ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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鋼の洗礼、歯車コロシアム

 バラムの朝は、重厚な金属音とともに明ける。都市の地下に張り巡らされた巨大な蒸気機関が唸りを上げ、要塞そのものが目を覚ますかのように振動していた。

 カグヤたちが向かったのは、街の西区に位置する「歯車コロシアム」。かつては機械の耐久テスト場だったというその場所は、今やマホロバ大会の予備選会場へと姿を変えていた。

「すごい……バトルフィールドまで鉄でできてる」

 ナオが呆気に取られたように周囲を見渡す。すり鉢状の観客席の中央にあるフィールドは、一面が鈍い銀色に輝く強化合金で覆われ、周囲では巨大な歯車がゆっくりと回転していた。

「このフィールドは、鋼タイプの防御力と重量を最大限に活かすために設計されているわ」

 シオンが端末でフィールドの硬度データを表示しながら、カグヤに忠告する。

「通常の土や草のフィールドと違って、衝撃が吸収されない。……つまり、攻撃を外せば、その反動はすべて自分に返ってくるわよ」

「上等だ。……ハッサム、準備はいいか?」

 カグヤが腰のボールを軽く叩くと、中から鋼鉄を叩くような力強い振動が返ってきた。今日の先鋒は、最も信頼を置くハッサムだ。

 

『これより、バラム予備選・第12試合を開始する!』

 場内にアナウンスが響き、対戦相手がフィールドに現れる。先ほどのエントリー会場で因縁をつけた男・ボルクの部下だという、筋骨隆々のトレーナーだ。

「新参者が特等枠だと? 悪いが、バラムの鋼は生半可な攻撃じゃ傷一つ付かねぇぞ! 行け、フォレトス!」

 繰り出されたのは、堅牢な殻に包まれた『フォレトス』。その巨体はフィールドの鉄板と一体化しているかのように重々しく鎮座している。

「ハッサム、出番だ!」

 カグヤがボールを投げると、真紅の装甲を纏ったハッサムが、鉄のフィールドに音もなく降り立った。

 ウパーがカグヤの肩で「うぱぁ!」と短く鳴き、バトルの開始を告げる。

 

「ハッサム、『バレットパンチ』!」

 カグヤの「オン」の合図とともに、ハッサムが残像を残して加速した。鋼鉄のフィールドを蹴る鋭い音。一瞬でフォレトスの懐に潜り込み、超高速の拳を叩き込む。

 ――ガキンッ!!

 硬質な金属音がコロシアム中に反響した。だが、ハッサムの拳はフォレトスの殻を凹ませるどころか、火花を散らして弾き返された。

「……何っ!?」

 カグヤが目を見開く。

「無駄だ! フォレトスの特性『がんじょう』、そしてこのバラム特製の強化装甲を舐めるな! 『てっぺき』だ!」

 フォレトスの身体が鈍く発光し、その防御力はさらに跳ね上がる。ハッサムはすぐさま距離を取るが、その鎌のような拳は微かに痺れているようだった。

「カグヤ、マズいわ。このフィールドはフォレトスの足裏に磁気で固定されている。……こちらの攻撃の衝撃を、すべてフィールド全体へ逃がしているのよ!」

 シオンの分析が飛ぶ。ただでさえ硬い鋼タイプが、都市のインフラを利用して「動かない要塞」と化しているのだ。

「面白い。……なら、逃がしきれないほどの衝撃を叩き込むまでだ」

 カグヤの瞳に、極低温の闘志が宿る。

 

 その時、足元で試合を見ていたゾロアが、何かを訴えかけるように「くぅん!」と短く吠えた。ゾロアの瞳は、フィールドの隅で噛み合っている巨大な歯車を見つめている。

(……歯車? そうか、機械仕掛けの街なら、必ず『隙間』があるはずだ)

 カグヤは波導の探知範囲をフィールドの深部まで広げた。鉄板の下を流れる蒸気の振動、歯車が噛み合うリズム。

「ハッサム、一旦引け! そのままフィールドの縁(へり)を回れ!」

 ハッサムは主の意図を瞬時に察し、紅い閃光となって円を描くように疾走し始めた。

「逃がさねぇぞ! 『ジャイロボール』だ!」

 フォレトスが自らを高速回転させ、追撃してくる。だが、カグヤは焦らない。ハッサムが歯車の真横を通過する瞬間、カグヤの声が響いた。

「今だ、『しんくうは』を歯車の隙間に打ち込め!」

 ハッサムが放った鋭い真空の刃が、巨大な歯車の噛み合わせを強制的に狂わせる。瞬間、フィールド全体に激しいガタつきが生じ、フォレトスを支えていた磁気回路にノイズが走った。

「――そこだ! 出力を最大に上げろ、ハッサム! 全力でブチ抜け!!」

 足場を失い、一瞬だけ浮き上がったフォレトスに対し、ハッサムが再加速する。今度の『バレットパンチ』は、ただの速さではない。カグヤの波導を乗せた、一点集中の破壊エネルギーだ。

 ドォォォォン!!

 先ほどとは比較にならない衝撃音が轟き、フォレトスの巨体がフィールドの端まで吹き飛んだ。

 静まり返る会場。バラムの洗礼を真っ向から打ち破った新参者の実力に、観客たちは息を呑んだ。

 勝利を確信したハッサムが静かにカグヤの元へ戻る中、ゾロアは「やったね!」と言わんばかりに、カグヤの周りを嬉しそうに駆け回っていた。

 

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