ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
ナギサタウンの港を、燃えるような夕刻の橙色が染め上げる。潮騒トーナメントの決勝戦は、異様な静寂の中で幕を開けた。
カグヤの前に現れたのは、この街の港湾利権を一手に握る興行主、バルト。蛇のように冷酷な瞳でカグヤを値踏みし、不敵な笑みを浮かべていた。
「カロスから来た若造か。ガイルを破った腕は認めるが、ここは私の庭だ。……本戦への切符(ライセンス)を持っているそうだが、この街の掟に逆らった余所者が、無事に会場へ辿り着けると思うなよ。ここで叩き潰し、そのライセンスをただの紙屑にしてくれる」
バルトが解き放ったのは、鉄壁の防御を誇る『パルシェン』と、水中からの高速雷撃を得意とする『ランターン』。
「……お前の汚い縄張り意識など興味はない。カメックス、ゾロア。自分たちの力を証明してこい!」
決勝のゴングが響き渡る。
「パルシェン、『からをやぶる』! ランターン、海中から『ほうでん』だ! 逃げ場のない海ごと感電させてやれ!」
パルシェンが殻を脱ぎ捨てて加速し、同時にランターンが水中からフィールド全体を揺るがす電撃を放った。海水を通じて走る雷光。カメックスとゾロアに絶体絶命の危機が迫る。
「カメックス、ハイドロポンプを真下へ噴射して跳べ! ゾロア、カメックスに合わせろ!」
カメックスが二門の砲塔から高圧水流を放ち、自らの巨体を空中へと押し上げた。海面を走る雷光を回避するが、そこへパルシェンが『つららばり』で追撃する。
「空中では逃げられまい! 串刺しにしてやれ!」
「……今だ、ゾロア! 特訓の成果を見せろ!」
カグヤの合図で、カメックスの背中に飛び乗っていたゾロアが動いた。ゾロアは空中を舞いながら、一瞬で「もう一体のカメックス」へと姿を変えた。
バルトの目には、空中に二体の巨大なカメックスが並んで浮いているように見えたはずだ。
「な、なんだ!? 二体に増えただと!?」
「ゾロア、幻影に合わせて『あくのはどう』! カメックス、最大出力の『ハイドロポンプ』!!」
本物のカメックスが放つ破壊的な水流と、ゾロアがカメックスの姿のまま放った漆黒の衝撃波。二つの攻撃は空中で螺旋状に絡み合い、巨大な「二重の渦」となってパルシェンの氷を粉砕した。
バルトは「二体のカメックスが同時にハイドロポンプを撃ってきた」ような感覚に陥り、どちらを迎撃すべきか一瞬の判断を誤る。その隙に、合体攻撃は海面に浮上したランターンをも飲み込んだ。
「仕上げだ、カメックス! 重力加速度を乗せて『ボディプレス』!!」
ゾロアが空中で変身を解き、身軽にカグヤの元へ飛び降りるのと入れ替わりに、質量を極限まで乗せた本物のカメックスが「要塞」の如くバルトのポケモンたちの上に降り注いだ。
ドォォォォォォン!!
特設リングが激しく傾き、パルシェンとランターンは戦闘不能の渦の中へと沈んだ。
「……ば、馬鹿な……私のナギサタウンが……私のプライドがぁぁ!!」
バルトが頭を抱えて絶叫する中、観客席からは街の解放を喜ぶような大歓声が巻き起こった。
静かに波立つ海の上。カメックスは砲塔から白い蒸気を吐き出し、ゾロアはその隣で誇らしげに胸を張った。控えエリアで見守っていたルカリオは、ゾロアが「自分に化ける」のではなく「相棒に化けて連携する」という独自の成長を見せたことに、満足げに深く頷いた。
「……お疲れ様。最高だったぞ、二人とも」
カグヤが二体を呼び寄せると、ウパーが「うぱーっ!」と元気よくカメックスの頭に飛び乗った。
ナギサタウンに、本来の穏やかな潮騒が戻ってくる。本戦への準備は、これで完全に整った。