トレーナーは『青空《スカイ》』が見えない 作:Skyjack02
5月に入ったトレセン学園。グラウンドには珍しく海人の姿があった。いつものように上から下までスーツに白衣という外でトレーニングを見るにはおよそ似つかわしくない格好だ。足元にジャーマン・シェパードがいるというのも、同じく似つかわしくない。
だが、その姿勢というものは真剣そのものでホームストレートを駆け抜ける芦毛のウマ娘の足音を聞き漏らさんと耳を傾けていた。
「あと1周ねー」
「はーい!」
言葉が目の前を過ぎていき、彼は顔でそれを追いかけた。生身の人では到達しえないスピードにほんの僅かの憧れも抱きながら、彼女がしているスポーツウォッチから送られてくるセクタータイムを聞く。
「順調順調。読み上げは便利だね」
タイムを200mあたり0.5秒短縮し、目標タイムは12.5まで縮まった。半年ごとくらいの区切りでどんどん短くし、最終的には11秒前後まで早くしようと言うのが彼の計画だ。タイムを縮めるのなら、練習から速く走ることが大事だ。
おおよそ1分弱で戻ってきた彼女の足音が緩やかになり、そして小さくなる。全力で走っていた息は上がりきっていておかえり、とかけた声にもすぐに反応できる様子ではない。
酸素吸入器とタオルを差し出してみたが、受け取ったのはタオルのみ。髪の毛と首元を勢いよく拭いてから、海人が続いて渡した水筒からドリンクを喉に流し込んだ。
「ぷはっ!」
「うん。おかえり」
「はー、ただいまです……セリカちゃんも」
「だんだん慣れてきたんじゃない? ……腕診せて」
足元の犬を触りたい衝動を抑えながら、開かれた手に手首を載せる。歳の割には手入れされた指が2本当てられて、「スタート」という呟きと共に1分が経つ。彼は唸りながら何事か考えていた。
「唸ってても分かりませんよ」
「この前より心拍数は上がらなくなってきた」
「そんなすぐわかるんです?」
「ほんの僅かな違いかもしれないけどね」
手首の温もりが離れ、微笑む海人を目の前に見すえる。
「さぁ、とりあえずメニューは終わったけど追加する?」
「ふむ。具体的には?」
「坂路」
そう言って指さした先はオーバルトラックから離れたところにある坂路で、今も何人かのウマ娘が走り込みを行っている。一人でやろうとすると始める前に心を折ってくる程の長さの一直線。
「えー、いきなりどういう風の吹き回しですか?」
「さっき、スペシャルウィークさんとタイキシャトルが走ってたんだ」
「ほう?」
不満を見せたセイウンスカイに、目下1番のライバルの情報を告げる。彼女は興味を惹かれたのかその紺青の瞳を見開く。同じトラックを走っていた訳では無いが確かに、その光景は何回か見ていた。だが、どのようなトレーニングを行っていたかというのは全く分からない。右堂海人という体のスペシャリストから知識は授けてもらっていたが、様子を見なければ分かるはずもない。
「足音からしてピッチ走法を教えていたのかもしれない。上り坂はピッチ落とさないで走った方がいいし。あと、足音が重なって聞こえてた。スリップストリームの実践も繰り返してるのかもね」
スペシャルウィークと〈スピカ〉は勝ちパターンをひとつ完成させようとしている。というのが彼の結論だった。最終コーナーで前に張り付き、スピードを乗せる。そのままホームストレートに入ったところでオーバーテイクし突き放す。
「あと足音に重さが消えつつあった。前回は増えた筋肉量に対応しきれてなかった体を、その出力に耐えられるようにチューニングしてきてる印象だよ」
もし体が仕上がれば、加速力はバカにならないレベルになるだろうね。セイウンスカイが返却した水筒やタオルをカバンに詰め込みながら、彼は説明を続けた。
