ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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マホロバの指針

 翌朝、アコマシティのポケモンセンターの食堂は、朝早くから活気に満ちていた。

 カグヤは窓際の席を確保すると、手持ちのポケモンたちをすべてボールから出した。マホロバ地方での本格的な活動を前に、まずは全員で腹ごしらえをするのがカグヤの習慣だ。

「さあ、みんな食べよう。今日はこれから移動するから、しっかりな」

『ハッサ!』

『ルカッ』

 ハッサムとルカリオは、カグヤから差し出された高栄養のポケモンフードを、音も立てず規律正しく口に運ぶ。その立ち居振る舞いは、食事中であっても周囲への警戒を怠らない歴戦の戦士そのものだ。

 そんな二体の横で、ウパーだけは『ウパー、ウパパー!』と上機嫌に鳴きながら、ボウルの中のフードを豪快に頬張っている。口の周りを汚しながら食べるその姿は、殺伐としたアコマシティの空気の中で、そこだけ時間が止まっているかのようにのどかだった。

「ウパー、そんなに急がなくても誰も取らないぞ」

 カグヤは苦笑しながら、自分のトーストを齧りつつタブレットを広げた。

 

「……さて、この後の予定だけど」

 マホロバ地方の地図を見つめながら、カグヤは思考を巡らせる。父を超えるためには、ただ漫然と旅をするだけでは足りない。より密度の高い、厳しい戦場に身を置く必要がある。

 すると、トレイを片付けに来たジョーイさんが、カグヤのタブレットを見て声をかけてきた。

「おはよう、カグヤ君。昨夜は助かったわ、入り口を塞いでいた人たちを追い払ってくれたんですってね」

「いえ、騒がしくしてすみません」

「いいのよ。あの方たちはこの街の悩み種だったから。……ところで、これからどこかへ向かう予定なの?」

 ジョーイさんの問いに、カグヤは素直に首を振った。

「いえ、まだ。強いトレーナーと戦える場所を探しているところです」

「それなら、ここから少し北にある『アコマ・コロシアム』に行ってみたら? 明日から若手トレーナーを中心とした『アコマ選抜杯』が始まるの。マホロバ各地から、腕に覚えのあるトレーナーが集まってくるわよ」

「選抜杯……いいですね。ありがとうございます」

 カグヤの目が、挑戦者のそれへと変わる。

 

 その時、食堂の隅でカグヤたちの様子をじっと見ていた一人の少年に気づいた。小学校の高学年くらいだろうか。彼はカグヤの足元で、満足そうに膨らんだお腹を見せてゴロンとひっくり返っているウパーと、その横に鎮座する威圧感たっぷりのハッサムたちを交互に見比べ、意を決したように歩み寄ってきた。

「あの……お兄さん、昨日の夜、外で戦ってたよね? 凄かった……!」

 少年の名はナオといった。地元のアカデミーに通っているが、自分のパートナーである臆病なナエトルがバトルで縮こまってしまい、一度も勝てないことに悩んでいるという。

「お兄さんのウパーも、あんまりバトル向けじゃないみたいだけど……。あんなに強そうなハッサムたちと一緒にいて、お兄さんはどうやってその……『格差』みたいなのを埋めてるの?」

 ナオの切実な問いに、カグヤは食事を終えたハッサムたちの背中を見つめた。

 ハッサムもルカリオも、最初からこうだったわけではない。数え切れないほどの敗北と特訓を経て、今の強さを手に入れたのだ。

「格差なんて考えたことはないよ。ハッサムたちには、彼らにしかできない戦いがある。そしてウパーには、ウパーにしかできない役割があるんだ」

 カグヤは、起き上がって足元に身体を擦り寄せてきたウパーを優しく抱き上げ、ナオに見せた。

「こいつがそばにいてくれるだけで、俺もハッサムたちも、戦いの後のピリついた心を落ち着かせることができる。それは、どんな強力な攻撃技よりも大事な『強さ』なんだ」

 カグヤの言葉に、ナオは驚いたように目を見開いた。

「強さの形は、一つじゃない。俺はそう信じてる。……ナオ君、もし良かったら、明日からの大会を見に来るといい。俺も、俺たちの強さを証明しにいくからさ」

 カグヤはそう言うと、ウパーを肩に乗せた。そして、ハッサムとルカリオをボールへ戻した。ナオに見送られながら、カグヤはポケモンセンターを後にする。

 

「まずはアコマ選抜杯、か」

 朝陽に照らされたアコマシティの街並みは、昨夜とは違って希望に満ちて見えた。父の伝説に一歩でも近づくための、マホロバ地方最初の挑戦が始まろうとしていた。

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