ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
眩い進化の光が収まったとき、入り江に立っていたのは、かつての愛らしい姿を脱ぎ捨てた「動く要塞」だった。
二門の巨大なハイドロカノンを背負い、ドッシリと岩場を踏みしめるカメックス。その眼光は、ただの防御を越えた、重厚な破壊者のそれへと変貌していた。
「……う、うそだろ……」
ボートの上で、カイトの顎が外れんばかりに落ちる。
よりにもよって、自分が放った『なみのり』の衝撃をきっかけに、相手を最大の進化へ導いてしまう。彼の「運のなさ」は、ナギサタウンの潮流よりも予測不能だった。
「カメェェッ!!」
カメックスが腹の底から響くような咆哮を上げる。その威圧感は、昨日ハッサムやルカリオが見せたものに近い。
「カイト、せっかくの進化だ。テストに付き合ってもらうぞ」
カグヤの冷徹な声が、エンジンの音を切り裂いて響く。
「ひっ……! お、おい! オーダイル、ひるむな! 『はかいこうせん』だ! やっちまえ!!」
ヤケクソになったカイトの指示で、オーダイルが口から白光のエネルギーを放つ。だが、カメックスは避ける素振りも見せない。
「カメックス、正面から『ハイドロポンプ』。……ゾロア、その影に隠れて一気に間を詰めろ!」
ドォォォォン!!
オーダイルの『はかいこうせん』と、カメックスの両肩から放たれた『ハイドロポンプ』が真っ向から激突する。だが、その出力差は歴然だった。カメックスの放つ水圧は光線を押し戻し、オーダイルをボートごとひっくり返さんばかりに圧倒する。
「な、なんだあの水圧……! ポンプ車どころじゃねぇ、ダムが決壊したみたいだ!」
悲鳴を上げるカイト。だが、彼の不運はそこで終わらなかった。
激しい水飛沫の霧の中から、ルカリオのような「青い影」が猛スピードで飛び出してきたのだ。
「し、しまった! ルカリオか!?」
カイトが身構える。だが、その影は宙で「ポフッ」と煙を上げ、小さなゾロアへと戻った。ゾロアは恐怖を乗り越え、自分を信じて進化した先輩の背中に応えるべく、カイトの足元へと飛び込んだ。
「――ゾロア、『ふいうち』だ!」
カグヤの鋭い号令。ゾロアは、自分を笑ったカイトの足首に、渾身の噛みつきを見舞う!
「痛ってぇぇぇ!! このチビ、やりやがったな!!」
痛みでのけぞるカイト。その拍子に、彼はボートのレバーを強引に「全開」へと倒してしまった。
「あ、あわわわ!! 止まれ! 止まれぇぇぇ!!」
制御を失ったボートは、カメックスが放った水流の渦に巻き込まれ、猛スピードで旋回を始める。まるで洗濯機の中に放り込まれたような惨状に、カイトと取り巻きたちは白目を剥き始めた。
「……あ、あいつ、本当にバカね……」
岸壁で見ていたシオンが、呆れ果てて額を押さえる。
結局、カイトたちのボートは自滅に近い形で入り江を暴走し、最後は浅瀬に乗り上げて沈没。カイトたちは、這々の体でボートから脱出し、ボロボロの姿で砂浜へ打ち上げられた。
「お、覚えてろよ……! 明日の『潮騒トーナメント』本選では……絶対に、絶対に泣かせてやるからな……!!」
昨日と同じ台詞を、さらに惨めな格好で叫びながら逃げ出すカイト。その背中は、もはや滑稽を通り越して、どこか哀愁すら漂っていた。
「……カメェ」
カメックスは、逃げていく彼らを追う価値もないと言わんばかりに、鼻先で一気に水を噴射して勝利の凱歌を上げた。
ルカリオは満足げに腕を組み、ハッサムは進化によって得たカメックスの重量級の装甲を、品定めするようにカチカチと鎌を鳴らしている。
「……ゾロア、よくやったな」
カグヤが膝をつき、泥だらけのゾロアを撫でる。
「お前が見せた勇気が、カメールを『カメックス』に変えたんだ」
ゾロアは嬉しそうに尻尾を振り、進化したばかりの巨大な先輩を見上げた。
ナギサタウンの大会本番は明日。だが、今のカグヤのパーティには、昨日までの「弱点」はもう存在しなかった。