加速力というのは大事なパラメータである。セイウンスカイの場合……と言うよりも逃げウマ娘は、ハナ争いをするためにスタートという速度ゼロの段階から巡航速度まで素早く持っていくのに必要だ。
他にも最終盤でラストスパートに突入する際に速度を素早く上げられれば、同じ距離を短い時間で走ることが出来る。
「立ち上がりってのは重要だからね。立ち上がりが遅れると、ラストスパートの間ずっとロスが生まれることになる」
「特に次の東京はホームストレートが長いから……ですか?」
「そうだね。コーナーは逆にタイトめだからコーナリングも必要。難しいコースだよ」
中央のレースが行われるレース場のうち、屈指のロングストレートを持つのが東京……つまり府中の特徴だ。時間にして30秒弱。ウマ娘が気兼ねなく全開に走れる区間をいかに早く走るか。
そして大きな問題は、そのホームストレートに大きな坂があること。中山の坂はまだスタミナ的にギリギリであるものの、ホームストレート前半にあるため比較すれば楽。しかし、最後の最後に現れる高低差2mの坂は彼女たちには壁のように見える。
「スタミナも必要。パワーも必要。蹄鉄のセッティングは難しい……『豪運』な娘が勝つってのも頷ける」
「蹄鉄は多分左鎚さんがやってくれますよ。たぶん」
「ま、君のセッティング能力を信じるしかない」
「皐月賞の時も思いましたけど責任重大、かぁ」
これからの坂路でのトレーニングを思ってか、それともダービーへのセッティング作業を思ってか。大きな大きなため息とともに肩を落とした。まぁまぁ、との声と共に慰めようとした彼の手は空を切る。
「あ、ミスった」
「すまないね」
「やり直します?」
1歩体を寄せて、また肩を落とす。彼女の耳がパタパタと揺れていることも、じーっと視線を注がれていることも彼には分からなかった。シルエットがぼんやりと見えるだけだが何を期待されているのか。
内心頭を抱えながら、背中に手を置く。
「まあ、そう肩を落とすんじゃない。必要なことだ。手伝いは最大限するさ」
「期待してますよ?」
そう言いながら背筋を伸ばす彼女から発せられた、右堂海人という男が自分を裏切るわけないという信頼に満ちた言葉に、彼は微妙な笑顔を浮べる。
医者としてやってきて、どちらかと言えば人とは敵対することが多かったからだ。学園生活の、競技生活の終わりを告げる死神のようなもの。しかし、今〈アルゴル〉の右堂海人はセイウンスカイという若者を導く立場。
良いのかと言う思いは消えないが、それでも確かな喜びだった。
「さて。じゃあ行こうか」
「えー、1回医務室でやすみたいー! だめー?」
「だめ。早く終わらせてから休もう」
「最近私の扱いわかってきた系?」
「そりゃ1年やってるから」
「ですよねー。しょうがない。トレーナーさんが言うなるそうしますか。セリカちゃんとも触れ合いたいし」
トラックの一角を離れて、坂路へと足を進める。ハーネスとカバンを持って歩く海人の隣をセイウンスカイは歩いていた。
医務室から続く、ほのかにするオゾンと薬品のにおい。何となく体に悪いような予感もするが、すっかり慣れてホームの匂いになってしまっていた。最初に医務室に潜り込んだ時は「病院みたいで嫌だな」と思ったものだが今はどうだろうか。
この匂いで思い出されるのはお菓子とふかふかのベッドと固めのソファとセリカの柔らかな毛並み。海人が座る椅子の軋む音とキーボードの音と朗々たるセカンドテノール。
同じものを感じているのに、連想するものはまるっと違う事実に感動を覚える。
「私も進歩してるってこと?」
チリンチリンと軽やかな鈴の音。セリカのハーネスに付けられた存在を知らせる鈴だ。
「なんか言った?」
「いいえ何でも」
「さて到着かな?」
