ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
アコマシティの北部に位置する『アコマ・コロシアム』は、すり鉢状の巨大なバトルフィールドを備えた、街の象徴とも言える施設だった。
カグヤが会場に到着すると、そこにはマホロバ地方特有の、殺気にも似た熱気が渦巻いていた。
「……随分と物々しいな」
周囲を見渡せば、鋭い目つきでポケモンを磨き上げるトレーナーばかりだ。中には、カグヤの肩で「ぱぁー」と欠伸をしているウパーを見て、「場違いな奴が来たな」と鼻で笑う者も少なくない。だが、カグヤはそんな視線を柳に風と受け流し、エントリーの手続きを済ませた。
『アコマ選抜杯、予選を開始します! ルールはバトルロイヤル方式! 制限時間内にフィールド内の相手をより多く戦闘不能にした者が、本戦への切符を手にします!』
アナウンスが響き渡り、カグヤは広大な岩場が広がる第3エリアへと案内された。
フィールドに立ったカグヤの前に、ニヤついた顔で現れたのは、昨夜のあの男たちだった。
「へへっ、運がねえな。ここは仲間同士の協力が許されてるんだ。お前から真っ先に脱落させてやるよ!」
男たちの背後には、彼らと同類と思われる荒くれ者がさらに数人。計六人のトレーナーが、カグヤを包囲するように陣取った。多対一を「ルール」として利用する卑劣な戦略。
「……協力、ね。それはこっちの台詞だ」
カグヤは静かに腰のボールを手に取った。
カロスで共に戦い、敗北の悔しさを共有してきた戦友。その魂は、異郷の地でも一点の曇りなく研ぎ澄まされている。
「行け、ルカリオ!」
光の中から現れた青き勇者は、一瞥しただけで相手の力量を見抜いたように、静かに腰を落とした。
「一斉にやっちまえ! 『ヘドロばくだん』に『はかいこうせん』だ!」
六体同時の、無秩序な攻撃がカグヤとルカリオに殺到する。岩場を砕き、砂煙が舞い上がる。観客席からは「決まったか」と溜息が漏れた。
だが、その砂煙を切り裂いて、一筋の青い閃光が走った。
「――『しんそく』」
カグヤの声は、驚くほど冷静だった。
ルカリオは波導で攻撃の隙間を完璧に読み切り、加速。一瞬で一体目のベトベトンの懐に滑り込み、掌を叩きつける。
「『はどうだん』!」
至近距離で炸裂する波導。ベトベトンが巨躯を震わせて沈むのとほぼ同時に、ルカリオは既に二体目、三体目の影にいた。
目にも留まらぬ速さで繰り出される手刀と蹴りが、次々と相手を無力化していく。
「な、なんだあの速さは!? 捉えきれねえ!」
「ルカリオ、全方位へ『ボーンラッシュ』!」
ルカリオの両手に波導の棍棒が形成される。それを旋風のように振り回し、迫りくるポケモンたちをまとめて薙ぎ払った。
カグヤはルカリオの動きを完全に把握し、次に狙うべき敵を最小限の言葉で指示していく。その姿は、かつて父が数々の激戦で見せた、ポケモンとの「同調」そのものだった。
わずか数分。
カグヤの周囲には、目を回したポケモンと、呆然と立ち尽くす男たちだけが残っていた。
『……す、凄い! 第3エリア、カグヤ選手! 圧倒的なスピードで規定ポイントに到達! 予選トップ通過確定です!』
静まり返ったコロシアムが、一拍置いて大歓声に包まれた。
カグヤはルカリオを労うようにその肩を叩くと、足元で「わぁ〜」と拍手をするようにヒレを動かしていたウパーを抱き上げた。
「お疲れ、ルカリオ。……まずは、こんなもんだろ」
観客席の片隅では、約束通り見に来ていた少年のナオが、目を輝かせてその姿を見つめていた。
そして、それを見つめるもう一つの影があった。大会関係者席の奥で、カグヤの名を記した名簿を眺める人物の口角が、僅かに上がる。
カグヤの「カロス仕込み」の戦いは、瞬く間にマホロバ地方のトレーナーたちの知るところとなった。