オレの名はロナルド・ウィーズリー! よろしく頼みますよ、ポッターさん!! 作:冬月之雪猫
突如大広間を舞台に始まった公開プロポーズ。
告白しているのはロナルド・ウィーズリー。告白されているのはハーマイオニー・グレンジャー。
―――― なんだ、あの様は……。
恐れた事がある。憎悪した事もある。けれど、セブルス・スネイプにとって、闇の帝王は偉大な男だった。
誰よりも魔法の真髄に近づき、誰よりも強大な魔法力を持つ最強の魔王。
敵対する立場に立っていても、その事実は動かず、その認識も変わらない。
ヴォルデモート卿がリリー・エバンズを殺さなければ、彼は変わらず帝王に忠誠を誓い続けていただろう。
それ程の男が少年を相手に百面相を繰り広げている。まるで年頃の少女のようにコロコロと表情を変えている。
―――― いや、あり得ない。あの方があのような醜態を晒すなど……!
スネイプは
推理が間違っていたのだ。そう確信した。
アレは帝王の分霊などではない。正真正銘のハーマイオニー・グレンジャーだ。それならばあの百面相にも説明がつく。
「……校長、やはりトーマスの方のようですね」
グレンジャーが候補から外れた以上、残っている分霊の憑依先はディーン・トーマスのみだ。
「違う」
アルバス・ダンブルドアはスネイプにだけ聞こえる声で呟いた。
「……違う?」
「彼女こそ分霊じゃよ」
「は?」
スネイプは凍りついた。
「……ミス・グレンジャー本人ならば、あそこまで百面相になる事はない」
怒るか恥ずかしがる。あるいは喜ぶ。そのどれか一つの感情を爆発させていた事だろう。
けれど、実際の彼女が発した感情はあまりにも複雑怪奇だった。
「最初に見せたのは戸惑いの表情。あれは理解を超えた事態に遭遇した人間特有のものじゃった。プロポーズ。即ち、愛を突きつけられた事を彼は理解出来なかったのじゃよ。それ故に、恐らくはミス・グレンジャーの記憶と接続してしまったわけじゃ」
ダンブルドアはほぼ正確にグレンジャーに憑依している分霊の感情を読み取っていた。
「今、あの者はミス・グレンジャーの記憶に取り込まれようとしておる」
「……つ、つまり、あれが」
スネイプは愕然となった。今もグレンジャーは少女らしく頬を赤らめながらウィーズリーに口説かれている。
気味が悪かった。
「いや、あり得ない。て、帝王があのような……」
受け入れがたい現実を前にして、スネイプは青褪めた。
闇の帝王と死喰い人の関係は宗教に近い。
相手は神の敵である! 相手は神の怒りに触れた! これは神の命令である!
そういう言い訳があったからこそ、死喰い人は人を殺せた。人から奪えた。罪を犯せた。
しかし、帝王は神ではなかった。そう突きつけられた瞬間、言い訳は使えなくなってしまう。
だから、余計に彼らは必死になる。必死に帝王を偉大なる存在と崇め、それを否定する者を攻撃しようとする。
「……我輩はあんな者に付き従っていたのか」
クィレルの愛によって記憶を消された帝王を見た。
ハーマイオニーの
―――― 『その代わりに、わしには何をくれるのじゃ、セブルス?』
嘗てと同じだ。
スネイプはアルバス・ダンブルドアを慈悲深き聖人であると考えていた。けれど、彼はリリーを救う事に見返りを求めて来た。
その時、スネイプはダンブルドアに対しても神を見出していた事に気がついた。同時に神ではなく、彼が人である事にも気がついた。
そして今、彼は闇の帝王も人である事に気がついた。
当たり前の話だ。それなのに、彼を盲信し、付き従い、挙句の果てにリリーを失った。
あまりにも愚かな話だ。バカバカしくて、もはや笑い話にもならない。