オーバルトラックから離れ、一直線に伸びる坂路の真ん中ほどにやってきた。何度見ても始める前から精神にダメージを与えてくるダートの上り坂の先にゴールはある。
「本数は?」
自らのモチベーションが音を立ててひび割れていくのを自覚しながら彼に聞く。手帳の点字をなぞりながらメニューを確かめ。
「とりあえず5本。それ以上は君の心拍数見てかな」
「はーい」
思ったより気の抜けた返事になったことを反省する。
「まあまあ。よくやってくれてるからもう少し。そしたら好きなだけ休んで」
「仕方ないなぁ」
ほんの些細な褒め言葉と餌でもやる気がもりもり湧いてくる単純さに辟易しながら、練習用シューズを締め直す。
「ストレッチ含めて改めてやること。タイムは『可能な限り変化なく』。じゃあ向こうで待ってるから」
そう笑顔を残し、彼は坂路の脇を歩いてゴールへ向かう。セイウンスカイもスタート地点、坂路のふもとに向かいながら足をのばし、アキレス腱をじっくり温め、そして足首の動きを見る。
「問題ないかなー。疲労は」
足には確かにペース走の疲労が溜まっていたが、まだ動きが鈍ってどうしようもなくなるほどでは無い。後でマッサージを良くしてもらおうと決意しながら遠ざかる白衣の背中を見送る。
そして、物寂しい右手を握って開く。今日彼女がセリカを連れていない理由は至極簡単。海人が今連れて歩いているからだ。仕方ないことではある。盲導犬のセリカのメインユーザーは右堂海人だ。
セリカちゃんと走りたいが、海人にトレーニングを見守っても貰いたい。ちゃんとメニューをこなしていることを実地で聞いていて欲しい。相反する願いを持っているワガママな自分を知られたらどうなるだろうかと考えて。
「うーむ。結構わがまま言ってるから変わらないような」
多分〈アルゴル〉なら変わらないだろうという確信めいた考え。それを胸の中で転がしていると、彼女のスポーツウォッチが通知を鳴らす。
《いつでもいいよ》
彼にしては早いお着きに返事をしてから、左足を引く。自分でリズムをとってから溜めた力を解放。トップスピードになるまでそう時間はかからず、後ろに春の麗らかな風景は流れ去る。
柔らかなダートを踏み締め、前走者が巻き上げた微かな砂煙を引き裂きながら、セイウンスカイはひた走る。まずは平坦な助走区間。心地よい陽気に導かれるままに全力を出したかったが、彼から課された『タイムを変えないこと』が枷を付ける。
現在、ペース走のタイムは200mあたり12.5秒。1度に走る距離が違うのでなんとも言えないものの、5本前後をやるのならセクタータイムは1秒落ち程度で良いだろうとスピードを調整した。
100mほど走って安定して巡航できるようになった所で、足が接地するタイミングが変わる。足への攻撃性が高くなり、体を持ち上げるのにパワーを使うようになる。腕を振り、胸を開き、そして息を吸う。
ここから500mほど、3パーセントの勾配が続く。登り切るだけで約15mの高低差。続いて4パーセントが300m。計測区間は800mとなっていた。1本目の中程で既に心臓は限界近い。この前にかなりの本数ペース走をやっていたこともあるが、やはり坂路は特別だった。
勾配率が上がってもスピードを落とさないように。言いつけはできる限り守ると腕を動かす。揺れる視界の中、砂の向こうに白い色彩が大きくなってきた。
「はっ! はっ! ……はっ!」
トップスピードのまま、前を通り抜ける。そのまま減速区間をゆるゆると走り、歩きになってから脇にはける。坂路の頂上は学園でも屈指の高いところで、遮るもののない風が彼女の白群かかった芦毛を揺らす。
「あー……気持ちいいなぁ」
首元に空気を送り込み、湿った体操服の中の空気を入れ替える。芝とは違う僅かに沈み込むダートの感触を足裏に感じながら、彼女は坂路を計測のゴールラインへ向かって下った。
「やぁ。気分はどう?」
