ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

59 / 59
氷を溶かす絆の形

 静寂が、祠を支配していた。

 先ほどまでの猛烈な吹雪は嘘のように止み、天を突くような巨躯を誇った「主」のケケンカニは、静かに聖域の奥へと姿を消していった。敗北を認めたのか、あるいは侵入者の「熱」に満足したのか。主が去った後の空間には、微かな陽光さえ感じられるような、澄み切った空気が流れていた。

「……ハァ、ハァ……終わった、んだな」

 カグヤは、雪の上にどっしりと腰を下ろした。膝の上には、メガシンカの反動で眠りについたルカリオが横たわっている。カグヤ自身の全身も、凍傷の一歩手前のような鈍い痛みと、激しい脱力感に支配されていた。

「うぱ……」

 ウパーが、カグヤの懐から這い出してきた。過酷な戦いの間、カグヤの波導を必死に安定させようとしていたのだろう。少し疲れた様子で、カグヤの指先を優しく舐め、潤いを与えてくれる。

「ああ、ありがとうな、ウパー。お前のおかげで、自分を失わずに済んだよ」

 カグヤが微笑みながらウパーを抱きしめていると、背後から二人の足音が聞こえてきた。

 

「兄貴! 兄貴!!」

 ナオが駆け寄り、カグヤの隣に勢いよく座り込んだ。その横には、甲羅に白く輝く勲章を刻んだカメールが、誇らしげに胸を張っている。

「すごかった……あのルカリオの一撃。僕、あんなに熱い格闘技、見たことないです!」

「……厳密には、あれはもう単なる格闘技ではないわね」

 シオンが、凍りついた端末をマフラーで拭きながら歩み寄ってきた。彼女の表情には、まだ驚きと興奮の余韻が隠しきれずに残っている。

「あなたの波導がルカリオのエネルギーと完全に同期し、熱量へと変換された。……計算上はありえない現象よ。でも、おかげで私のデータは大幅に更新されたわ。……『絆』が物理法則を凌駕する瞬間を、この目で観測できたのだから」

 シオンは少し照れくさそうに視線を逸らすと、カグヤに一本の温かい携帯飲料を差し出した。

「飲んで。体温を戻さないと、風邪を引くわよ。……それと、あなたのカメールも。よく耐えたわね。あなたの防御がなければ、私の計算も無意味だったわ」

 カメールは嬉しそうに目を細め、ナオのナエトルと顔を見合わせた。この修行を通じて、彼らの中にも、言葉を超えた戦友としての絆が芽生えていた。

 

 一行は、氷の祠の入り口へとゆっくりと歩き出した。

 境界線を越え、再び砂漠の赤茶けた大地が視界に入ったとき、カグヤは一度だけ振り返った。

 あの日、カロスで味わった屈辱。

 ハッサムやルカリオに、タイプの相性という絶望を押し付けてしまったあの日。

 その古傷が、この極寒の修行を経て、ようやく確かな「瘡蓋(かさぶた)」へと変わったような気がした。

「……ハッサム、出番だ」

 カグヤがボールを投げると、紅い鋼の相棒が姿を現した。ハッサムは周囲の熱気を吸い込み、己の鋼鉄の体を確認するように鎌を打ち鳴らす。

 ルカリオが手に入れた「静」の極致と、ハッサムが担う「動」の制圧力。カグヤの中で、ダブルエースの完成形がはっきりと見え始めていた。

「シオン、次の目的地は?」

「……最短ルートなら、北にある『要塞都市・バラム』ね。そこには強力な鋼タイプ使いが集まっているという噂よ。今のあなたたちには、ちょうどいい試練なんじゃない?」

 シオンが不敵に微笑む。

「いいぜ。受けて立つ。……次はどんな壁があろうと、今の俺たちなら正面からブチ抜ける」

 カグヤはルカリオの頭を軽く叩き、ナオとシオンと共に歩み出した。

 砂漠の風は相変わらず熱を帯びていたが、一行の心には、それを凌ぐほどに熱い「絆の火」が灯っていた。

 カロスリーグ・ベスト8という過去は、もう彼らを縛る鎖ではない。

 それは、これからマホロバの頂点へと駆け上がるための、輝かしい出発点となったのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

闘携帯獣伝説 サトシ〜何故か憑依していた闇に舞い降りてない天才〜(作者:アルピ交通事務局)(原作:ポケットモンスター)

アニポケのサトシくんに憑依していた男の長い長い人生を賭けた博打な物語


総合評価:6125/評価:7.86/連載:239話/更新日時:2026年06月17日(水) 18:31 小説情報

アニポケ転生者物語(作者:投稿者)(原作:ポケットモンスター)

物心ついた時、主人公はこの世界がアニメ『ポケットモンスター』の世界だと気づいた。▼リーグ制覇や最強を目指すつもりはない。ただ、この世界の空気を吸い、ポケモンたちと触れ合う「エンジョイ勢」として生きていきたい。▼そう思っていたはずが、旅立ちの日に母から託されたのは、シルフカンパニー製の試作デバイスと、データ収集用のポケモン「ポリゴン」。▼オーキド博士から貰った…


総合評価:1775/評価:7.38/連載:349話/更新日時:2026年06月07日(日) 22:26 小説情報

サトシ君(転生者)の目指せ、ポケモンマスター!!(作者:DestinyImpulse)(原作:ポケットモンスター)

▼ 転生したのはオリ主でもモブでもなく紛れもなく主人公。▼ 定期的に世界を救わなくてはならない大役を背負いながらも、ポケモンとの出会いと冒険に胸を躍らせる。▼ ▼「通りすがりのポケモントレーナーだ、覚えておけ!ピカチュウ、君に決めた!!」▼「ピカチュウ!!」▼ コレはアニポケ主人公のサトシに転生した少年が、時にポケモンと絆を深め、時に女の子とのフラグを作り、…


総合評価:7623/評価:8.61/連載:58話/更新日時:2026年06月19日(金) 19:30 小説情報

ハンター協会の美食料理人(作者:火取閃光)(原作:HUNTER×HUNTER)

美食ハンターとか言う凄く面白い設定があったのに、序盤しか活躍しなかったのでオリジナルキャラを作り2次創作を書いてみました。▼気分転換に書き溜めたプロットを形にしてみました。温かく見守って頂ければ幸いです。▼2026/02/24 19:05頃▼日間ランキング177位を記録! ご愛好ありがとうございます!▼2026/02/26 23:39頃▼日間ランキング58位…


総合評価:4625/評価:7.42/連載:33話/更新日時:2026年04月26日(日) 00:30 小説情報

百式観音を背負いて。(作者:ルール)(原作:NARUTO)

▼ 憧れた姿を追い求め、▼ ただひたすら繰り返し、▼ オッサンはついにソレに辿り着く。▼ そんな狂気のオッサンが混じった忍者活劇。


総合評価:32397/評価:8.17/連載:94話/更新日時:2026年06月15日(月) 06:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>