ポケットモンスター 遥かなる高みへ   作:色即是空

99 / 99
氷結の檻、不揃いな絆の真価

「……認めよう。君たちは僕のデータを、システムを、完全に超越している」

 レオンは静かに、だが異様なほど冷徹な声で呟いた。彼の金髪は汗で額に張り付き、その瞳からは先ほどまでの焦燥が消え失せ、代わりに底冷えするような執念が宿っている。

「だけどね、カグヤ選手。どれほど君たちの絆が本物だろうと、このマホロバの頂点に君臨する『絶対的な絶望』だけは、絶対に突破させない。――目覚めなさい、キュレム!」

 レオンが放った5体目。その瞬間、スタジアム全体の気温が急激に低下した。

 現れたのは、凍てつく歪な氷の身体を持つ伝説の巨竜――キュレムだった。その咆哮一つでフィールドの泥水が一瞬にして凍りつき、観客席の誰もが思わず身震いするほどの極寒の波動が吹き荒れる。マホロバの総力を挙げて確保され、最高峰の戦闘兵器として調律された、規格外の「暴力」そのものだった。

「ルカリオ、戻れ。よく繋いでくれた」

 カグヤはインファイトの連撃で限界を迎えていたルカリオをボールへ戻した。相手は伝説の氷竜。スペックの格差はこれまでの比ではない。

「さあ、カメックスを出すかい? それとも……」

 レオンが氷の霧の向こうからカグヤを睨みつける。「どく」状態のカメックスでは、この極寒のフィールドを維持するキュレムの耐久を削り切る前に倒れる。レオンは完全にカグヤの手札を詰んだと確信していた。

 

 カグヤは腰のベルトから、5つ目のボールを抜き取った。

「お前の番だ。――頼むぞ、ハッサム」

 キィィィン! と鋭い金属音を響かせ、深紅の鉄甲を纏ったハッサムがフィールドに降り立つ。

 カロスでの苦い記憶を共有し、カグヤの実家の庭でストライクだった頃から、鎌の背を使ってチャンバラに付き合ってくれた、カグヤのもう一体の「本物の相棒」。

「ハッサムか! 鋼タイプで弱点を突く算段だろうけれど、そんな教科書通りの戦術が、このキュレムに通じると思うかい!? 『ふぶき』でフィールドごと凍りつきなさい!」

 キュレムの巨大な顎から、スタジアム全体を完全に圧殺するほどの猛烈な吹雪が放たれた。視界は真っ白に染まり、強力な冷気がハッサムの鋼の肉体を凍てつかせんと迫る。

「ハッサム、お前の『本気』を見せてやれ。――キーストーン、開放!」

 カグヤが懐から取り出したのは、虹色に輝く石――キーストーンだった。

 それに呼応するように、ハッサムの身体が目映い光に包まれる。カロスの戦いを経て、さらに深まったカグヤとハッサムの絆が、今、限界を超えた力を引き出した。

「な……!? メガ進化だと……!?」

 光が晴れた跡には、より重厚で、鋭利に研ぎ澄まされた鉄甲を纏ったメガハッサムが立っていた。ハサミはさらに巨大化し、全身から圧倒的な闘志が放たれている。メガハッサムは目をつむり、カグヤの波導と同調した。吹き荒れる極寒の嵐の中、自身の攻撃力を爆発的に引き上げる。鋼の装甲が冷気で軋むが、その闘志は1ミリも凍りついていなかった。

「無駄な足掻きを! そのまま『だくりゅう』で押し流せ!」

 レオンの冷酷な追撃。キュレムが巻き起こした泥混じりの激流が、メガハッサムの足元を襲う。先ほどのカメックスの技を利用したレオンの仕返し。メガハッサムの身軽な動きを奪い、凍結させるための完璧なハメ技の構築だった。

 

 だが、カグヤはフッと口角を上げた。

「ハッサム、あの頃のチャンバラを思い出せ。……『見切り』だ」

 メガハッサムの目がカッと見開かれた。

 迫り来る濁流、そして背後から迫る吹雪の刃。そのすべての「軌道」を、メガハッサムは完璧に見切っていた。幼い頃、庭の隅でカグヤが振るう木の棒を、傷つけないように最小限の動きで躱し続けたあの時間。マホロバのシミュレーターでは絶対に再現できない、数千、数万回におよぶ「本物の経験値」が、メガハッサムの身体を限界を超えて加速させる。

 シュン! と、濁流のわずかな隙間をメガハッサムの深紅の身体がすり抜けた。

「なっ……当たっていない……!? データの命中計算が狂っている……!」

 レオンが初めて、その完璧な頭脳を恐怖で震わせた。

「お前たちの計算式には、俺たちが泥だらけになって過ごした『時間』が入ってねえんだよ」

 カグヤの瞳から、強烈な波導の光が放たれる。

「終わりだ、ハッサム。――『バレットパンチ』」

 研ぎ澄まされた剣の舞の威力を乗せた、至近距離からの神速の鉄拳。

 メガハッサムの放った巨大なハサミが、キュレムの強固な氷の胸甲へと完璧に突き刺さった。

 ズガァァァァァン!!!

