ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

65 / 65
バラムの影、暗躍するスチール・クロー

 衛兵隊長アイアンを下したカグヤの名声は、バラムにおいて不動のものとなりつつあった。しかし、勝利の熱狂に沸くコロシアムの最上階、分厚い防弾ガラスの向こう側から、その光景を冷徹な眼差しで見つめる影があった。

「……面白い。カロスから来たあの小僧、ただの『サトシの息子』ではないようだな」

 暗い部屋の中で、男が低く笑う。その胸元には、バラムの公式エンブレムとは異なる、歪んだ鋼の爪を模したバッジ――密猟組織「スチール・クロー」の紋章が鈍く光っていた。

 

 その夜。予備選を順調に勝ち進んだ一行は、街の外縁部にある静かな宿舎へ戻っていた。

 カグヤはウパーを膝に乗せ、ハッサムの装甲を丁寧に磨いている。今日の一戦でキリキザンの刃を受けた箇所には、微かな擦り傷が刻まれていた。

「……うぱぁ」

 ウパーが、心配そうにハッサムの腕に顔を寄せる。

「大丈夫だ。これくらい、こいつにとっては勲章みたいなもんだろ?」

 カグヤが笑いかけると、ハッサムは満足げに目を細め、静かに呼吸を整えていた。

 その時、部屋の隅で丸くなっていたゾロアが、突然飛び起きた。

 耳をピンと立て、扉の向こうを睨みつけている。ゾロアの波導が、これまでにない「警戒」の色を帯びていた。

「……誰だ」

 カグヤが呟くのと同時に、窓ガラスが激しい音を立てて粉砕された。

「ぐっ……!?」

 飛び込んできたのは、黒い戦闘服に身を包んだ数人の男たち。彼らは迷うことなく、特殊な拘束弾をハッサムと、カグヤの肩のウパーに向けて放った。

 

「――ハッサム、回避! ウパーを護れ!」

 ハッサムが瞬時に反応し、閃光のような動きでカグヤとウパーを突き飛ばして守る。だが、男たちの狙いはそれだけではなかった。

「無駄だ。俺たちの標的は、その『貴重なサンプル』……そして、お前のキーストーンだ!」

 男たちが繰り出したのは、全身が人工的な金属パーツで強化された『エアームド』たち。その翼は剃刀のように鋭く、さらに特殊な「腐食ガス」を噴射しながら部屋の中を旋回し始めた。

「シオン、ナオ! 起きろ、襲撃だ!」

 隣室に叫ぶカグヤ。だが、シオンたちの部屋の周りにも既に「アリアドス」の糸が張り巡らされ、分断されている。

「……こいつら、組織的に動いてやがる」

 カグヤは波導を展開しようとするが、腐食ガスに含まれる微細な金属粉が波導の伝播を乱し、視界を奪っていく。

(クソ、波導の探知を妨害されてる……。このままじゃハッサムの鋼の体も持たない……!)

 

 その時、足元にいたゾロアが、カグヤの前に飛び出した。

 ゾロアは一瞬で「カグヤ自身の姿」に変身すると、囮となって男たちの注意を引くように廊下へ走り出す。

「あっちだ! 標的が逃げるぞ!」

 男たちがゾロアを追って部屋を飛び出した隙に、カグヤはハッサムのボールを握り直した。

「ハッサム、部屋の換気扇をぶち抜け! このガスを外へ出すんだ!」

 ハッサムの重い拳が壁を粉砕し、夜風が室内に流れ込む。視界が晴れた瞬間、カグヤが見たのは、路地裏で追い詰められながらも、必死に変身を駆使して男たちを翻弄するゾロアの姿だった。

「……あいつ、俺たちを守るために……!」

 カグヤの瞳に、激しい怒りの炎が宿る。

 バラムの闇に潜む影、スチール・クロー。彼らはカグヤの実力を認めつつも、それを自分たちの野望のための「部品」として奪おうとしていた。

「ハッサム、行くぞ。……俺たちの仲間に手を出したこと、後悔させてやる」

 カグヤは夜の街へ飛び出した。

 それは大会の公式戦ではない、要塞都市の裏側で繰り広げられる、命懸けの死闘の始まりだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

闘携帯獣伝説 サトシ〜何故か憑依していた闇に舞い降りてない天才〜(作者:アルピ交通事務局)(原作:ポケットモンスター)

アニポケのサトシくんに憑依していた男の長い長い人生を賭けた博打な物語


総合評価:6130/評価:7.86/連載:239話/更新日時:2026年06月17日(水) 18:31 小説情報

サトシ君(転生者)の目指せ、ポケモンマスター!!(作者:DestinyImpulse)(原作:ポケットモンスター)

▼ 転生したのはオリ主でもモブでもなく紛れもなく主人公。▼ 定期的に世界を救わなくてはならない大役を背負いながらも、ポケモンとの出会いと冒険に胸を躍らせる。▼ ▼「通りすがりのポケモントレーナーだ、覚えておけ!ピカチュウ、君に決めた!!」▼「ピカチュウ!!」▼ コレはアニポケ主人公のサトシに転生した少年が、時にポケモンと絆を深め、時に女の子とのフラグを作り、…


総合評価:7661/評価:8.61/連載:58話/更新日時:2026年06月19日(金) 19:30 小説情報

ハンター協会の美食料理人(作者:火取閃光)(原作:HUNTER×HUNTER)

美食ハンターとか言う凄く面白い設定があったのに、序盤しか活躍しなかったのでオリジナルキャラを作り2次創作を書いてみました。▼気分転換に書き溜めたプロットを形にしてみました。温かく見守って頂ければ幸いです。▼2026/02/24 19:05頃▼日間ランキング177位を記録! ご愛好ありがとうございます!▼2026/02/26 23:39頃▼日間ランキング58位…


総合評価:4651/評価:7.42/連載:33話/更新日時:2026年04月26日(日) 00:30 小説情報

百式観音を背負いて。(作者:ルール)(原作:NARUTO)

▼ 憧れた姿を追い求め、▼ ただひたすら繰り返し、▼ オッサンはついにソレに辿り着く。▼ そんな狂気のオッサンが混じった忍者活劇。


総合評価:32528/評価:8.18/連載:94話/更新日時:2026年06月15日(月) 06:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>