少し前、リーザス像の塔の扉を潜り抜けたパディスは、こちらの様子を伺う魔物の気配に気づいていた。
(左上の石壁の裏からこっちを探っている魔物が1…2匹いるな…奴だとすると仲間ができたのか…?厄介だな)
(奴はアルバート様の腹を一突きで殺している…もしゼシカ嬢様まで死なせたらあの世にいるアルバート様に顔向けできない…絶対にゼシカ嬢様の前に奴を立たせるわけにはいかないな)
そう考えると後ろを向き、緊張した顔のゼシカに話しかけた。
「ゼシカ嬢様。 オレの右後方の石壁に魔物が潜んでいる 奴かはわからないがこれから近づいて確かめようと思う オレが前衛を張るから後方から魔法で支援してくれ」
ゼシカは改めて覚悟するように一呼吸してから「わかりました」と頷いた。
あらくれが迫りつつ、両手でレベルズを斜めに断ち切る勢いで剣を振ってきた。
レベルズもフォークの柄の部分を両手で持って剣を受けるが、受け止めきれずどうのつるぎが右肩に食い込み、青い血が滲んでくる。あらくれの目は血走っている。怖い。
「グッ」
レベルズはたまらず出た声を押しとどめ、息を吸い込み、肺とは別の器官へ空気を送り、氷の欠片を含んだつめたい息を思い切り吐き出した。
するとあらくれは顔色を変えて慌てて後ろへ飛ぶが、大量の氷の刃があらくれの下半身を中心にズボンごと切り裂く。あらくれは相当効いたようで、表情を歪ませた。傷口から出た血が凍りそうなほど、霜が付着している。
「レベルズ!」
ミイが警告する。後退したあらくれの陰から出てきたゼシカが火球をこちらに飛ばしてきていた。
真正面に飛んできた火球を避けるために右へ飛ぶが、躱しきれず左足へ着弾し、衝撃によって体制が崩れ、左足が燃え上がり、激痛が走る。
「ガァァァ」
レベルズは、これ以上攻撃を貰わないように、何とか体を起こし、痛みをこらえて右足と背中の羽根で後ろへ飛んだ。
炎はおさまったが、レベルズの左足は表面が炭化していた。すかさずミイが「ホイミ!」と叫ぶと、体が緑の光に包まれ、傷が癒えていく。
暖かさと共に肩と足の痛みが消えていくのを感じながら、レベルズがあらくれとゼシカの様子を伺うと、あらくれもやくそうを食べ傷を癒しているようだ。
すると、その背後から出てきたゼシカが新しい火球を創り出し、こちらに飛ばすところだった。
「ミイ!」
掛け声とともに2匹は左へ飛んで躱した。
火球はすぐ右の石畳の床へ爆発が起きたかのような低い音とともに着弾し、炎を上げる。
ゼシカは火球が外れるとあらくれに背後に隠れた。
(くそっ…あらくれが邪魔でゼシカのメラがいつ飛んでくるかわからない…あのメラはやばい…痛いし衝撃がある…今度食らったら一気に詰められるな…どうしたらいいんだ)
あらくれは憎しみのこもった眼でこちらを睨んでいる。殺せる隙を伺っているのだ。
(怖えぇ…けど……ここで迷ったら死ぬ…何とか生き残る方法を考え出すんだ!)
レベルズはあらくれを睨み返した。
(メラを食らったらかなり危ない…メラを食らわない様にするんだ!…どうやって?あらくれの陰から突然飛んでくるんだぞ!…そんなもの躱せな……ん?あらくれの陰から? あらくれに張り付けばメラは打てないんじゃね?……そうだ!たぶんあってる!)
