トレーナーは『青空《スカイ》』が見えない   作:Skyjack02

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Lap.68 真夏の三者面談

「あー、なんか床が上下してる感覚……」

 

「君の頑張りすぎだ」

 

 合宿所の臨時医務室で、セイウンスカイがぐったりと寝そべっていた。髪の毛から体操から何まで汗だくの全身を、タオルでざっと拭き上げた程度。全く何も気にすることなく……キングヘイローやヒシアマゾンが見たらひとこと言いたくなるような姿だ。

 唸る彼女の声を聞き、海人は呆れながらもドリンクのペットボトルを机に置く。そのままセイウンスカイと視線を合わせ、顔をかたむけて顔色を伺った。

 

「失礼するぞ」

 

 ついでに手を伸ばすと、意図を理解したセイウンスカイは前髪を掻き上げた。普段は白群の芦毛に覆われている額が晒された。

 

「ふむ……」

 

 指が触れる。そのまま医務室は時が止まって、セイウンスカイもじっとサングラスに映る自分とにらめっこしていた。

 

「汗もかけてるし、顔色も問題なさそうだ。体温もね……しかし、早く着替えなさい君は」

 

「分かってるけどさー。うちの部屋冷房壊れてるんだもん」

 

「だからって着替えないのは問題外だ。風邪ひきたいのか君は」

 

「じゃあここで着替える〜」

 

「あー……勝手にしなさい」

 

 問題しかないものの、着替えてくれるのなら口を差し挟んで気分を害することもない、と結論付けて彼は椅子にどっかり腰を落ち着けた。彼女は足を引きずるように部屋を横断し、その先でガタガタと何かを動かしている。

 

「君、そこは私のベッドだぞ」

 

「汚しませんよ。安心してください?」

 

 この臨時医務室の片隅には、海人の生活スペースが確保されていた。といっても申し訳程度にパーテーションが置かれていたりなどして、その向こうに荷物を置くスペースとベッドが並んでいるだけ。

 

「……何か言われるのは私なんだぞ」

 

「バレないようにするんでだいじょーぶです!」

 

 後ろでゴソゴソしている音は意識的に聞かないようにして、彼は仕事に戻った。合宿に来たとしても医者としての仕事が減る訳では無い。

 むしろ夏場なので増えるばかりだ。業務用のパソコンに入っている通知をななめ読みして、優先順位を頭のなかで付ける。怪我、病気、経過観察。

 

「さて。片付けるかね」

 

「がんばってー」

 

「君は早く着替えたまえ」

 

 後ろから聞こえてきたやる気なさげな応援をはね返し、海人はキーボードに手を伸ばす。来ているメールへの応答を打ち込みながら、右目の無事な視界で文面を確かめる。

 ひとつは、別のチームのトレーナーから来たトレーニング中の事故の報告。これには近くの病院を紹介し、既に取った予約票とともに返信する。

 

 またひとつは、外の医師から来た入院中のウマ娘の報告。レース後に大きな怪我が発覚したので入院とリハビリをしている最中で、予定より回復が早いと綴られていた。これには治療の継続と退院の前倒しを提案し、返信。

 

 そしてさらにひとつは、ウマ娘本人からのメール。今日病院に行き、一通りの検査を受けてきたというものだ。彼女は生まれつき体が弱く、入退院を繰り返しており……今は学園生活を送れているが、予兆を見逃さないようにするために海人は定期的な検診を義務付けていた。

 

「不調が無いのは喜ばしいことだ」

 

 同期に比べてデビューの遅くなった彼女だが、年明けには肩を並べて走れるようになるかもしれない。気落ちすることの方が多い学校医としての仕事の中で、珍しく無条件で笑顔を浮かべられる出来事だ。

 

「お、ツルちゃん問題なかったんだ。良かったー」

 

「後ろから覗き込むなよ」

 

 いつの間にすぐ後ろから聞こえた声。同期の快調を喜ぶ声だが、海人は眉間の谷を深くしてにらんだ。サングラスの下の視線を想像し、セイウンスカイはそっと離れる。

 

「それはごめんなさいだけど、喜ぶのはいいでしょ?」

 

「喜ぶのくらいは許してあげよう」

 

