウパーはされるがままになりながら、安心しきった様子でカグヤの腕の中に収まっている。

 

「……カグヤ、本当にその子を大切にしているのね」

 シオンが、傍らでその様子を静かに眺めていた。彼女の計算では測れない、理屈を超えたパートナーシップ。

「さっきまでのあなたとは別人のよう。でも、その『オフ』があるからこそ、あなたは戦場で誰よりも冷静な『オン』になれる……。私の分析に、また新しい項目が必要になったわ」

「シオン、こいつは俺にとって一番の相棒なんだ。触ってみるか? どんなに波導が乱れていても、一瞬で心が整うのが分かるはずだぜ」

「……今は遠慮しておくわ。でも、そのウパーがあなたの精神的な支柱であることは、十分に理解できたわ」

 十分な休息を終え、カグヤはウパーを再び頭の上にひょいと乗せた。ウパーはそこが定位置であるかのように、平らな頭の上でゆらゆらと揺れている。カグヤは立ち上がり、樹海の向こうに広がる茶褐色の地平線を見据えた。

 目の前に広がるのは、フォレスタルの緑とは対極にある、乾いた岩場と砂埃の荒野。

 マホロバ地方・中央砂漠エリア。

 

「よし、みんな行くか! 次の街『ガンスモーク』は、凄腕のトレーナーが集まるって噂だ」

「カメェッ!」

 カメールが甲羅の稲妻の傷跡を輝かせ、先陣を切る。ハッサムは静かに、ルカリオは周囲を警戒しながらそれに続く。

 だが、一行を、遠くの岩陰から見つめる鋭い影があった。

 ベックのような科学の信奉者ではない。

 カグヤの持つ「特異な波導」と、その傍らにいる「進化の傷跡を持つカメール」に興味を示した、荒野の用心棒――。

「……波導使いの少年か。フォレスタルの自警団を黙らせた腕前、試させてもらうぜ」

 乾いた風が吹き抜け、砂嵐が舞う。

 カグヤの「オン」のスイッチが再び入るまで、あとわずか。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。