ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
母との連絡を終え、カグヤはポケモンセンターのロビーを横切った。
今日はもうここで一泊するつもりだが、明朝の出発に備え、ショップで少しばかりの備品を買い揃えておこうと考えたのだ。肩の上では、ウパーがのんびりとあくびをしている。
だが、自動ドアが開くと同時に、昼間の男が数人の仲間を引き連れて、建物の入り口を完全に塞いでいるのが見えた。
「よお、お坊ちゃん。ずいぶんと余裕だな」
男たちの手には既にモンスターボールが握られている。周囲の通行人はトラブルを察して足早に去り、センターの入り口付近には嫌な沈静が流れた。
「さっきのハッサム、あれはマホロバじゃ高く売れる。……大人しく渡せ。そっちのウパーもだ」
その要求を聞き、カグヤは静かにウパーを自分の足元へ下ろした。
カグヤにとって、ポケモンは「渡す・渡さない」の対象となるモノではない。
「……ハッサムもウパーも、俺の意思でどうこうできるもんじゃない。俺と一緒に居たいと言ってくれた、対等な仲間だ。お前らみたいな、ポケモンを道具としか思ってない奴に渡す理由なんて一つもない」
カグヤの毅然とした態度に、男たちの顔が歪む。
「理屈はどうでもいいんだよ。出せねえってんなら、力ずくで奪うまでだ! 行け、ベトベトン、イトマル!」
四体のポケモンがカグヤを包囲し、毒々しい殺気を放つ。
カグヤは腰のベルトに手をかけた。ハッサムは連戦になる。ここは、もう一人の戦友に任せるべきだろう。
「ハッサムを出すまでもない。……力を貸せ、ルカリオ」
放たれたボールから現れたのは、鋭い眼光を宿したルカリオだった。
ルカリオは現れた瞬間、右足を一歩前に踏み出す。同時に、その身体から目に見えない波の波動――「波導」が、物理的な衝撃を伴って周囲へ広がった。
「っ……!? なんだ、この空気……」
先ほどまであざ笑う余裕を見せていた男たちが、一瞬で口を閉ざした。
ルカリオから放たれる圧倒的な威圧感。それだけでベトベトンたちが本能的な恐怖を感じ、ジリリと後ずさりする。冷や汗を流す男たちは、もはや軽口を叩くことすらできず、引きつった表情で自分のポケモンに攻撃を命じた。
「……や、やっちまえ! 囲んで叩け!」
イトマルたちが一斉に『いとをはく』でルカリオの動きを封じようとする。だが、ルカリオは動かない。波導によって敵の攻撃の起点、飛んでくる軌道を完全に把握している。
「『しんそく』」
カグヤの短く、静かな指示。
直後、ルカリオの姿が現場から「消失」した。
夜の闇に青い尾を引く閃光。男たちがその姿を目で追うことすら叶わぬうちに、三体のイトマルは腹部に痛烈な打撃を受け、声も上げられずに吹き飛んだ。
「ギギッ……!?」
「何が起きた……!?」
残ったベトベトンがパニックに陥り、腕を振り回す。しかし、ルカリオは既にその懐に潜り込んでいた。右の掌に青く輝くエネルギーを凝縮させ、ゼロ距離で叩きつける。
「『はどうだん』」
凝縮された波導が爆発し、ベトベトンの巨躯を後方の壁まで一気に押し流した。
数秒前まで優位を確信していた男たちは、あまりの実力差に膝を震わせ、もはや言葉を失っている。
「……これ以上やるなら、次は容赦しない」
カグヤの冷徹な一言が、男たちの心を完全に折った。彼らは戦闘不能になったポケモンを慌てて回収すると、カグヤとルカリオから逃げるようにして夜の闇へ消えていった。
騒がしかった入り口に、再び静寂が戻る。
ルカリオは静かに残光を消し、カグヤの方を向いて短く頷いた。
「助かった、ルカリオ。……明日から忙しくなりそうだな」
カグヤはルカリオをボールに戻すと、足元で目を丸くしていたウパーを再び抱き上げた。
明日の出発に備え、カグヤは静かになったポケモンセンターの中へと戻っていく。マホロバ地方での本格的な修行は、まだ始まったばかりだ。
カグヤの手持ちポケモン
●ハッサム
●ルカリオ
●ウパー