トレーナーは『青空《スカイ》』が見えない 作:Skyjack02
九月に入り、暑い夏合宿は終わりを迎えた。一回りもふた回りも大きくなったセイウンスカイは今何をしているかと言うと、冷房の効いた医務室のソファにぐでんと座ってセリカを撫でていた。その光景を椅子に座り、腕を組みながら見ている影が一つある。
「夏合宿終わった途端にこれか?」
「えー、なんかいいました?」
「言った。夏合宿のやる気はどこへってね」
「合宿所に置いてきました〜」
君な。と苦虫を三十匹ほどまとめて噛み潰したような顔。眉間にも額にも口の両端にも深く現れた谷は彼の心理をよく表している。珍しくサングラスをかけず仕事をしているのでセイウンスカイを射貫く視線もはっきりとしていた。ソファの背もたれを盾にして身を隠しながら、彼女はセリカの長めの毛に顔を埋めている。
「感心したのにな」
「ほんとう?」
「ほんとうだとも。私が嘘をついて何の得がある?」
彼女が夏合宿の後半で見せたやる気というものは海人にとっては青天の霹靂のようなものだったが、とても感動するものだった。朝早く起きてはトレーニングメニューを聞きに臨時医務室にやってくる。
高い集中力でそれをこなすと筋トレや海での追加メニューをこなし、午後は夕方、涼しくなってからトレーニングに勤しむ。
「どうしちゃったのか、って思うくらいにね」
「褒めてないでしょ」
「いや。最大限褒めてるつもりなんだけど」
「えー? ほんとかなぁ?」
「見てて、期待してたんだが、な」
海人はしばらくセイウンスカイの方へ視線を向けていたものの、諦めたのか仕事に戻った。彼女は気づかれないように体を起こし、机上の仕事に向き合う海人を盗み見る。すっと細められた目でパソコンの画面を見ている。右手は手元のノートにのび、紙面を右に左になぞっていた。
「……なんでズルい言い方をするかなぁ」
彼の残した言葉は、セイウンスカイに随分刺さるものだった。夏合宿の間中ずっと見られ、そして変化を感じ取ってくれていた。その上で海人は夏合宿が終わったあとも続いてくれるのではと期待していたのだ。
少なくとも、右堂海人という人間の期待は、裏切りたくない。自分が走って、その結果彼が喜んでくれるのは、悪くないどころではない。
彼女はセリカに顔をうずめてからぷくっと頬をふくらませる。夏場でもモフモフとした毛並みにふぅっと息を行き渡らせ、顔を上げた。嫌だったかな? ごめんねと頭を撫でながら、セイウンスカイは医者の顔をした海人に声をかける。
「トレーナーさん。気が向いたので始めようと思うんですけど」
「ほう?」
「メニューはどんな感じで?」
手を止め、視線を上げ、そしてセイウンスカイに体を向ける。感心したように目を細め、顎を撫でては再度「ほう」と一言漏らした。
「やる気になったか」
「失敬な。私はいつでもおなじですよ〜だ」
「そういうことにしておこう……ほら、送ったぞ」
彼女が着けているトレーニング用スマートウォッチが軽やかな電子音を奏でる。略号と数字で暗号のようになったメニューが送られてきたが、セイウンスカイはその内容を全て理解して頷いた。
「あれ? ちょっと距離伸びてる?」
「ああ。君には十分こなせるよ」
「私としては短いにこしたことはないんですけど」
「そう言うな。トレーニングで長い距離を走らなければ、本番でも走れん」
「それはそうだけどさー」
文句は言いつつ、彼女の手は床に放り出されたカバンに伸びていた。中から取りだしたのは体操服とジャージ。シューズも袋から取り出して、あとは着替えるだけ……となったところで、それなりに大きな音で、医務室の扉が開けられた。
「いらっしゃい。今日はどうしましたか?」
「こんにちは! 右堂先生。そしてお久しぶりです、スカイさん!」
「あら、フラワーじゃん」