「ミイ!あのあらくれに張り付けばメラは飛んでこない!あらくれに近づいて戦う!ついてきてくれ!」
後ろを見ずにミイにそう言った。
「…わかったよ けど殺すのはなしだよ」
ミイは一瞬考えた後に少し不満そうにそう答えた。
「ああ」
(この状況じゃ殺されないようにするので精一杯なんだけどな)
レベルズはそう答え、メラが来ても躱せるようにジリジリと前へ進み始めた。ミイもその後ろをついてきている。
またあらくれの陰から出てきたゼシカが火球を飛ばしてくる。
「クッ」
右へ躱す。左半身が熱されるのを感じ、後ろで着弾した音が低く響く。ミイは躱すのは得意なのか余裕そうだ。
警戒しつつ距離を詰めていく。
すると今度は火球を飛んでくるのと同時にあらくれも詰めてきた。
なんとか左へ飛んで火球を躱し、あらくれの上からの一閃をフォークの柄で受け止めようとするが、受け止めきれず、体制が崩れる。
すぐさま息を吸って前方につめたい息を吐きだすと、あらくれは一瞬視線を背後へ向けた後、素早くレベルズの右側に回り込んで息躱すと、首を狙った鋭い横凪の一閃を放ってきた。
すんでのところでフォークを割り込ませるが、間に合わず、レベルズの首にどうのつるぎが食い込み、青い血が噴き出す。
「グッ」
「メラだ! レベルズ!」
あらくれが右に回り込んだせいでメラの射線が通っていた。
脚力を総動員してあらくれを盾にできそうな位置へ飛びのくが、尻尾に着弾し、燃え上がる。激痛で揺れる視界からあらくれがどうのつるぎを両手で高く振りかぶっている姿が見えた。あれをまともに食らったら一刀両断されそうだ。
ダメもとで、フォークを両手で掲げて防ごうとするが、案の定防ぎきれず、顔面にどうのつるぎが食い込む。青い血が噴き出し、揺れる視界が青く濁る。
「ギイ゛イ゛ィ」
「レベルズ! くっホイミ!」
体が緑に包まれ、痛みがましになるのを感じつつ息を吸い込み、あらくれへつめたい息を吐きだす。あらくれはさっきと同じように一瞬ゼシカの方を確認したが、絶対にあらくれから目線は離さない。今つめたい息を外すと死ぬ。
「くそっ」
すると、あらくれはつめたい息で身を切り裂かれながら、後ろへ跳躍した。
ゼシカが出てきて火球を放ってくるが、さっきもあらくれが引くタイミングで放ってきたため飛んで躱せた。
ミイに回復してもらいつつ考える。傷口が塞がるが、尻尾がもう一回生えてきたり、深い顔の傷が治ったりはしないようだ。
(やばい死にかけた…こんなことやってられない…倒すとか無理だろ…なんとかして塔の中に逃げ込めないか?…でもあらくれを躱せてもゼシカのメラが待ってるし…俺があらくれを躱せてもミイはあらくれの攻撃を防げないし…一回失敗したら挟まれてこうやって引くこともできないし…無理か…くそっ)
ゼシカがこちらを睨みつけている。あらくれは警戒しつつやくそうを食べている。
(そもそもサーベルトの仇じゃないのに…なんでこんな目に遭ってるんだよ!)
苛立ちと焦りで顔が強張る。
「レベルズ 大丈夫かい?」
ミイが心配そうな声でそう言った。
「…だいぶ厳しいかもしれない」
混乱した頭であらくれ達に目を向けたままそう返す。すると、ミイは触手を肩に置いて言った。
「まぁ ボクがいるから大丈夫さ」
一瞬何を言っているのかわからなくなり、ミイの方に顔を向けると、いつも通りのへらとした笑顔をこちらに向けていた。かわいい。
「え~と、ミイがいるから大丈夫…?…そうかもしれない」
ミイに見とれて頭が働かない。
「だろう? 怪我しても治してあげられるよ 一緒に切り抜けよう!」
しかし混乱は収まった。さすがミイだ。かわいくてカッコイイ。
「…ああ! ありがとうミイ!」
(また助けられた…まだ何も返せてないな…けどはっきりした…!ここでミイを死なせない…!絶対切り抜ける!)
パディスは警戒を緩めずに小声で言った。
「ゼシカ嬢様 このままではどうも攻めきれない 次はオレがベビーサタンを捕まえるからそこをメラで焼いてくれないか?」
「でもそれじゃパディスさんも焼けてしまうんじゃないですか?」
「直接当たらなければ問題ないさ あと奴が吐くつめたい息には注意するんだ 動けなくなるとまずい」
「わかりました」
レベルズが視線をあらくれ達に戻すと、こちらを警戒しつつ、何か話し合っていた。作戦でも練っているのかもしれない。人間語はわからないので聞いても仕方がないが。
(さてどうする…?結局メラを食らわないようにしつつ…今の最強の攻撃のつめたい息をうまく当てるっていうのがいいんだろうな…メラもつめたい息もさっきはあらくれに回り込まれたのが良くなかった…回り込まれないように気を付けよう!)
(今までは先手を取られてたけど…先に攻めるのはどうだろう…?今までは剣とフォークで押し合ってる時につめたい息を吐けたんだから…フォークを剣で防がしてそこでつめたい息を叩き込めばいけるかもしれない…!)
「ミイ、倒しに行こう!」
「ああ レベルズ!」
レベルズは決意を新たにし、進んだ。