「ヘトヘトですよ」
茶色の土がほぼ全体を占めるこのコースにおいてとても目立つ白という色彩のトレーナーを目に留めると、微笑みを浮かべながらくるりと振り返る。
眼前で止まり、手首をまた差し出した。色白な肌は運動のおかげかやや赤みがさしていて、その細い手首を大きな手が包み込む。
「さっきより激しいな。うん。やっぱりスタミナかなぁ」
「脚力もですかね」
「お、よく分かってるじゃないか」
セイウンスカイは自分の手首が包まれるのも、脈を図られるのも、そしてするりと手が離れるのも、ぼうっと見ていた。青いボトルが差し出されたのを見てようやく動き出し、1口ドリンクを口に含む。
「で? あと4本?」
「いけるでしょ?」
「……おに」
彼は微笑みを絶やさないが、彼女には悪魔の笑顔に見えていた。手厳しく言えば、この笑顔も患者を油断させるための笑顔。私を油断させて厳しいトレーニングをさせようとしてるんだー! と心の中で叫んだがとても口には出せない。
感謝はしているのだ。少なくとも。
「聞こえなかったことにしておくよ。2本目のタイミングは君に任せよう」
「はーい」
大抵のことは笑って許してくれるのもうちのトレーナーのいい所かもしれない。もう1口飲んでから、足元に置いてあるカバンに突っ込む。
「じゃあまたやって来ます」
「うん。行ってらっしゃい」
風に乗るセカンドテノールを背中に彼女は坂路を下りる。ついでに、ライバルになりそうなウマ娘が居たら観察しておくことにする。
傍から見ていると、ひとくちに坂を登ると言っても走り方は十人十色であることに気づく。頭と視線の向き、腕の振り、足を上げる高さ、ストライドの大きさ。
「癖ってなかなか抜けないのかな」
海人の言葉を思い出す。“坂道はピッチを落としたくない”。先程は実現出来ていたかと自問自答しながら坂路を降り切った。
「2本目行きますか」
坂に差し掛かったら走り方を変える。変え切ることは出来なくても、意識すれば動きは変わる。そう言い聞かせながら、体にかかる加速度が変わった瞬間に走り方を変えた。
スピードが落ちるのは仕方ないとして、足の回転を落とさない。一定のリズムを作ってしまってそれにずっと従う。脳内に響く秒針に従い、一定に。
800mの計測区間を走りきって白い人影が後ろに流れていく。本日2回目の風を胸に吸い込みゆるゆる歩きながらの風景を楽しんだ。
「2回目おつかれ。走り方変えたね? どうだった?」
「うーん。さっきよりは楽、ですかね」
「長い距離は楽に走るに限る」
何個か楽に走るためのポイントを挙げ、ひとつでも意識してみてと勧める。
例えば、ピッチを落とさない。
例えば、顎を引いて目線を落とさない。
例えば、上り坂だからといってペースを上げすぎない。
「どう? できそう?」
「まあひとつくらいは……うん」
曖昧に頷くセイウンスカイを彼は微笑みながら見守る。彼女の頭の中では今言われたことをなんとか噛み砕いて自分のものにしようとしていた。
なんとも奇妙な沈黙する2人の空間がしばらく拡がっていたが、サクサクと足音が近づいてくる。
「あ、あの……」
「んー。あ、フラワーじゃん」
セイウンスカイは思考を中断し、視線を上げて声の主を捉えて親しげに声をかけた。海人からは全く何が起こっているかは分からないが、少なくとも彼女の知り合いであるようで、なんとも緩い雰囲気を醸し出しているのは把握していた。
「誰か来た?」
「あれ? トレーナーさん知りませんでしたっけ?」
「うん。多分知らないかな」
目を凝らして声の方向を見る。なんとなく黒鹿毛の髪の毛が短いことと、身長はセイウンスカイに届かず、声は随分と幼いのは分かる。
「ああ、なら紹介するよ。ニシノフラワー、私の……なんだろう。友達かな?」
「そんな、もったいないです……」