未だ着られているという印象が抜けない制服に身を包み、外に立っていたのはニシノフラワーだった。夏合宿の間、セイウンスカイとは連絡をとっていたものの会っていた訳ではなく、お互いに久しぶりだ。
「お久しぶりです。ニシノフラワーさん……お元気でしたか?」
「はい! 先生の授業のおかげです」
「え? 何かやったの?」
セイウンスカイはさも驚いたと言うふうに動きを止め、いつの間にかサングラスをしていた海人の顔をじっと見つめる。その視線に気づかない彼は、パソコンに向き合いながら夏合宿前の記憶をたどった。
「別に。保健の授業で夏バテ対策について話しただけ。大したことじゃない」
「それ、セイちゃん聞いてないんだけど?」
「聞かれなかったし授業無かったからな」
ちょっとした不満。授業中の雑談として夏バテの話をしたのだろうが、なら一般的な知識として話してくれても良いでは無いかとという不満だ。楽しい話かどうかは置いておくにしても、そういう知識は持って損は無い。
「酷薄なトレーナーさんだね」
「なんでそうなる」
謎の不満を唇に表すセイウンスカイに首をひねるが、なぜこうなってしまったかは皆目検討がつかなかった。気難しい年頃かな? と娘を持つ父親の気持ちを想像してみるが、上手くできたとは言えない。
海人は、「弟に子育てのコツでも聞くべきだろうか」と思いながら、客人の方を気にかけていた。
「して、ニシノフラワーさんは今日はどんな?」
「あ、はい。スカイさんに会いに……と、右堂先生にトレーニングを見ていただきたくて」
「ほう。なるほど」
珍しい申し出に、彼はサングラスの下で目を見開いた。例えば、選抜レースまでの仮契約やお試し、ということが無いわけでは無い。しかし、口約束のそういうお試し的な契約はトラブルも産みやすい。
海人がトレーニングを指導したことにより変なクセがつき、それが元で本契約チームの元で怪我などしたらどんな文句を言われるか。あまり医者としても、トレーナーとしても喜ばしくは無い状況だった。
「トレーナーさん?」
しかし、セイウンスカイにとっては優柔不断に見えてしまう。
「まあ、色々と考えることはあるものだよ」
「ダメなの?」
「ダメってわけじゃないが」
セイウンスカイはいつの間に立ち上がり、つかつかと机に近づいていた。むっと不満げに腰に手を当て、海人の目の前に立ちはだかる。
「トレーナーさんは問題があると思ってるんでしょ?」
「人がせっかく濁してたのに言うやつがあるか」
サングラスのブリッジにあたる部分を人差し指で押えながら彼は首を横に震る。彼女としてはハッキリしないのがとても我慢ならないようで、目を細めて半分、海人を睨みつけるような勢いで仁王立ちしていた。
「あ、あの……ご迷惑だったら……」
こんなことになるのなら言わなければ良かった。そんなニシノフラワーの言葉は全く届かなかった。睨み合いを続ける二人に近寄って行ったが、バチバチとした空気が全くおさまる気配はない。
意を決して「あ、あの!」と全力で大きな声を出してやっと、二人の視線が集中した。一挙に注目されてニシノフラワーは恐縮したものの、ピリピリとした空気は霧散した。
「……すみませんでしたニシノフラワーさん」
「あー、ごめんねフラワー。で、どういう考えなの?」
セイウンスカイは柔らかく謝ったが、すぐにやや詰問する口調に変身し、海人をまだまだ見下ろしたまま。あまり好転しない空気に、ニシノフラワーはまだ慌てたままだ。
「そうだな。認識の差、と言った方がいいか」
「認識?」
「ああそうだ。私は、君の走りを知っている。君の体を知っている。君の癖をよく知っている。だから、それを補正してトレーニングメニューを言い渡すことが出来る。君の限界、その少し先まで踏み込んだメニューを組める」
