ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
月明かりさえも鉄塔に遮られるバラムの路地裏。カグヤに化けたゾロアを追い詰めたスチール・クローの男たちが、拘束ネットを構えてにじり寄る。
「捕まえたぞ、ガキが……。……ん? 貴様、なんだその顔は」
追い詰められた「カグヤ」が、不敵にニヤリと笑った。直後、その姿が紫の煙とともに解け、小さなゾロアがべろりと舌を出して男たちを嘲笑う。
「化けの皮が剥がれたか! ならばその珍しい個体ごと力ずくで――」
男がエアームドに攻撃を命じようとした瞬間、背後の壁が爆発的な衝撃で粉砕された。
「――俺の仲間に、それ以上触れるな」
立ち込める煙の中から、カグヤが姿を現す。その左右には、既にボールから解き放たれたルカリオとカメールが、静かな、だが苛烈な闘志を纏って控えていた。
「ハッサム、上空のエアームドを落とせ! ルカリオ、逃げる奴らを逃がすな! カメールはゾロアを保護しつつ、防御陣形を維持しろ!」
カグヤの鋭い号令が飛ぶ。
まず動いたのはハッサムだ。翅を高速振動させ、夜の闇に紅い残像を刻みながら上昇。エアームドが放つ腐食ガスを、鎌の素振りで生じさせた風圧だけで押し戻し、ゼロ距離からの『バレットパンチ』を叩き込む。
「ギィィィッ!」
強化パーツで固められたエアームドが、悲鳴を上げて地面に叩きつけられた。
「逃がさねぇぞ!」
混乱に乗じて逃走を図る男たちの前に、ルカリオが神速の動きで立ち塞がる。その掌には、夜闇を青く照らす高密度の『波導弾』が生成されていた。
「氷の祠で学んだことを忘れたか? 俺たちの波導からは、誰も隠れられない」
ルカリオが放った波導弾は、男たちの足を正確に撃ち抜き、その機動力を奪う。一方で、カメールはゾロアを自身の硬い甲羅の陰に隠し、『てっぺき』と『みずのちかい』を組み合わせた水の防壁を展開。スチール・クローの増援が放つ毒針や弾丸を、一滴たりとも通さず弾き返した。
「カメェッ!」
カメールの頼もしい叫びに、ゾロアは震えを止め、カグヤの元へ駆け寄る。
「ゾロア、よく時間を稼いでくれたな。……あとは、こいつらに『落とし前』をつけさせるだけだ」
カグヤの瞳が、波導の昂ぶりとともに青く発光する。
男たちが最後の悪あがきとばかりに、隠し持っていた爆弾を投げようとしたその時――カグヤは腰のキーストーンに指をかけた。
「ルカリオ、ハッサム! 同時に行くぞ!!」
二つの光が夜のバラムを昼間のように照らし出す。
紅蓮の風を纏うメガハッサムと、青き意志を燃やすメガルカリオ。二体のメガシンカポケモンが同時に並び立つという絶望的な光景に、スチール・クローの男たちは戦意を喪失し、その場に崩れ落ちた。
「……何者なんだ、貴様は……!」
「ただのトレーナーだ。……お前たちが汚した、この街の『鋼』を磨き直しに来ただけのな」
カグヤが冷たく言い放つと同時に、要塞の警備局が駆けつけるサイレンの音が響き渡った。
闇に紛れていたネズミたちは一掃されたが、カグヤは知っていた。この襲撃は、バラムの深部に潜む真の巨悪が放った、単なる「挨拶」に過ぎないということを。
「……うぱぁ」
戦いが終わり、ウパーがカグヤの肩で安堵の吐息をもらす。
ゾロアは、自分を助けてくれたハッサムやカメールたちの勇姿に目を輝かせ、自身も強くありたいと願うように、カグヤの手のひらに鼻先を擦り付けた。