 だがと前置きし、海人の説教がくどくどと続く。サラッとした新しい体操服に着替えたセイウンスカイは最初の三十秒のみじっくり聞いていた。その後はどうだったかと言うのは推して知るべし、である。

 

「聞いているのか?」

 

「あ、聞いてますよ?」

 

「聞いてなかっただろう」

 

 椅子が大きく軋み、くるりと海人が振り返る。その非難で絡め取られそうな視線からひらりひらりと逃れ、彼女は持ってきた椅子に腰を下ろした。

 

「気を取り直して。どうだった?」

 

「いやー……道を覚え切れないのが辛いですね」

 

「長いからな」

 

 タブレットを立ち上げて、今日走ったコースを呼び出す。ざっと三十キロは走っているという記録。心拍数のグラフと速度のグラフも合わせて呼び出し、最初から最後までを見比べた。

 

「まあ、初日にしては良かったと思うよ」

 

「なんですその中途半端な評価は」

 

「道を覚えたらもっとスピードのせられるよってことだ」

 

「そうは聞こえませんでしたが」

 

 不満そうな声。頑張ったのだから……ということだろうか。

 

「褒めて欲しいのか?」

 

「そりゃそうですよ。結構疲れたんですからねー」

 

「はいはいお疲れ」

 

 そこまで言うならと傍らの冷蔵庫を開け、海人はセイウンスカイにスチール缶を渡した。何を差し出されているかキョトンと見つめていた彼女だが、ゆっくり手を伸ばして缶を受け取ると、しげしげと視線を注いだ。

 

「くれるんです?」

 

「君の言葉を信じるよ」

 

「わーい」

 

 カシュッと口をあけては、一気に飲み干すセイウンスカイ。こくこくと白い喉を鳴らすその良い飲みっぷりを聞き終えてから、海人はまた口を開いた。

 

「いいか?」

 

「はーい」

 

 タブレットの画面を指し示しながら、セイウンスカイに質問をする。ダウンヒルにおいての走りやすさ、平地での調子、ヒルクライムにおいての注意点。コーナーでの着意。

 そしてぶつけられた質問に、彼女は澱みなく答えてみせた。黙って答えを聞いていた海人は口元に小さく笑顔を浮かべて、「満点だよ」と鷹揚に頷く。

 

「どんなもんです」

 

「よく勉強してるよ」

 

「セイちゃん、てぇんさいなのでー」

 

「よく言うよ」

 

 天才とは真逆じゃないかと言いたくもなったが、海人は口をつぐむ。わざわざ指摘することも無い。彼女が努力を重ねてきたことは、海人がいちばんよく知っている。誰よりも練習して、誰よりも調べている。誰よりも考え、誰よりも強い思いを抱いて走っている。

 

「とにかく。わかってるなら問題ない。ここは色んな坂があるから、効率よく走れるように」

 

「実践あるのみ! ……テンション下がってきました」

 

「そう言うな。仕方ないことだ」

 

 あからさまに不満そうなセイウンスカイをたしなめてから、夏合宿の予定を呼び出しては調整する。予想外のやる気に、スケジュールを組み立て直す必要があると思ったからだ。

 

「……結構入ってますね」

 

「そりゃあね」

 

 彼女の言葉通りトレーニングの予定はびっしりと、立てれるだけ入っていた。もちろん、無闇矢鱈と入れている訳では無く、彼女に足りないところを埋めるためのもの。

 

「暫くはのメインはロードワークだな」

 

「筋トレも入ってますね」

 

「そりゃあ走るだけじゃつかない筋肉もある」

 

「うぇぇ……」

 

 そのままじっと画面を見つめる彼女。そのやる気をどう引き出したものかと、その横顔のシルエットをぼんやりと見ながら海人は思う。耳が1回だけ、ピクっと動いた。セイウンスカイは何も言わない。

 

「何か言わないか?」

 

「まあ、仕方ないですかね。それだけ菊花賞が厳しいんでしょ?」

 

「そらな」

 

「あーあ、釣りだけして過ごしたかったんだけどな」

 

 彼女の行きのバスに釣具を持ち込もうとしてもめていた姿を思い出す。結局持ってきたようなので、休みはそれをやればいいじゃないかと薦める。

 