セイウンスカイは何も言わず、サングラスの向こうに覆い隠されている目を透かして見ようとしていた。真剣な声色にたがわない表情をしているのは彼女にも察せたが、具体的にどうかと言われると未だに分からなかった。
「だが、ニシノフラワーさんについて、私は知らない。もちろん、学園のデータを参照すればある程度の推測は立てられるが、君と併走をさせるというのは、ちょっと難しい」
「別にフラワーは併走、とは言ってないよ?」
「そういうことだと思ったんだけど。違ったかな……まあいいや。とにかく、そんなに踏み込んだことは言えないってことだ」
「だってさ。フラワー」
「えっ! あ、はい!」
いきなり振られたニシノフラワーは十センチも飛び上がって驚いていた。尻尾がほとんど垂直に立ち上がり、全身の毛が逆立ってしまっている。セイウンスカイは半分慌てて後輩をなだめにかかり、海人は苦笑してその様子を聞いていた。
「……そんなに驚く?」
「すみません……すごいピリピリしてたので」
「んー、そんなにピリピリはしてないよね?」
「いつも通り……じゃないね。君ちょっと喧嘩腰だっただろ」
「えー、そう?」
わざとらしく手を広げて肩を竦め、セイウンスカイは視線も逸らして鼻歌を歌い始めた。海人はいよいよ顔を手でおおってしまう。口から漏れた長い長いため息は医務室をぐるぐる対流し、二人のウマ娘の耳にも容赦なく届く。
「で、どうするの?」
「ニシノフラワーさん。あまり踏み込んだことは言えませんし、セイウンスカイと同じメニューは以ての外です。それでもいいですか?」
「はい! よろしくお願いします、右堂先生!」
やっと再起動を果たした海人の申し出に、ニシノフラワーは何回も頷いた。パッとした満面の笑みということが、もう声の調子からわかる。
その様子を聞き、彼はこんなことがあるのか、と内心呆気に取られる思いだった。「練習を見る」と言っただけでこんなに喜ばれることはなかったからである。
そもそも、チームを持たないのではトレーニングに関われない。色々なチームに呼ばれることはあっても、ウマ娘に直接関わる訳ではなく、海人の立ち位置は「校舎の端にいる怪しいおっさん」からは中々動かなかったのだ。
「で、いつやるんだセイウンスカイ」
「今から、かなー。フラワーを待たせる訳にはいかないし」
あっさりやる気を出した彼女に目を丸くする海人。動きを止め、あんぐりと口を開け、その上でサングラスの下の目を丸くする。その変化はセイウンスカイにも、付き合いの短いニシノフラワーにもよく分かった。
「ほう?」
「なに?」
「いや別に」
「なんかトレーナーさん良くない顔してるよ」
「んなことはない」
彼からしてみれば、人間の新たな一面を発見することはとても楽しいことだった。今彼が見い出したのは、セイウンスカイというウマ娘の小さくない弱み。 内心したり顔でうなずきながらもそれを外に出さず、彼は教え子を促した。
「ほら。やるなら早く着替えた方がいいさ」
「そだね。はーい」
ソファに放り出していた着替えを取ってからカーテンの向こうへ行こうとして、視線が突き刺さっていることに気づく。
「……ごめんトレーナーさん。着替えようと思うんだけど」
「ああ、分かった……隣の準備室片付けとくかなぁ」
ぶつぶつと何事かを呟きながら、背中を丸めて彼は医務室から出ていった。ニシノフラワーにこの前部屋から叩き出されたことが随分なトラウマになっている……ように彼女には見えないが、少なからず思うところはあるようだ。
「さ、着替えよっか」
「はい!」
提げたカバンから、体操服を取り出すニシノフラワー。セイウンスカイも放置していた靴とカバンを取り、海人をあまり待たせる訳にも行かないので早く着替えることにする。
しかし、ああも怖がっていたのにすっかり平気になったとは。知らないうちに成長した後輩の背中が、やけに大きく見えたセイウンスカイだった。
「さて。お疲れさまでした。2人共」
