最初は走り続けていたが、疲れたしゆっくり歩こうということになり、怒られるの覚悟でいつもどおりの時間をかけて校門前。
「おざます、鉄人」
「おはようございます、鉄――西村先生」
校舎に入ると、『鉄人』通称西村先生が待っていた。……あれ? 逆か?
ともかく、できるだけ平然を装うように、と明久とアイコンタクトを取る。こういうのって堂々としてたほうがうまくいくって前テレビで見た気がするし。
「今何時だと思っているんだ?」
「えーっと……十時五十分ですね」
明久が携帯で時間を確認しながら言う。
「九時半だよな? というか鉄人知らなかったのか?」
「二人共、ちょっと指導室まで同行願おうか」
瞬間、鉄人のガッシリとした手に、ミッシリと肩を掴まれる。ん? ミッシリ? ……って
「「あだだだだだ!!」」
ものすごい握力に圧迫され、肩がミシミシと音を立てる。か、関節が外れる……!!
「て、鉄人!! 違うんです!」「これには深いわけがだだだだいででで!!」
「先生、だ」
「ごめんってばっ! ……じゃなくて、すみません先生!!」
「……良いだろう」
握り潰されかけた肩が、ようやく解放される。骨の位置を戻すように腕を回すと、バキバキと嫌な音が聞こえてきた。
「お前らを何度も見てきて慣れてはいるが、言動が本当に双子みたいだな。で、何故遅刻してきたんだ?」
「あの、それはですね……」
明久が今朝あったことを説明する。すると分かってくれたようで、深くため息をつきながらも振り分け試験の結果が入っていると思しき封筒を懐から出し、
「全く、お前らは……。これから新学年で二年生になるんだから、もうちょっとしっかりしなさい」
「「はあ、頑張ってみます」」
軽い口頭注意で済ませて封筒を明久にわたす。
「で、先生。オレのは?」
「ああ、
「はっ? って、うわああ!?」
鉄人がオレの首根っこをつかみ、指導室のある方角へと歩き出す。なんで!? なんでオレだけ!?
明久がオレの方を見て、ぽかんとしている。その手に握った紙にチラリと見えるのは『F』という文字。
「え、えっと……『地獄で先に待ってるぜ』?」
動揺している明久がそんな意味のわからないことを言って後者へと歩き出すのを見届けながら、オレは指導室に引きずり込まれていった。
☆BAKA OTO★
「――で、冊原。なんでお前だけ連れてこられたか分かるか?」
鉄人椅子に座るよう促しながら問う。ネジ部分が緩んで少し錆びっぽくなった回転椅子は座るとキィ……と小さく音を立てた。
「今日のことー、ってわけじゃ、ないですよね……」
少し重たい空気に落ち着かず、椅子を少し回して体をフラフラと揺らす。落ち着きのないオレに鉄人は一瞬何か言いたげな顔をしたが、すぐに話を続けた。
「なんだ、分かってるなら話は早い」
「そりゃ、明久連れずにオレと先生だけでこの部屋に来たのなんて、あの時一回だけですし」
さっきはびっくりして考える暇がなかったからわからなかったけど、おそらく鉄人は一年生の最後の方に起こした事件のことを言っているんだろう。あの日他校の生徒数人をボコボコにしたオレは結局停学三週間となり、その上で『観察処分者』になるという罰を受けたのだが、鉄人曰く前からちょくちょく起こしていた問題もあり、この処分は軽いほうだったらしい。
「まあお前をこの部屋に連れてくるときは大体吉井とセットだからな。……あまりグダグダ言っても仕方ないからな、できるだけ手短に話そう。冊原」
「はい」
「先生はな、女子であるお前が規則を破って男子の制服を着てそれを少し着崩してようと、勉強が周囲より多少できなかろうと、どれだけやんちゃであろうと、別にかまわないと思っている。その度に俺が導いてやればいいだけだからな。……だがな、あまり大きな問題は起こすな。確かにお前がこれまで起こしてきたことは『悪さがかっこいいと思ってるから』とかいう理由ではないし、実際お前に助けられた人もいる。先生自身もできるだけ支えてやりたいと思っているんだ。だがお前が『良かれ』と思ってやったことでも、周りがそれを誤解して『問題』だと思ってしまっては元も子もないだろう?」
「……っ」
鉄人の言葉に、息が詰まる。確かにオレが良かれと思ってやった事が結果として周りに迷惑をかけてしまったことが何度かある。
今回の事件でオレを退学にしないよう持ちかけてくれたのも秀吉達だし、鉄人は留年になるはずだったオレを学園長を説得して進級させてくれた。
もしかしたらこれからだって同じままでいればたくさんの人から問題視されるかもしれないし、その度に周りに迷惑をかけてしまうかもしれない。でも、
「でも先生、オレは」
「わかっている。先生も――もちろんお前の友達もな。だから、今一番言いたいことは『退学にならない程度に、これからも問題児
「……! はいっ!」
鉄人はいつも厳しくて、とても怖い先生だ。でもそれはいつでも生徒のことを一番に考えていることからの裏返しで――、だからオレはこの先生を嫌いだとは思わない。
「俺から伝えたかったことはこれで終わりだ。冊原からは何かあるか?」
「いえ、大丈夫です。じゃあオレ、失礼しますね」
「ああ。あまり一人で無理するんじゃないぞ……っと、忘れるところだった」
扉に手をかけたところで、鉄人に呼び止められる。振り返ると、俺の名前が書かれた封筒を差し出された。そういえば振り分け試験の結果まだ貰ってなかったんだっけ。まあ、行くクラスはなんとなく検討が付いてるけど。
「ついでにテストも返却しておく。答案も入ってるから、きちんと見直しておくんだぞ」
「あいさー」
もらってすぐに、封筒の上部分をべりべりと破っていく。中の振り分け結果表には『冊原鈴音 Fクラス』と書いてあった。
「……やっぱりな」
「まあ、三週間停学だったんだから仕方ない。停学期間が終わったあともしばらくは観察処分者として動き回っていたしな」
「停学中の課題も全部ラクガキ用紙になったし」
「それはお前の責任だ」
冗談もそこそこに、二枚目の紙、テスト結果表を開く。現国と古典以外はどれも一ケタ~二ケタ前半――ぅん?
「あの、て……先生」
「なんだ」
「英語だけ点数書いてないんスけど」
「あぁ、それか。詳しくは自分でテスト用紙を見てくれ」
……おかしい。鉄人のオレを見る目が、明らかにおかしい。まるで哀れな人を慰めるような目でオレを見ている。
気になって仕方がないので、いそいで英語のテストをひっぱりだす。すると、
「あぁ……」
今まで見たことのないような惨状が広がっていた。
「次もあるさ。
微妙な表情のままの鉄人に送り出され、微妙な気持ちになったオレは、重い足取りでFクラスへと向かった。
バカおと第三問、いかがでしたでしょうか。結構進みが遅いですね……書く上での悩みの一つです。話は変わりますが、次のあとがきあたりで、りんね君の紹介でもしてみましょうかね?
ご意見やご感想、アドバイス等、鉄人のごとくどっしり構えてお待ちしております!!