「休みの日もちゃんと用意してるから」

 

「トレーナーさんは?」

 

「私? 私は……」

 

 言い淀む彼に視線が突き刺さる。医者としての仕事などいくらやっても終わることは無い。むしろ彼女が居ない方が時間が使えて良いくらいなのだ。

 

「休んでるから安心しなさい」

 

「あまり信用ないよ?」

 

「それはすまないね」

 

 相変わらず突き刺さる視線から顔をそむけ、予定を組み直す。ひとつの予定を動かす度に、セイウンスカイの圧が高まってくる。

 

「近くないか」

 

「そんなことないもーん」

 

 吐息がかかる距離にセイウンスカイが居る。細く整った眉をきゅぅと歪め、鴨頭草の瞳がじとっと海人を貫いて反対の古びた木の壁まで突き刺さるのだ。

 

「さて。修正はこれくらいでいいかね……今日は午後にもうちょっとだけやりたい」

 

「やるならいいけどさー」

 

「だから近いって」

 

 右側から、ふんわりと香る菊の香り。何も言わないウマ娘に見つめられるのは、随分と居心地が悪かった。

 

「とりあえず夕方まで自由。なにかしたら教えてね」

 

「あ、話は終わってないのにー」

 

 椅子のキャスターを使って離れた海人を、セイウンスカイは追いかけなかった。ここまでプレッシャーをかけたのだからという思いがある。

 

「また無茶したら許しませんよ」

 

「最近してないだろ」

 

「どうだかー……って、着信?」

 

 臨時医務室に、短く軽やかな電子音が響き渡る。私じゃないぞ、と海人が告げると、セイウンスカイは自分のカバンに入れたスマホを取り出しに向かった。

 

「なんだろー」

 

 極めてのんびりとした足取りで、ゆったり尻尾を揺らしながらソファに向かう。ガサガサ暫く荷物を漁っていたが、彼女はようやくスマホを見つけ、画面を見る。

 

「あれま……」

 

「どうした」

 

「あー、なんといいますかねー?」

 

 言い淀む彼女の様子に特異なものを感じる海人。何があったのかと聞いても、返って来たのはまとまりのない言葉だけ。結局、しどろもどろな彼女から事情を聞き出すのに何分もかけ、彼はようやく全容を理解したのである。

 


 

 真夏ではあるが、夕暮れ時には暑さは鳴りを潜めてそれなりに過ごしやすくなる。湿度は据え置きなのでまとわりつく不快感は余り変わらないが、気温が下がるというだけで随分と楽だった。

 それは特に、尻尾に毛の塊を持つウマ娘と、毛の塊なジャーマン・シェパードにとって顕著であった。ウマ娘の方であるセイウンスカイは、その芦毛をゆらゆら揺らしながら商店街を歩いている。

 

 ジャーマン・シェパードの方であるセリカは海人をハーネスで導きつつ、昼間より幾分か軽い足取りで石畳を踏み締めていた。

 

「しかし聞くが。本当にこっちであっているのか?」

 

「まっかせてよね。セイちゃんこういうの得意だし〜」

 

 チーム〈アルゴル〉を含むウマ娘と職員が寝泊まりする合宿所は、山とも言えないような小さな山の頂にある。そこから、バスで二十分程度。隣町の小さな商店街を、二人は歩いていた。

 海が近いのか、随分と潮のにおいが強い。

 

「今私には強い味方があるんだからね? スマートフォンっていう文明の利器がさ」

 

「確かに、私よりは使いこなしてるか」

 

 迷いのひとつすら見せず、セイウンスカイはどんどんと進んでいく。この商店街の先。アーケードの反対側の始まりが、彼らの目指すところだった。

 

「もうちょっとでー……見えてくる、ハズ」

 

 時々背伸びをしながら、目指す先を伺う彼女。後ろに長く伸びた白群の色彩が、ぼやけた彼の視界の中でゆらゆらと揺れていた。

 そんな中、いきなりセイウンスカイが背伸びをして叫ぶ。

 

「あ! いたいたー!」

 

 そのまま軽やかに駆けて行ってしまった。小さくなる足音が唐突に止まり、はしゃぐ声に変わる。中々珍しいものを聞いたなと思いながらも、その声を頼りに足を進める。

 