「はー……菊花賞へ向けての追い込みとはいえキツイよ……」
「君ならこなせるだろう?」
「ま、私以外には無〜理〜ですけどねっ!」
九月と言えど、まだ日差しは強く運動すればそれなりな汗もかく。ベッタリと頭皮に張り付く芦毛を掻き回して空気を取り込みながら、ボトルでドリンクを流し込む。セイウンスカイがいつも通りに休憩する隣で疲労困憊といった雰囲気でいるのが、ニシノフラワーだった。
「は、はぁ……おつかれ、さまでした……」
「よく頑張りましたね。凄かったですよ」
「なんか色々言ってたけど、結構ガッツリやってない?」
「怪我をしないために意識するべきところを教えただけだ。君にも言っただろう?」
「正しい姿勢、正しい接地、正しい蹴り出しってヤツ?」
ニコリと笑って頷く海人。なんとなく、絵面としては「いたいけなウマ娘をいじめて微笑む悪い大人」に見えないこともない。ニシノフラワーに対しても、海人はいつも持っている大きめのカバンからボトルを取り出して渡していた。
「スカイさん、色んなメニューこなしてて凄いです」
「そう? そうかなぁ?」
「距離だってずっと長くて」
「それは、彼女の適性が長距離に向いているというだけですよ」
そもそもニシノフラワーの得意距離は短距離だ。短距離には短距離のトレーニングメニューがあり、長距離にもまた然り。そもそも本番で走る距離が違うので、トレーニングの段階から差が出るというわけである。
「そーそー。長い距離をのーんびり走るのがセイちゃんだからね」
「まあ、彼女がのんびり走っているかは別として。ニシノフラワーさん、走り方はだいぶ良くなってきました。腕の振りだけで、随分と違うでしょう?」
「はい! わたし、全然ダメな走り方だったんだなぁって……」
下を向いてしまったニシノフラワー。何を言ってくれているんだと海人を睨むセイウンスカイだが、彼がその視線を理解した様子はない。もう慣れたものなので、一発靴に蹴りを入れておく。
「泣かしたー」
「違うぞ。ああ、ニシノフラワーさん。誰も最初から完璧に走れる人間はいませんよ。練習と修正を繰り返して上手くなるのですから」
「そういうものですか?」
萎んでしまったニシノフラワーを元気づけるためによしよしと頭を撫でる。まだ、彼女は入学してからさほど日が経っていないのだ。正しい……彼の目指す、効率の良い走り方には程遠く、まだまだ発展途上。飛び級が故の同じく未熟な体とあわせ、彼女はかなり負担がかかりそうである。
「そういうもんだよ。きっとさ、私も最初の走りを見たら笑っちゃうくらいだと思うし?」
「効率の良い走りをすると、足音が綺麗に聞こえるんですよ」
「なら、私も早くそうなりたいです!」
勢いよく意気込むニシノフラワーを頼もしく思う。まだまだ、彼女の未来は未知だが明るい。どんな活躍をするのか楽しみにしながら、海人に次のメニューを尋ねた。
「で、次は?」
「スパートでもやってもらおうかな」
「はーい」
「しかしやる気だな」
「えー? いつも通りだよ?」
よく言うよと言いたげな口元。むっとしたもののここでサボタージュでもするのは彼の思うつぼというか予想の範疇に入ってしまう。ここは最後までやりきるのが意外性だろう……彼女の難儀な頭はそう導き出していた。
「私はどうすればいいですか?」
「そうですね。最後くらい一緒に走ってもいいでしょう」
「本当ですか!」
「ええ。しかし、ニシノフラワーさんは本数を減らしますけれども」
真剣に話を聞くニシノフラワーの横で、セイウンスカイも話を聞いているふりをする。もう大体、注意は聞き飽きたし言うことはもうわかっている。
「じゃ、五本やったらフラワー返すね」
「ん。じゃあそうしよう」
