ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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鋼の意志、明日への歯車

 砂塵が舞い、静まり返るアイアン・ドーム。膝を突いたメガボスゴドラの巨体が、重苦しい金属音を立てて震えていた。内側から波導を直接叩き込まれた衝撃は、鉄壁の装甲を「逃げ場のない牢獄」へと変え、城塞の王の内部を確実に蝕んでいた。

「……おのれ、小僧がぁ……! 我がバラムの、我が自警団の誇りを汚しおって!」

 ボルクの顔が怒りと屈辱で赤黒く染まる。彼は負けを認めるどころか、懐から不気味に赤く明滅する非公式の通信機を取り出し、強引にスイッチを入れた。

「聞こえるか! 管理室! 出力を最大まで上げろ! 街の全蒸気圧をこのフィールドの磁気回路へ回せ! 予備選の勝敗など知ったことか、この場でこの余所者を、その生意気なポケモンごと灰にしろ!!」

 その瞬間、フィールドを囲む巨大な歯車が、断末魔のような悲鳴を上げて逆回転を始めた。バラムの地下水脈から吸い上げられた高圧蒸気が、安全弁を突き破って噴出し、闘技場全体が視界を遮る白い闇に包まれる。ボルクは自警団の権限を最悪の形で悪用し、都市のエネルギーを暴走させてカグヤを抹殺しようというのだ。

「カグヤ、危ないわ! 都市のエネルギーがフィールドの床板に逆流している! このままだと磁界が暴走して、フィールド全体が爆発するわよ!」

 シオンの叫びが霧の中に響く。観客たちはパニックに陥り、出口へと殺到し始めた。

「……どこまでも汚い奴だな。あんた、自分の街まで壊す気か」

 カグヤの波導が、怒りで鋭く尖る。だが、その隣でメガルカリオは、荒れ狂うエネルギーの奔流を「視る」ために、あえて静かに目を閉じた。

「ルカリオ、行けるか?」

 カグヤの問いに、ルカリオは短く、力強く頷く。主とポケモンの波導が完全に同期し、周囲の暴走するエネルギーさえも、一つの「流れ」としてカグヤの脳内に描写される。

「ゾロア、お前の出番だ! 奴の意識をこちらから逸らせ!」

 カグヤの指示に、ボールから飛び出したゾロアが応える。ゾロアは一瞬で「巨大なメガボスゴドラ」の幻影へと変身し、ボルクの目の前で、本物を凌駕する威圧感とともに咆哮を上げた。

「なっ、何だ!? どちらが本物だ!? 貴様、幻覚か!?」

 ボルクが動揺し、指示が乱れたその一瞬の隙を、カグヤは見逃さなかった。

「ハッサム、カメール、出ろ! ルカリオの背後を固めろ! 全員でこの暴走を止めるぞ!」

 カグヤが全戦力を投入する。ハッサムが翅を高速振動させ、暴風を巻き起こして視界を遮る霧を払い除ける。カメールは『てっぺき』を併用した水の防壁を展開し、四方から噴き出す熱い蒸気を遮断。その中央を、ルカリオが一本の青い矢となって突き進んだ。

「――これが、俺たちの全開だ!! 『はどうだん』!!」

 ルカリオの掌に、カグヤの意志、ハッサムの闘志、カメールの献身、そしてゾロアの勇気が一つに凝縮されていく。それはもはや既存の技の域を超えた、巨大な青い彗星のようなエネルギー体へと膨れ上がった。

 ドォォォォォォン!!

 メガボスゴドラの胸部に、青き光の塊が直撃した。

 装甲を砕くのではない。波導の光は、ボルクが不正に供給していた暴走エネルギーの「核」を捉え、それをメガボスゴドラの体内から強引に押し出したのだ。

 爆音とともに、メガボスゴドラのメガシンカが強制的に解除され、元の姿に戻って仰向けに倒れる。同時に、過負荷に耐えかねたフィールドの歯車が機能を停止し、街を震わせていた不快な振動が嘘のように止まった。

『……勝者、カグヤ選手!!』

 審判の震える声が静寂を切り裂いた瞬間、ドームは割れんばかりの歓声に包まれた。それは、恐怖と利権で街を支配していたボルクの時代の終焉を祝う、解放の産声だった。

 

 数時間後。夕刻の光が差し込むバラムの街の外れ、次なる目的地へと続く列車のホームに、カグヤたちの姿があった。

 ボルクは駆けつけた正当な衛兵隊長アイアンの手によって、汚職と殺人未遂の容疑で連行された。要塞都市バラムには今、再び清廉な鋼の秩序が戻ろうとしている。

「……カグヤ、これ。アイアン隊長から、街を救った礼も兼ねて預かってきたわよ」

 シオンが手渡したのは、重厚な鋼で作られた、この地方の紋章が刻まれた特別なメダルだった。

「これは、地方評議会が公認する『マホロバ・チャンピオンシップス本戦への招待状』よ。これ一つで、地方各地で行われる数多の予選をすべて飛び越えて、頂点を決める最終決戦への出場が確定する……いわゆる、本戦シード権ね」

 カグヤは受け取ったメダルの重みを掌で確かめた。その表面に反射する夕陽を眩しそうに見つめる。

「……これで、マホロバ・チャンピオンシップスの舞台が見えたな。あの大舞台で優勝すれば、カロスにいる『あいつら』の入国制限を正式に解除させられる。……やっとスタートラインだ」

 カグヤは、遠いカロスで待つゲッコウガやカイリューたちの姿を思い描き、メダルをポケットに深くしまい込んだ。肩の上のウパーが、平和な旅の再開を喜ぶように、カグヤの首元で「うぱぁ」と上機嫌に鳴いている。

 そして、その足元には、すっかり一行に馴染んだ新しい相棒、ゾロアの姿があった。ゾロアは誇らしげに胸を張り、カグヤの正式なパートナーとして、その瞳をキラキラと輝かせている。

「さて、次はどこへ行くの? 私の演算によれば、本戦までにさらなる火力を強化すべきだけど」

「兄貴! 次の街には旨い飯屋が揃ってるって、ゾロアが言ってるみたいっすよ! そこで特訓っす!」

 ナオが笑い、シオンが呆れたように肩をすくめる。

 カグヤは走り出した列車の窓から、遠ざかる要塞都市・バラムの煙突群を眺めた。

「待ってろよ、マホロバの頂点。俺たちの『鋼』は、まだまだ強くなる」

 カグヤの指先には、ハッサムとルカリオ、カメール、そして新入りのゾロアが眠るボールの、温かな鼓動が伝わっていた。

 一行を乗せた列車は、夕陽が溶ける地平線に向かって、新たな冒険の歯車を回し始めた。

 

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