「おーい! こっちこっちー」

 

「ああ、わかったから。焦るなって」

 

 彼女が駆けて行った何倍もの時間をかけて、海人が追いつく。それを出迎えたのは、ややむくれたセイウンスカイの、ちょっとばかりくぐもった声だった。

 

「遅いよー」

 

「悪かったね」

 

「待ちくたびれちゃった……っと、紹介するねトレーナーさん……じいちゃ……祖父でーす 」

 

 セイウンスカイの横にたっていたのは、明るいグレーの髪の毛を撫で付けた老人だった。セイウンスカイと違って目は細めだが、その瞳にやどる光は似たものがある。

 

「じいちゃんも初めて会うよね。〈アルゴル〉のトレーナーさん」

 

「初めまして。右堂海人と申します。こちらは盲導犬のセリカです」

 

 海人は、サングラスにワイシャツという格好を誤魔化すように深深と頭を下げ、名乗った。実際に会うのはおろか、言葉を交わすのも初めてだ。帰省時に手紙を書いて持たせたことはあったが、それだけ。

 

「これはご丁寧にどうも。セイウンスカイの祖父の西川薫一(さいかわしげかず)と言います……いつも孫がお世話になっております」

 

 大事な孫娘を教えているのがこんな怪しい男だとは……くらい言われると覚悟していたが、反応は思ったより穏やかだった。

 

「立ち話も難ですし、店を予約してあるのです……行きませんか?」

 

「そうなの? じゃあ早く行こ!」

 

「こらこら。そんなに急がない」

 

 今すぐに駆け出しそうな彼女の様子を見て薫一が窘める。セイウンスカイは辛抱たまらんという様子。久しぶりに祖父と会えて、とても喜んでいると見える。

 暫く商店街を、海人たちが来た方向へ逆走した。「ここです」と指し示したのは、小さな寿司屋。群青の暖簾と木製の引き戸という、昔ながらの佇まいだ。

 

「ゆっくり話したいと思いましてな……ささ、どうぞ」

 

 扉の前で立ち尽くす海人に向かい、薫一が手を指し示す。セイウンスカイも店の中で振り返っていた。

 

「あー、盲導犬……」

 

「大丈夫です。そこは確かめておきましたから」

 

 意外な答えに、海人は呆気に取られながら頭を下げる。セイウンスカイが手招きするのに導かれ、彼は店の中に足を踏み入れた。

 

「いらっしゃい!」

 

 大将の出迎えを受けながら、教え子に先導されて机まで連れていかれる。

 

「はい。座敷だから靴脱いで……セリカちゃんも上がっていいって」

 

「そうなの?」

 

「うん。一個座布団ないし……足ふきも持ってきてくれたよ」

 

 ハーネスから手を離すと、セイウンスカイが手馴れた様子でセリカの足を拭く。「おわったー」と彼女が背中を撫でのを合図に、セリカは海人の横に座った。ハーネスを外してやれば畳の上に自分からうずくまってみせる。

 

「いい子ですな。その……セリカちゃん? は」

 

「いい子でしょ?」

 

 何故か胸を張るセイウンスカイ。突っ込むまもなく、彼女は海人の斜向かいへ座る。最後に薫一が向かい側に座れば、これで全員だった。

 

「でもじいちゃん。急にどうしたの?」

 

「スカイが頑張ってる姿を見たくなってな。来たんだ」

 

「それにしてももっと早く教えてくれても良かったんじゃない?」

 

 セイウンスカイはちょった不満げだ。彼女としては、祖父を紹介するのならもっとじっくり時間をかけたかったと思っていた。少なくとも、海人のような人間を目の前に……昔気質な人間である薫一が何を言うか分からない。という危惧。

 ともすれば前時代的な考えな発言が飛び出さないかと、ヒヤヒヤしているのである。

 

「本当はもっと早く挨拶したかったんだけど。ちょっと合わなかったからな。今なら丁度いいんじゃないかって」

 

「それにしても。トレーナーさんにも予定はあるんだから」

 

「そうだな……急にすみませんでした。右堂トレーナー」

 