ボトルを返し、靴紐を確認してから二人で歩き出す。にこやかに見送る海人の声を背中に、芝生を踏み締めて進んだ。夏の終わりというには暑い日差しと、まだまだ湿っぽい匂い。隣にいる後輩が、唯一清涼感をもたらしてくれる。海人は清涼感以前に乾いてしまっている印象だ。
「あ、あの」
「ん? どしたの?」
「ダービーの時、なんですけど」
突如の話題に体を固くする。確かあの時、彼女は応援に来てくれていたはず。セイウンスカイとしては何か暗くなるようなことがあったかと首を傾げる。
「えー、なに?」
「レースがおわったあと私、いなくなってしまって……」
「ああ、その事?」
「スカイさんに嫌な思いをさせてしまったかなと思ってて……」
うつむき、前で組まれた手は固く握られている。身長の差があるからと言うのもあるが、表情は全く見えなかった。言葉を選ばなければ、きっと彼女をまた傷つける。キングヘイローをからかう時の数十倍頭を回転させて、セイウンスカイは口を開いた。
「あ、あれの話? 確かにいなかったけど……そんなに謝るほどのこと?」
「いきなりいなくなるなんて、右堂先生にも何も言わなくて……スカイさんがどう感じたのか分からないですけど、良くなかったんじゃないかなって」
「私は別に気にしてなかったけどなぁ」
だから元気を……とまたニシノフラワーを伺うが、様子は変わらない。切りそろえられた黒鹿毛が、所在なさげに揺れていた。
「フラワーはさ。なんでいなくなっちゃったの?」
「……私にとって、スカイさんはなんでもできる人ってイメージだったんです」
「それは、過大評価だと思うけど」
ニシノフラワーがセイウンスカイに憧れているのは事実だ。その状態なら、相手に崇拝に近い感情を抱いても不思議では無い。
「いいえ。あの時の私には違ったんです……でも、スカイさんはダービーで勝てませんでした」
「うん。そうだね」
「そんなスカイさんを見ていられなかったのもあります。あと、信じてたものが無くなったような気がして……」
その状態で「セイウンスカイは完璧な人」という条件が崩れれば、足元が揺らぐ衝撃を受けても不思議では無い。もしかしたら、彼女がセイウンスカイを見る目というのは、特撮やアニメのヒーローを見るような感じだったのかもしれなかった。
「酷いですよね。勝手に期待して、崩れたら逃げて……」
いよいよ水がこぼれそうになる声色。肩も不安定に上下し、その揺れでニシノフラワーは決壊してしまいそうで、セイウンスカイは優しく呼び止める。
「フラワー」
「……はい」
「別に気にしないでよ。本当の私を知ってくれて良かったって私は思う。遅かれ早かれさ、そんな化けの皮は剥がれると思うし」
「いいんですか?」
「いいよ。本当の私を知ってくれて、でも今ここにいるじゃん……フラワーは、こんな私でもいいって思ってくれたんだよ」
「スカイさん……ありがとう、ございます」
手の甲で何かを拭ったニシノフラワー。あえて見ないようにして、彼女は夏の青空を見上げた。どこまでも、体を透かすほど強い日差し。それに映し出された人の本性を素直に受け止められる人はどのくらいいるのだろうか。
少なくともこのニシノフラワーというウマ娘は、受け止められる側だ。自分はどうだろうかと考えてみる。周りにいる友人、家族、そして
結論は出ないが、ひとつだけ言えることはある。
「トレーナーさんのは、受け止めてあげたいな」
「……スカイさん? 何か言いました?」
うっかり口に出してしまったことを気恥ずかしく思いながら、彼女は頭の後ろで手を組む。
「あとはトレーナーさんが平気になればねぇって言ったの」
「右堂先生、近くだとまだちょっと……」
「はは。焦っちゃダメだよフラワー、っと。もうか」
まだまだ楽しい会話を続けたかったが、スタート地点に到達してしまった。インフィールドに伸びる直線は、果てしなく長く感じる。言い渡された距離と本数を振り返りながら、セイウンスカイは大きく息を吐いて点のようなゴールを見据えていた。