―――― リリー……。
第三十六話『眠る場所』
ロンの行動があまりにも意味不明過ぎて、僕達はずっとポカンとしていた。
大広間のど真ん中でプロポーズをするなんて、映画でも早々見ない展開だ。
「オレに憑依しろ!!」
「はぁ!?」
けれど、徐々に二人の様子がおかしくなっていった。
何が起きているのか、何をしたいのか、さっぱり分からない。
だけど、ロンは真剣だ。それだけは分かる。
「ロン! さっきからどうしたって言うの!?」
「……ドビーですよ」
「ドビー!?」
その名前には覚えがある。夏休み、突然現れた屋敷しもべ妖精だ。
自分を傷つけながら、必死になって僕に迫ろうとしている危機を伝えに来てくれた。
「今、お嬢さんは何者かに憑依されている。それはお嬢さんにとって辛い事だ。だけど、辛いのはお嬢さんだけじゃなかった!!!」
ロンは叫ぶと共にハーマイオニーの両肩を掴んだ。
彼女は涙を流しながら呆然とロンを見つめている。
「泣いてる奴を放っておく事は出来ねぇ!! オレの下へ来い!!」
分からない。何がなんだか分からない。だけど、ロンは何か取り返しのつかない事をしでかそうとしている。そんな気がする。
「……分からない」
ハーマイオニーが呟いた。
「お前は何なんだ……。ボクが何者なのか、分かっていないのか!?」
「ああ、分かってねぇ!! だから、教えてくれ!! お前の名前、お前の性格、お前の事情!! 全部教えてくれ!!」
ロンは瞳をメラメラと燃やしながら叫んだ。
「オレはお前の涙を止めたいんだ!!」
「……貴様は識っている筈だ。これは攻撃だぞ。貴様は攻撃を受けているんだぞ!! それなのに……、ボクを受け入れると言うのか!?」
攻撃。それが何を意味しているのか、すぐには分からなかった。
けれど、夏休みの間に起きたロンの異変や今の状況がパズルのように組み合わさっていく。
徐々に真相という名の絵が完成していく。
「当然だ!! 泣いてる奴を放ったらかすなんざ、男が
やっと分かった。これがドビーの言っていた罠なんだ。既に
「だ、ダメだ!! ロン!! 冷静になってよ!!」
「止めるな、ポッターさん!! オレはこいつを救いてぇんだ!! だから!!!!」
ロンは叫んだ。
「オレに攻撃して来い!! 逃げも隠れもしねぇから!!」
「……バカだ。こんなバカは見たこと……、無い」
ハーマイオニーの体が不自然に揺れた。そして、彼女の体から何かが飛び出してきた。
攻撃だ。咄嗟に杖を抜いた。だけど、ロンは僕を手で制した。
「来い!!」
そして、ハーマイオニーから飛び出してきた何かはロンの中へ吸い込まれるように消えていった。
「……ロン」
そして、ハーマイオニーはその場に崩れ落ちるように座り込みながらロンを見上げた。
「助けてあげて……。彼、寂しいのよ……」
ロンは応えない。固く瞼を閉ざしながら、深く息を吸い込んでいる。
「……眠っちまった」
「え?」
ロンは悲しげな表情を浮かべた。
「随分と疲れてたみたいだ。オレの出来る事ってのは、少ねえなぁ……」
「……ロンは大丈夫なの?」
「ああ、ピンピンしてまさぁ」
◆
再び入り込んだ彼の中はとても暑苦しかった。
燃え盛る炎の中にいるかのようだ。
だけど、不思議と居心地がいい。
『……もう、ハーマイオニーの体じゃないのに』
彼女の魂はそっくりそのまま彼女に返した筈なのに、心の中は彼女の中にいた頃のままだ。
この炎に包まれていると安心する。ずっと何かを求めていた筈なのに、なんだかどうでもよくなって来た。
『なんだか……、疲れたな』
オリジナルは何だかんだで上手くやっているようだし、分霊は分霊らしく、