 スタジアムが真っ二つに割れるかのような衝撃音が響き渡る。

 メガハッサムの圧倒的な格闘センスと、カグヤの波導が限界まで高めた一撃は、伝説の氷竜の身体を内側から爆砕するかのように、その巨体を大きく吹き飛ばした。

 ドサァァァン……!

 スタジアムを支配していた極寒の霧が霧散していく。そこには、信じられないといった様子で、力なく横たわるキュレムの姿があった。

 

「きゅ、キュレム戦闘不能! メガハッサムの勝ち!!」

 審判の声が、静まり返ったスタジアムに響く。次の瞬間、地鳴りのような大歓声が沸き起こった。

「信じられない! 伝説のキュレムを、ハッサム選手が、メガ進化と紙一重の見切りからのバレットパンチ一撃で完全粉砕!! カグヤ選手、ついにレオン選手を残り1体まで追い詰めました!!」

「兄貴ィィィ!! マジで神だ!!」

_ナオが客席の柵を乗り越えんばかりに絶叫する。シオンもまた、手元の端末を見つめたまま、「見切りからのバレットパンチ……あの人の『庭』には、一体どれだけの怪物が眠っているの……」と、畏怖すら混ざった笑みを浮かべていた。

「うぱー」

_カグヤの頭の上で、ウパーが我が世の春を謳歌するように元気に鳴いた。

「……アハハ……ハハハ……!」

_レオンは壊れたように笑いながら、キュレムをボールへと戻した。彼の完璧な方程式は、完全に塵へと帰した。だが、その金髪の奥にある瞳は、まだ死んでいない。

「最高だよ、カグヤ選手。君たちの『庭の理』、僕のすべてを賭けて、正面から叩き潰してあげる」

 レオンの手が、最後の、そして彼自身の本当の相棒のボールへと伸びる。

 マホロバのジュニアユースを統べる金獅子の、本当の最終決戦が始まろうとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

闘携帯獣伝説 サトシ〜何故か憑依していた闇に舞い降りてない天才〜(作者:アルピ交通事務局)(原作:ポケットモンスター)

アニポケのサトシくんに憑依していた男の長い長い人生を賭けた博打な物語


総合評価:6108/評価:7.85/連載:239話/更新日時:2026年06月17日(水) 18:31 小説情報

青き炎のBEACON《道標》(作者:リクライ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

私は──『ブラック★ロックシューター』▼ 感情の形を知らない、人の形をした何か。青い炎を宿す瞳と、害すあらゆるものを打ち倒す存在の名前。▼私は──『ブラック★ロックシューター』▼ 怯える少女の心を守るため、彼女の代わりに痛みを引き受け、世界の全てを傷つけ続ける歪んだ鏡に映る自分。▼私は──『ブラック★ロックシューター』▼ 夜の底で挫けた者たちの悲鳴に応え、黎…


総合評価:898/評価:8.1/連載:30話/更新日時:2026年07月24日(金) 21:15 小説情報

俺、サトシになってました(笑)(作者:黒ソニア)(原作:ポケットモンスター)

気がついたらアニポケの主人公:マサラタウンのサトシに転生した平凡な一般人。▼転生憑依したものの、アニポケと全く異なる展開に戸惑ったり、様々なトラブルに遭遇したり……甘酸っぱい青春を送ったりする。▼そんな彼が頑張って『ポケモンマスター』を目指す物語だ。▼作者はポケモンにわか初心レベルなので、ご了承下さい。


総合評価:11059/評価:8.55/連載:97話/更新日時:2026年07月27日(月) 06:00 小説情報

ニューサトシのアニポケ冒険記(作者:おこむね)(原作:ポケットモンスター)

もしサトシ君に前世の記憶が蘇って、アニポケやゲームの知識を持ったニューサトシになったらこうなっちゃったというお話。▼世界観はアニポケですが、ゲーム、ポケスペ、独自解釈、オリジナル要素を含みます。▼アマゾンプライムビデオでアニポケ見たら書きたくなったのですが、作者は小説を初めて書くので文章がおかしい所があるかもしれません。▼作者はポケモンにわかです。▼【挿絵表…


総合評価:30934/評価:8.97/連載:349話/更新日時:2026年06月25日(木) 20:00 小説情報

幼馴染にフラれたので旅に出ることにした(作者:イグアナ)(原作:ポケットモンスター)

ポケモンバトルが強い人が好きという幼馴染(オリキャラ)に振り向いてもらうために何年も死ぬほど特訓したけど、その幼馴染が強すぎてポケモンバトルに一度も勝てずに振られてしまったので、すっぱりと諦めた後に旅に出ることにしたお話。▼なお振り向いてもらうために特訓しすぎてとんでもなく強くなっているが、本人にその自覚はない模様。▼※追記1▼何故かこの作品の三次創作を書い…


総合評価:45200/評価:8.83/連載:127話/更新日時:2026年07月26日(日) 17:11 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>