ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
砂塵の向こうから現れたのは、巨大な岩壁を削り、無骨な鉄骨で補強された要塞のような街だった。街の入り口には、かつての蒸気機関を思わせる巨大な煙突が幾本もそびえ立ち、そこから吐き出される黒煙が荒野の空をより一層重く染めている。
「ここが『ガンスモーク』だ。力のない奴は、一晩で身ぐるみ剥がされる。……だが、実力のある奴には、これほど居心地の良い街もないぜ」
ガンドーの言葉通り、門を潜るとそこには独特の熱気が渦巻いていた。通りには使い古された革ジャンやポンチョを纏ったトレーナーたちが溢れ、あちこちの路地裏からはポケモンの技が衝突する衝撃音と、観衆の怒号に似た歓声が響いてくる。
「……計算外の熱量ね。ミナモシティのような秩序とは対極にある、野生の秩序だわ」
シオンは、アクア家の令嬢として培われた観察眼で、街を行き交う人々のレベルを冷静に分析していた。彼らの連れているポケモンはどれも歴戦の傷跡を持ち、主との間に強い信頼関係を築いているのが見て取れる。
「兄貴、すごいよ! あっちでも、こっちでもバトルしてる!」
ナオが興奮した様子で周囲を見渡し、ナエトルもその気配に触発されて小さな葉を揺らしている。
「ああ。……いい空気だ。ルカリオ、お前も感じるか?」
カグヤの頭の上で、ウパーは「ぱぁ~」とのんびり欠伸をしていたが、カグヤ自身の瞳には、再び静かな「オン」の火が灯り始めていた。彼の中に流れる勝負師の血が、この街の戦気に共鳴しているのだ。
「おっと、そこの少年。……いい面構えだ。そして、その頭の上のウパー……珍しいな、この乾燥した荒野でそれほど瑞々しい肌を保っているとは。相当な手練れと見える」
声をかけてきたのは、通りの中心にある「決闘広場」の審判員を務める、筋骨隆々の老人だった。
「ガンドーが連れてきたってことは、それなりの腕なんだろう? どうだ、この街の歓迎の儀を受けていくか? 賞品は、次の街へ抜けるための貴重な『砂漠用特殊燃料』だ」
カグヤは一度、ルカリオと視線を交わした。ルカリオは無言で頷き、拳を固める。
「……いいだろう。相手は誰だ?」
「俺が相手をしよう、余所者の坊主」
広場の中央から歩み出たのは、全身を黒いライダースーツで包み、鋭い目つきをした女性トレーナーだった。彼女の傍らには、荒野の王者――フライゴンが、羽を細かく振動させながら静かに浮遊している。
「ガンスモークの自警団、三羽烏の一人。レイだ。お前さんの波導が、この街の砂を舞わせるに値するか……確かめさせてもらう」
周囲にいたトレーナーたちが一斉に足を止め、広場を囲むように円陣を作った。
カグヤは静かにウパーをナオに預けようとしたが、ウパーは「うぱ」と短く鳴き、カグヤの肩に移動して安定を保った。
「……そうか。なら、一緒に行こう。ウパー」
カグヤがルカリオを前へ出し、その眼光が鋭利な刃物のように研ぎ澄まされた。
「マホロバ地方での、本当の試練が始まる……。ルカリオ、行くぞ!」
硝煙と砂塵が舞う広場で、カグヤの「オン」の力が、ガンスモークの街を震撼させる。