「いやいや。気にしないでください。ご家族との予定なら、最優先させていただきますよ」

 

「じいちゃんには気使わなくていいんだからね」と重ねたのはセイウンスカイだ。無理やり連れてきたという引け目のようなものが有るのだろう。

 

「して、西川さん。今回はどのような?」

 

「純粋に、右堂トレーナーと話してみたくなったのですよ。孫から、何回か話は聞いておりましたから」

 

「なるほど」

 

 視線がスライドし、サングラスがセイウンスカイを映す。別に悪い事を言った覚えは無いが、彼女の背中にじわりと汗が滲む。頼むから何か言って……と、拳を作って祈っていた。

 

「何と言っているのかは分かりませんが……セイウンスカイさんは、本当に私には勿体ない位のウマ娘ですよ」

 

「それは……」と薫一が息を飲む。例えばお世辞とか、無理やりセイウンスカイに言わされているという感じではなかったからだ。

 自分の孫が、教師陣からあまり歓迎されない性格だと言うのはよく知っていた。だから、海人の評価はとても喜ばしい。何度、小学校に呼び出されたか。

 

「ハンディキャップのある私に、何も言いませんでしたし。それを除いても、ちゃんとトレーニングをする意味をわかってくれています。とても頭の良くて、助かってます」

 

 言葉を聞かされた当のセイウンスカイは顔を仰ぎ、そして背中に空気を当てるかのように尻尾を動かしていた。血液が顔に集まって、白かった肌がほんのり赤くなる。熱を持ったのは彼女の全身だ。

 

「どうだ? スカイ」

 

「あー、嬉しいけどさー。褒めすぎ……」

 

 前髪をしきりに気にする孫を見、薫一は顔をくしゃっとさせて笑った。待ち合わせ場所に歩いてくる姿もそうだが、ここでの話も含めて、海人とセイウンスカイは良好な関係を築いているように彼には見えていた。

 

「褒めすぎだって? そんなことは無い。全部事実だ」

 

「もう。じいちゃんの前だからってイイコト言わなくていいってー」

 

 今すぐに走り出してしまいそうな姿勢を取るセイウンスカイ。しかし海人はサングラスに彼女の姿を真っ直ぐに映して続けていた。なんの躊躇もなく重ねられる言葉が、セイウンスカイへダメージを与えては消える。

 

「そんな現金なことをするとでも? そもそも、私の夢をちゃんと聞いてくれたのは君だけだ。そして、叶えてくれたのも君だけだ……本当にありがたいよ」

 

 限界を迎えた彼女はついに机に伏せてしまった。普段はピンと意味ありげに立っている耳もへにゃっと畳まれて芦色の髪の毛と一体化している。ノックアウトされた孫娘をひとなでして、海人へ苦笑いを向けた。

 

「ハッハッハッ。あんまりいじめんでください右堂トレーナー」

 

「おや。申し訳ありません……しかし、これは私の本心です。どん底だった私を、引き上げてくれたのは彼女ですから」

 

 セイウンスカイと居ると、世界が鮮やかな青に包まれる……ということを言っても戸惑わせるだけ。言うべきことと言わなくていいことを仕分けて、海人は話し続ける。薫一は、黙って聞いていた。

 

「なので本当は、ダービーも勝たせてやりたかったのですが」

 

 目をふせ、彼は唇に犬歯を突き立てた。敗北については、何も申し開くことは無い。負けは負けで、彼女の弱点を補いきれなかったのは私の責任なのだから……とまくし立てようとしてそれをさえぎったのは、薫一だった。

 

「まあまあ右堂トレーナー。ここからは、食べながら話しましょう」

 

 体を固くしていた海人は、弾かれたように顔を上げる。やってきた女将のどこかのんびりとした声につられ、彼もゆっくりと注文を告げた。

 




あけましておめでとうございます。今年もSkyjack02と「トレーナーは青空が見えない」をよろしくお願いします!

そして、冬コミですがなんと完売を迎えることが出来ました。初参加で完売とは、ウマ娘の力はすげぇ……と思ったものです。

少しでも面白いと思われたら、この機会に是非、感想評価お気に入りをして頂けるととても嬉しいです。励みになります!
では、次回お会いしましょう。
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