ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
上空で爆鳴が轟いた。
密猟組織の飛行艇から放たれた電磁捕獲弾が、ヤヤコマの翼をかすめて岩肌で弾ける。ヤヤコマは空中で鋭い反転を見せ、ニトロチャージによる紅い軌跡を描きながら、執拗に迫るドローン群を次々と叩き落としていく。
「……無理よ。あんな物量、一羽で捌ききれるはずがないわ!」
シオンが叫ぶ。その間にも、飛行艇の下部ハッチが開き、更なる捕獲網が展開されようとしていた。
カグヤは戦況を鋭く睨み据えながらも、視線を足元の「敗者」へと向けた。
先ほど叩き落とされたエアームドだ。鋼鉄の翼は無惨にひしゃげ、激痛に喘いでいる。この極寒の断崖で動けなくなることは、死を意味していた。
「ナオ」
カグヤの短い呼びかけに、震えていた少年が顔を上げた。
「あのエアームドを放っておけば、奴らの捕獲兵器に巻き込まれるか、寒さで動かなくなる。……助けられるのは、お前だけだ」
ナオは、自身のナエトルを強く抱きしめた。
これまでの旅で、カグヤの「圧倒的な強さ」に憧れ、背中を追い続けてきた。だが、目の前で苦しむ巨大な鋼の鳥を前に、足がすくむ。
「僕が……? でも、あんなに強そうなポケモン、僕なんかが……」
「ナオ、見て。アイツの目」
カグヤの指差す先。エアームドの瞳には、かつてのナオと同じ、弱者が抱く深い「怯え」があった。強者の縄張りを侵した罰として堕とされ、今また人間に狩られようとしている絶望。
「……ナエトル。僕たちと同じだ。行こう!」
ナオは意を決して駆け出した。背後から迫るドローンの銃撃を、カグヤのルカリオが「波導弾」で即座に迎撃する。
「ナエトル、リフレクター! エアームドを守るんだ!」
小さなナエトルが、その身を挺してエアームドの前に光の壁を展開した。降り注ぐ弾丸の火花が散る。ナオはひしゃげた鋼の翼に手をかけ、懸命に声を張り上げた。
「大丈夫だ! 僕も、こいつも、弱いけど……お前を置いていったりしない!」
その必死な呼びかけに、エアームドの瞳の濁りがわずかに晴れた。ナオが差し出したモンスターボールが、光となって傷ついた巨体を吸い込む。
「……一枠、埋まったわね。ナオ、おめでとう」
シオンが呟く。これでナオのパーティには、これまでにない「盾」と「翼」が加わったことになる。
だが、上空の事態は深刻さを増していた。
ヤヤコマは執念で飛行艇のブリッジへ突撃を繰り返すが、網の目のような電磁バリアに行く手を阻まれている。過呼吸気味に肺を鳴らすヤヤコマの姿に、カグヤの波導が激しく波打った。
(……限界だ。アイツの誇りが、自分自身を壊そうとしている)
カグヤの肩の上で、それまで静かに震えていたウパーが、ゆっくりと立ち上がった。
激痛に耐えるヤヤコマ。それを見て眉間に皺を寄せるカグヤ。そして、守るべき仲間が増えた戦場の殺気。
ウパーは、カグヤの頬に柔らかい頭をこすりつけた。まるで、「大丈夫だ」と伝えるかのように。
「ウパー……?」
カグヤが驚きに目を見開く。ウパーが自らカグヤの肩から飛び降り、雪の積もる岩場に降り立った。
かつてないほど濃密な、それでいてどこまでも透明な波導が、小さな体から溢れ出す。
「よせ、ウパー! ここはまだお前の出る幕じゃ――」
カグヤの制止を遮るように、飛行艇から巨大な重力波発生装置が放たれた。断崖全体を圧迫するような、不可視の暴力が一行に降りかかる。
その時だった。
ウパーが、その小さな体を天へと向け、短く鳴いた。