ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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潮騒の開幕、幻影と自滅のカイト

 ナギサタウンの太陽が、エメラルドグリーンの海面に反射して眩しく輝く。

 ついに始まった「潮騒トーナメント」。会場は通常の土のフィールドではなく、港の一角をブイと電磁フロートで区切った「海上特設リング」だ。足場は常に波で揺れ、海中からの奇襲も許される、マホロバ地方でも屈指の難関ルールである。

「さあ、第一試合だ! 注目は昨日の騒動で一躍有名になった、カロスからの刺客カグヤ! 進化した要塞カメックスと、小さな幻影ゾロアのコンビだ!」

 実況の声が響く中、カグヤはカメックスとゾロアを従えて、浮島のようなリングに降り立った。

「そして対するは……ナギサの自称・風雲児! 昨日は芸術的な自滅を見せてくれた、愛すべきお調子者カイトだぁ!」

「う、うるせぇ! あれは高度な戦術的撤退だっつーの!」

 対面の浮島に現れたカイトは、無残な姿だった。全身に包帯を巻き、特に右足首には、昨日のゾロアの噛み跡を保護する分厚いギプスと包帯が巻かれている。 さらに、ボート事故で痛めたのか、腰には大きな湿布を貼り、びっこを引いて立つその姿は、風雲児というよりは「野戦病院の脱走兵」である。その格好だけで、観客席からは一斉に失笑が漏れた。

「ヒヒヒ……だがな、カグヤ! 今日は俺の秘策中の秘策、『ナギサ・ファイナル・フォーメーション』をお見舞いしてやるぜ! 痛ててっ……足が、足が疼くぜ……!」

 カイトが痛みに顔を歪めながら繰り出したのは、パワー自慢の『オーダイル』と、この環境で真価を発揮する『サメハダー』。どちらもナギサの荒波を熟知した強敵だ。

 

「カメックス、ゾロア。……教官(ハッサム・ルカリオ)たちが後ろで見ている。お前たちの『本当の力』を、この海に刻んでこい」

 カグヤの合図とともに、試合の火蓋が切られた。

「サメハダー、海中から『かみくだく』! オーダイルは『アクアテール』でカメックスを足場から叩き落とせ!」

 サメハダーが瞬時に海へ潜り、死角からゾロアを狙う。同時に、オーダイルが重量級の尾を振り回し、カメックスを翻弄しにかかった。

「……カメックス、一歩も引くな。足場の揺れを『ジャイロボール』の回転力に変えろ!」

 カメックスがその場で猛烈に回転を始めた。バラムの鋼鉄軍団から学んだ「回転による衝撃の無効化」。オーダイルの尾を弾き飛ばすと同時に、回転の勢いで周囲に巨大な渦を作り出し、海中に潜んでいたサメハダーを強引に引きずり出した。

「今だ、ゾロア! 特訓の成果を見せろ! 『幻影の多重露光(マルチレイヤー)』だ!」

 ゾロアが動いた。一瞬、ルカリオの姿に変身したかと思うと、着水の瞬間にポフンと煙を上げ、今度は「三体のカメックス」へと分裂したように見せかけた。

「な、なにっ!? 本物はどれだ! 全部デカすぎて、足場が沈むぞ!」

 カイトがパニックに陥る。もちろん、三体のうち二体はゾロアが作り出した「残像と幻影」だ。だが、オーダイルが幻影に目を奪われたその隙に、ゾロア本体はカメックスの死角から飛び出し、サメハダーの鼻先に強烈な『あくのはどう』を叩き込んだ。

「――仕上げだ。カメックス、最大出力の『ハイドロカノン』!!」

 本物のカメックスの二門の巨砲が、眩いエネルギーを充填する。潮流の反動を自身の踏ん張りに変え、噴射と同時に足場を沈めるほどの超高圧水流が放たれた。

 ドォォォォォォン!!

 サメハダーとオーダイルは、なす術もなくリング外まで吹き飛ばされ、遥か沖合の海面に巨大な水柱が上がった。

 

「ヒ、ヒィィィィィッ!! 水飛沫が、傷口に、傷口に沁みるぅぅ!!」

 あまりの水圧の余波に、カイトが立っていた浮島が激しく傾く。彼は必死に耐えようとしたが、ギプスで固めた右足が滑り、無様に開脚するような形で股を強打した。

「あぎゃああああッ!?」

 悲鳴とともに、カイトは浮島から滑り落ち、そのまま海へ真っ逆さま。

「ブクブク……助けてぇ! ギプスが重くて沈むぅぅ! 誰か、誰か助けてぇぇぇ!!」

 海面でジタバタと溺れるカイト。昨日のボート暴走に続き、今日も今日とて完璧な「自滅のフルコース」である。観客席は、カグヤへの歓声とカイトへの爆笑が入り混じった、奇妙な熱気に包まれた。

「……あいつ、本当に救いようのないバカね……」

 岸壁で見ていたシオンが、呆れ果てて額を押さえる。

 

 海から引き上げられ、タオルに包まってガタガタと震えながら、鼻水を垂らすカイト。その姿は、風雲児どころか、ただの「水に濡れた負け犬」だった。

「……うぱぁ」

 ウパーがカイトに憐れみの目を向け、控えエリアで腕を組んでいたルカリオは、成長を見せたカメックスとゾロアに向かって、短く「合格」を告げるように吠えた。

「……よし、準決勝進出だ」

 カグヤは歓声に浮かれることなく、次の対戦表を見据えた。そこには、ナギサタウンの平和な潮風を汚すような、不穏な実力者の名が刻まれていた。

 

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