ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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極光の断崖編
六つ目の空白、五体目の安らぎ


 マホロバ地方の空は、カロスよりも少しだけ高く、そして冷たい。

 ナギサタウンでの激闘を終え、一行は北へと向かう蒸気機関車の中にいた。窓の外を流れる切り立った岩山を眺めながら、カグヤは手元の端末に表示された「マホロバ・チャンピオンシップ」の本戦登録画面を見つめていた。

 

【登録状況:4 / 6】

 

 バラムでの推薦により、出場権は確保されている。だが、準決勝以降のフルバトルを戦い抜くには、あと「二枠」の実戦戦力が足りない。

「……ハッサム、ルカリオ、カメックス、ゾロア。実戦戦力は、まだ四体ね」

 向かいの席でノートPCを叩いていたシオンが、事務的な口調で現実を突きつける。

「言っておくけど、生態系保護規定は絶対よ。ハッサムとルカリオという二体の『特例入国個体』を既に抱えている以上、これ以上の国外ポケモンの持ち込みは認められない。……本戦までに、あと二体。このマホロバで出会うしかないわ」

 カグヤは無言で、肩の上でうたた寝をしているウパーの柔らかな腹を指先で突いた。

「わかってるさ。……でも、あと二体、か」

 カグヤの視線が、画面上の空席と、肩の上で呑気に欠伸をするウパーの間を往復する。

 カグヤにとって、ウパーは「戦力」ではない。過酷なバトルの後に自分を「ただのカグヤ」に戻してくれる避難所であると同時に、そもそもこの小さな相棒には、闘争心というものが欠落している。

殺気の渦巻く戦場に、この争いを知らない「凪」のような存在を立たせることなど、カグヤの「理」が許さなかった。

(……ウパーを戦わせる選択肢は、俺の中にはない)

 しかし、手持ちの枠は残り一つ。もしこの地で二体の強力なポケモンを仲間にすれば、連れて歩ける上限の「六体」が埋まってしまう。

 そうなれば、ウパーを研究所に預けなければならないのか。あるいは、誰かをカロスへ送り返すのか。カグヤの愛情と勝負師としてのジレンマが、北風の中で軋んでいた。

 

「兄貴、そんなに難しい顔しなくても……。あ、もしかしてウパーのこと?」

 ナオの問いかけに、カグヤは答えず、ただウパーの頭を優しく撫でた。

「シオン。……北へ向かえば、その『二枠』を埋める答えがあるんだな?」

「ええ。ナギサタウンの港湾ギルドから面白い噂を仕入れたわ」

 彼女が画面をカグヤの方へ向ける。そこには、険しい断崖絶壁が連なる「極光の断崖」の写真と、目撃証言が記されていた。

「ここ数ヶ月、断崖の頂上付近で現地のエアームドやウォーグルが次々と叩き落されている。犯人は、マホロバには生息していないはずの、紅い小鳥……」

 カグヤの瞳が、オンの鋭さを帯びた。

「……紅い小鳥?」

「そう。目撃した登山家によると、信じられないほどの速さと、死をも恐れない苛烈な闘争心を持っているそうよ」

 ヤヤコマ。父サトシと共に空を駆け抜けたファイアローの、進化前の姿。そして、母セレナの実家で、幼い自分を朝一番に起こしてくれたあの小鳥の種族。

 父さんの戦友であり、家族の日常でもあったその存在が、なぜこのマホロバにいるのか。

 カグヤは窓を開けた。吹き込んできた北方の冷気が、彼の髪を激しく揺らす。

(フルバトルには、あと2体必要だ。かといって、本戦も近づいてるし、生半可なポケモンだと……)

 かつての自分を支えた「最強の7体」の記憶が脳裏をよぎる。あの完璧な陣容を考えると、今の「空席」がやはり心許なく感じていた。

「行こう。まずはその『紅い流星』を確かめる」

 蒸気機関車が長い汽笛を鳴らし、極光の断崖へと続くトンネルへと吸い込まれていった。

 カグヤの肩の上で、ウパーは何も知らずに心地よさそうに身をよじった。

 その小さな、あまりにバトル向きではない温もりが、いつか後にフルバトルの最後の一枠を埋める「不屈の凪」へと変わる瞬間が来るなど、今のカグヤには知る由もなかった。

 

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