ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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荒野の用心棒、炎の洗礼

 砂塵がゆっくりと晴れていく。

 岩山の上に立つ男の傍らで、バクフーンの首周りから立ち上る炎が、陽炎となって空気を歪めていた。男は使い古されたポンチョを翻し、軽やかに岩場を降りてくる。その足取りは無造作に見えて、常に一定の間合いを保つ熟練者のものだった。

「……助けてくれとは言わないが、無駄な殺生は好まないんでね。野良犬共、消えな」

 男が低く告げると、先ほどまで息巻いていた荒くれ者たちは、バクフーンの威圧感に気圧されたように、バギーに飛び乗り逃げ去っていった。

「助かった。……だが、あんたの目的は俺たちの加勢じゃないな」

 カグヤはルカリオを前へ出し、静かに問いかけた。頭の上のウパーは、緊迫した空気を感じてか、カグヤの頭の上で身を低くし、ぺたっと吸い付くように安定を保っている。

「察しがいいな、少年。俺の名はガンドー。この先の街『ガンスモーク』で用心棒をやってる。……お前さんの連れているカメール、その甲羅の傷跡……フォレスタルで一暴れしたっていう『波導使い』は、お前だな?」

 ガンドーの目が鋭く光る。シオンはアリアドスの糸を指先に絡め、即座に戦闘態勢に入った。ナオもナエトルを抱きしめ、カグヤの背中に隠れる。

「……だったらどうする」

「この荒野にはルールがあってな。外から来た奴は、まずその『器』を証明してもらう。……バクフーン、挨拶だ。『かえんぐるま』!」

 叫ぶと同時に、バクフーンが猛烈な勢いで回転しながら炎の塊と化し、一直線に突進してきた。その速度は、先ほどのヘルガーとは比較にならない。

「ハッサム、右へ! ルカリオ、左から回り込め!」

 カグヤの鋭い指示が飛ぶ。二匹が左右に散った瞬間、カグヤはカメールを呼び寄せた。

「カメール、真正面から受け止めろ! 『ハイドロポンプ』を足元に放って、反動で跳べ!」

 カメールが足元の岩場に猛烈な水流を叩きつける。その反動で高く舞い上がったカメールは、空中で反転し、真上からバクフーンの炎の回転へと激突した。

「カメェッ!!」

 水と炎が衝突し、大量の水蒸気が爆発的に広がる。

 シオンはその光景に息を呑んだ。

(……ただの迎撃じゃない。水蒸気で視界を奪い、地形の不利を消した!?)

「いい判断だ。だが、甘いな! バクフーン、『じしん』!」

 着地したバクフーンが地面を強打する。荒野の地面が激しく波打ち、ルカリオたちの足元を奪う。

「……読めてるよ。ルカリオ、空中に浮かせた波導を足場にしろ! ハッサム、煙の向こうから『バレットパンチ』!」

 ルカリオが空中に波導の凝縮体を作り出し、それを踏み台にして高く跳躍する。一方、ハッサムは水蒸気の中を完全に気配を消して移動し、バクフーンの側面から銀色の閃光となって突きを繰り出した。

 重厚な金属音が響く。バクフーンはそれを腕で受け止めたが、カグヤの狙いはそこではなかった。

「ルカリオ、今だ! 上空から『はどうだん』!」

 空中で全方位を俯瞰していたルカリオが、回避不能のタイミングで蒼い弾丸を放つ。

 凄まじい衝撃波が荒野を駆け抜けた。

 土煙が収まると、バクフーンとガンドーは、数メートル後退した位置で踏みとどまっていた。ガンドーはポンチョの襟を正すと、初めてその顔に「納得」の笑みを浮かべた。

 

「……マサラの風か、カロスの知恵か。……噂以上の切れ味だな、少年。お前さんの『波導』、確かにこの荒野で通用する器だ」

 ガンドーはバクフーンをボールに戻し、カグヤに向かって手を挙げた。

「合格だ。ついてきな。砂嵐が来る前に、ガンスモークの門を潜らせてやるよ」

 カグヤは静かにルカリオの肩を叩き、深く吐息をついた。

「……助かる」

 眼光の鋭さは消え、いつもの「オフ」の穏やかさが少しずつ戻ってくる。頭の上のウパーが「ぱぁ~」と安堵の声を上げた。

 シオンは、その一部始終を震える手で記録していた。

(……格上相手に、一歩も引かずに主動権を握り続けた。これがサトシの息子……。いえ、彼自身の力なのね)

 一行は、案内役となった用心棒ガンドーと共に、砂塵の向こうにそびえ立つ鉄と石の街――『ガンスモーク』へと歩みを進める。

 そこは、これまでの旅とは一線を画す、真の「勝負師」たちが集う地だった。

 

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