ポケットモンスター 遥かなる高みへ 作:色即是空
「焼き尽くしなさい、エースバーン!!」
レオンが怒りを乗せて放った3体目。
フィールドに現れたのは、引き締まった四肢と強靭な脚力を誇る炎のストライカー――エースバーンだった。
ピッチを駆けるようにステップを踏むその身体から、陽炎のような熱気が立ち上る。マホロバの最新設備で限界まで素早さと攻撃力を引き上げられた、超攻撃特化型の個体だ。
「カメックス、続けて『なみのり』で一気に押し流せ」
カグヤの冷静な指示。先ほどバンギラスを沈めた濁流の再現。カメックスが再び大地を叩き、スタジアムの床に溜まった水を巨大な高波へと変えてエースバーンへと迫らせる。タイプ相性は圧倒的にカグヤが有利。
だが、レオンは不敵に口角を上げた。
「甘いよ。そんな鈍重な技、僕のエースバーンの前では止まっているも同然だ。――『とびひざげり』で波を割れ!」
エースバーンが爆発的な脚力で地を蹴り、垂直に跳躍した。
その跳躍力は、迫り来る水の壁を遥か上空から飛び越えるほど。さらに、自由落下を推進力に変え、強烈な膝蹴りの体勢のままカメックスの脳天へと一直線に急降下してくる。
「カメックス、『まもる』!」
カグヤの反応も一瞬だった。カメックスの前に緑色の強固な障壁が展開される。
――しかし、レオンの狙いはそこではなかった。
「今だよ、特性『リベロ』発動! 技を『身代わり』に変更!」
激突の直前、エースバーンのタイプが炎から「ノーマル」へと変化し、その肉体が奇妙な身代わり人形へと置き換わった。カメックスの『まもる』の障壁を、攻撃ではなく「変化技」によるすり抜けで完全にスカしたのだ。
「そして本尊はここだ! 『ダストシュート』!!」
カメックスの背後に、音もなく着地していた本物のエースバーン。
その手から、猛毒を孕んだ巨大なゴミの塊が至近距離から投げつけられた。カメックスの巨体がその質量と毒に押しつぶされ、苦悶の声を上げる。さらに最悪なことに、カメックスの体表が紫色に染まった。確率を引き当てた――『どく』状態だ。
「しまっ……! カメックス!」
客席のナオが声を上げる。
毎ターン体力を削られる猛毒は、カメックスのような耐久型のポケモンにとって致命傷だった。
「リベロによるタイプ不一致の解消と、絶え間ない攪乱……これが僕の組んだ高速アタッカーの理論だ! 続けざまに『とびひざげり』!!」
タイプが格闘へと変化したエースバーンが、目にも留まらぬ連続蹴りをカメックスの分厚い甲羅へと叩き込む。カメックスも『ハイドロポンプ』で応戦しようとするが、エースバーンの超スピードはその砲身の向きを軽々と翻弄し、死角からの打撃を許さない。
じわじわと、しかし確実に削られていくカメックスの体力。
「カメックス、よく耐えた。戻ってくれ」
カグヤはこれ以上の消耗は危険と判断し、エースをボールへと手元に戻した。
「カメックス選手、一度ベンチへ引きます! しかし、レオン選手のエースバーン、まさに戦場を縦横無尽に駆け巡る圧倒的なステップです!」
実況の声に、スタジアムのエリート観客たちがようやく大歓声を上げる。これこそが自分たちの信じる「スペックとデータの勝利」だと確信したように。
「さあ、次は何を出す? 君の自慢の『家族』とやらは、このスピードについてこられるのかな?」
レオンが勝ち誇ったように笑う。
カグヤは静かに息を吐き、腰のベルトから4つ目のボールを手に取った。
「――ルカリオ、頼んだ」
青き波導の戦士が、フィールドに音もなく舞い降りた。
カロスでの悔しさを知り、カグヤの実家の庭でリオルの頃から泥だらけになって育ってきた、本当の意味での「相棒」の一体。
ルカリオが姿を現した瞬間、その瞳には、カグヤの脳内に直接響くような強烈な闘志が宿っていた。
頭の上のウパーが「うぱ……」と少しだけ真面目な顔をしてルカリオを見つめる。
「鋼タイプのルカリオか! エースバーンの炎技の格好の餌食だね! 焼き尽くしなさい、『火炎ボール』!!」
エースバーンが足元で激しい炎の球体を形成し、爆発的なキックでルカリオへと蹴り飛ばした。スタジアムの空気を一瞬で蒸発させるほどの焦熱の弾丸。
だが、カグヤの瞳は、静かな「オン」のまま、ルカリオと完全に同調していた。
「ルカリオ、波導を。――『しんそく』」
シュン、と世界の音が消えた。
火炎ボールがルカリオの残像を焼き払った瞬間、ルカリオの本尊はすでにエースバーンの目の前に到達していた。神速の踏み込み。
「なっ、速……!?」
レオンが驚愕する暇すら与えず、ルカリオの掌底がエースバーンの胸元へと叩き込まれた。
ドゴォォォン!!!
凄まじい衝撃波が走り、今度はエースバーンの巨体がフィールドを転がった。カロスで磨き上げられ、カグヤの波導によって極限まで研ぎ澄まされたルカリオの『しんそく』は、マホロバのデータ上の速度すらも凌駕していた。
「これが、俺たちの速度だ」
カグヤのぶっきらぼうだが確かな自信に満ちた声が、静まり返ったスタジアムに響き渡った。