ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
飛行艇の爆炎が遠く雲海へと沈み、断崖には再び、冷徹なまでの静寂が戻っていた。
カグヤは、腕の中のウパーを抱きしめたまま、その柔らかな背中から伝わる心拍を確かめていた。小さく、けれど先ほどの死闘を乗り越えた確かな鼓動。
「……ウパー、お前、本当に無茶しやがって」
カグヤの波導は、かつてないほど凪いでいた。ウパーが命を懸けて作り出したあの「静寂」は、カグヤの神経質なまでに鋭かった感覚を、優しく包み込んでいた。
ふと視線を感じ、カグヤが顔を上げると、そこには手持ちのポケモンたちが円を描くように集まっていた。
先ほど、そのハサミでウパーの覚悟を試したハッサムが、一歩前へ出る。紅い装甲は各所で火花を吹き、重力負荷による疲労は隠せない。だが、その双眸には、明確な「敬意」が宿っていた。
ハッサムは、動けないウパーの隣にどっしりと腰を下ろすと、無骨なハサミをそっと雪の上に置いた。
(認めよう。お前は、我らの主を癒やすだけの存在ではない。共に背中を預け、この過酷なマホロバを歩む戦士だ)
言葉はなくとも、ハッサムの佇まいがそう語っていた。
「クウッ」
メガルカリオへの進化を温存し、自らの波導で重力を耐え抜いたルカリオもまた、ウパーの前に膝をつく。彼はウパーの小さな額に、自らの手をそっと重ねた。波導の共鳴。ルカリオの「静」の極致と、ウパーの「天然」の凪が、一つの理(ことわり)として混ざり合っていく。
カメックスは巨大な体を揺らして歩み寄ると、その重厚な甲羅で北風を遮るように、一行の風上に立った。ゾロアもまた、いつもの悪戯っぽさを封印し、ヤヤコマとウパーの周りを守るように静かに伏せる。
「……信じられないわね。力でねじ伏せるんじゃなくて、存在そのもので戦場を調和させるなんて」
シオンが端末を閉じ、感嘆の息をついた。
「カグヤ、これであなたのパーティーは……いえ、あなたの『理』は完成したわ」
カグヤは、仲間に加わったばかりのヤヤコマを肩に乗せ、改めて手持ちの六体を見渡した。
エースのハッサムとルカリオ。
要塞のカメックス。
変幻のゾロア。
空を裂くヤヤコマ。
そして、全てを繋ぐ凪の要、ウパー。
「フルバトル、六対六……か。正直、これまでは父さんたちの影を追って、足りないピースを探すことばかり考えてた」
カグヤの声は、凍てつく空気に溶け込んでいく。
「でも、今の俺には見える。このマホロバで出会い、共に泥をすすり、それでも笑い合ってきたこの六体こそが、俺がマホロバの頂点に立つための答えだ」
カグヤは空を見上げた。厚い雲の切れ間から、極光(オーロラ)の奔流が揺らめき始めていた。
その光の向こう側には、カロスで待つ懐かしい家族たちがいるはずだ。
「よし。行くぞ、みんな」
カグヤの言葉に応えるように、ハッサムが低く唸り、ルカリオの波導が青く燃える。ヤヤコマは高く、鋭く鳴き声を上げた。
カグヤは、ウパーをいつもの定位置、自分の頭の上へと乗せた。
「ウパー、これからも頼むぞ。……本戦でも、俺の隣でお前の『凪』を見せてくれ」
ウパーは、カグヤの髪に頬を寄せ、嬉しそうにパチャリと身をよじった。
最強の血筋を背負う少年と、不揃いな絆で結ばれた六体。
極光に照らされたその背中は、もはや両親の影ではなく、自分たちだけの道を堂々と歩み始めていた。