ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

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幕開けの閃光、計算外の先駆者

「第一戦、開始!!」

 審判のフラッグが鋭く空を切ると同時に、準決勝の幕が切って落とされた。互いに残された手札は6体。その記念すべき先鋒戦。

「僕の完璧な計算に、まずはひれ伏してもらうよ。行きなさい、サンダー!」

 レオンが放ったモンスターボールから現れたのは、鋭利な稲妻のような翼を持つ伝説の鳥ポケモンだった。ただのサンダーではない。羽ばたき一つに無駄がなく、纏う電撃の密度が異常に高い。マホロバの英才教育の元、極限まで個体値を厳選され、努力値を調整された、まさにレオンの理論の結晶とも言える個体だった。

 対するカグヤは、腰のベルトから静かに一つのボールを抜き取った。

「俺たちの最初の風だ。――行ってくれ、ヒノヤコマ」

 紅い翼がフィールドに舞い降りる。進化前のヒノヤコマ。

 その瞬間、スタジアムの観客席から大きな衝撃が走った。それもそのはず、電気・飛行タイプのサンダーに対し、炎・飛行タイプのヒノヤコマ。タイプ相性としては完全に不利であり、さらに進化前と伝説のポケモンという、スペック面では絶望的な格差が存在していた。

「あはは! 本気かいカグヤ選手!」

 レオンが堪らずといった風に高笑いをあげる。

「いくら君のヒノヤコマが優秀だとしても、種族の壁、そしてタイプ相性の壁は絶対に超えられない! データを無視した采配がどれほど愚かか、身を以て知るといい! サンダー、『十万ボルト』!!」

 サンダーの鋭い嘴から、フィールド全体を焦がすほどの狂暴な雷撃が放たれた。直撃すれば、進化前のヒノヤコマなど一撃で消し飛びかねない絶対的な破壊の光。

 だが、カグヤの瞳は「オン」のまま、微塵も揺らがなかった。

 

「ヒノヤコマ、右斜め上へ『ニトロチャージ』」

 カグヤの波導の合図と同時に、ヒノヤコマが爆発的な炎を纏って地を蹴った。

 凄まじい速度。だが、それはサンダーの電撃を避けるためではない。十万ボルトの光条がヒノヤコマの尾羽をかすめ、スタジアムの床を爆砕するその瞬間、ヒノヤコマはすでにサンダーの死角へと回り込んでいた。

「速い……!? だけど、甘いよ! サンダーの耐久力は、進化前の火力をただの一発も通さないように調整されている! 『放電』で全方位を焼き払いなさい!」

 レオンの冷静な対抗策。サンダーの全身から、逃げ場のない電撃の球体が網の目のように広がっていく。

「通さない、か」

 カグヤはフッと不敵に口角を上げた。

「なら、その調整ごとブチ抜くだけだ。――『ソーラービーム』」

「なっ……何!? 溜めなしで……!?」

 レオンの顔が初めて驚愕に歪んだ。

 

 放電の波がヒノヤコマに届くより早く、上空のヒノヤコマの嘴から、スタジアムの照明の光を限界まで収縮した純白の熱線が放たれたのだ。これまでの試合でも猛威を振るった、タイムラグ無しの神速の一閃。

 ドガァァァン!!!

 純白の光線がサンダーの分厚い胸元に直撃し、スタジアムに凄まじい爆炎が巻き起こった。電気タイプのサンダーにとって草タイプの技は半減されるはずだが、極限まで凝縮されたエネルギーの質量そのものが、サンダーの巨体を力任せにフィールドへと叩きつける。

「クッ……! 耐えろサンダー! 『羽休め』で即座に――」

「行かせるか。『アクロバット』」

 爆煙を切り裂き、紅い流星が垂直落下した。

 ニトロチャージによる加速、そしてソーラービームの反動。そのすべてを推進力に変えたヒノヤコマが、道具を持たないことで真価を発揮する最高威力の乱舞となって、サンダーの脳天へと突き刺さる。

 ズガガガガガン!!!

 再生の暇すら与えない、完璧なタイムラグなしの二連撃。

 伝説の鳥ポケモンであるサンダーの巨体が、信じられないといった様子で、力なくフィールドの泥へと沈んでいった。

「サ、サンダー、戦闘不能! ヒノヤコマの勝ち!」

 静寂。そして、それを切り裂くような、割れんばかりの大歓声がスタジアムを包み込んだ。

「決まったあああーっ!! なんということだ! 大会の絶対王者レオン選手のサンダーが、進化前のヒノヤコマの圧倒的なコンビネーションの前に、一歩も動けず撃墜!! 先鋒戦を制したのは、カグヤ選手だーっ!!」

「兄貴ぃぃぃ!! 最高だ!!」

 客席でナオが身を乗り出して絶叫する。シオンもまた、手元の端末のデータが完全に狂わされたのを見て、呆然としながらも不敵に笑っていた。

「うぱー」

 カグヤの頭の上で、ウパーがのんびりとあくびをする。

 

 レオンは信じられないものを見る目で、拳を握りしめながらサンダーをボールへと戻した。彼の完璧なデータ、完璧な調整が、出会い頭の一瞬で粉砕されたのだ。

「……なるほど。これが君の『理』というわけかい、カグヤ選手」

 レオンの金髪の奥の瞳から、完全に余裕が消え去った。

「認めよう、君たちはただの曲芸師じゃない。だが、僕の計算の真骨頂はここからだ。スペックの暴力を、本当の意味で思い知るといい」

 レオンの手が、次なるボールへと伸びる。カグヤの「不揃いな家族」と、マホロバの「最強のエリート」。先頭の1体を崩された金獅子が、いよいよその凶暴な牙を剥こうとしていた。

 

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