俯いてしまった『ニシノフラワー』と紹介されたウマ娘に、海人は1歩歩みよった。
覆い被さるような影に気づいたニシノフラワーはその正体を見るために顔を上げ、文字通り見上げるような格好になって1歩後ずさる。その細い喉から「ひっ」という本心が漏れ出して、泣きそうな顔になる。
「ちょっ! ストーーップ!」
「ん?」
「離れて! ダメダメ!」
強く言われて反射で下がる。セイウンスカイが目の前に、ニシノフラワーとの間に立って遮るような格好。
後ろで「あ、あの……」と切り出そうとする声を封殺し、彼女は海人を睨みつけていた。
「あのですね。トレーナーさん結構身長高いじゃないですか」
「うん。そうだね」
「で、フラワーは私より小さいんです。そんな娘がですよ、見上げるような大男に覗きこまれたらどう思います?」
自分の子供の頃に置き換えて考えてみる。小学校の自分が知らない身長170の男に迫られたら……。
「怖いね」
「でしょう?」
ようやく分かったかこのニブチンめとでも言いそうな様子で首を振る。怖がられることに悩んでいる割には自分の行為に無頓着なのはいただけない。セイウンスカイの説法はまだまだ続いていたが、未だに後ろに守られているウマ娘が大きな声を開けた。
「あ、あの!」
「どしたの? フラワー」
説法を中断して後ろの後輩を見る。
「私は大丈夫です。すみません。ちょっと驚いてしまって」
「いやいや。ダメだよフラワー。この人はちゃーんと言っておかないとダメなんだから」
「でも、スカイさんのトレーナーさんなら悪い人じゃないと思いますし」
彼女は悩んでいた。この男をもう野放しにして良いのだろうかと。またニシノフラワーに狼藉を働いて怖がらせないだろうかと。ただでさえ外見で損をしているのだから動きには気をつけて欲しい。
「まあ今回はここで許してあげます。気をつけてくださいね?」
「ああ、大丈夫だよ」
微笑んでから、ニシノフラワーに改めて向く。ただ少しまだ怖いようで、セイウンスカイの背中に隠れるような格好だ。
「はじめまして。チーム〈アルゴル〉のトレーナー、右堂海人です」
「は、はい! ニシノフラワーです。セイウンスカイさんには、いつもお世話になっています」
「そうなの?」
「セイちゃんもたまにはいいことするんですよーだ」
怪訝な顔をする海人に1発パンチを入れておき抗議する。やめなさいよ、とか無粋なことを言う方が悪いですとかひそひそ交わされる会話を聞いたニシノフラワーは小さな笑いを漏らす。
「ふふ。スカイさんが信頼してる人だと言うのはわかりました」
「え、誤解だよ。誤解」
わざとらしく不満そうに振る舞うセイウンスカイと、ころころと笑うニシノフラワー。微笑みを崩さずやり取りを聞いている海人。
「ふむ。フラワーさんの練習も見ましょうか?」
「でも、今教官さんとの練習なんです」
「そうだよー。チームに所属してなくても時間ある訳じゃないんだからね」
「でも、時間が空いたらお願いしに行きます!」
「うん。その時は一緒にやろうね」
「はい! あ、あまり遅くなると怒られてしまうので」
そう言って、ニシノフラワーは坂路を降りていった。セイウンスカイはその背中をしばらく見送ってから海人に告げる。
「ああ、私もまたやってきますね」
「ああ。わかった」
セイウンスカイも坂路を下りる。足音が聞こえなくなってから、海人は首を捻る。人を増やさないと思っていたのに、思わず声をかけてしまった。
「彼女の知り合いだからかな?」
嫌がっていなかったし、少なくとも彼女の練習の邪魔をしなければ大丈夫だろうか。そうやって結論付けてから、また走ってくる足音に耳を傾ける。少しでも彼女の為になることを。
トレーナーとしてできることを。サングラスの下の目を細め、彼は情報収集を続けていた。