以降は短編ベースになると思いますが、どこまで続けるかは未定です。
加古に連れられてしばらく街の方に向かって歩くと、ボーダーのスカウト用仮設事務所にたどり着いた。
「……本当にボーダーの人だったんだ」
そう言えば、街や学校でボーダーの事務所が今度できるって少し前に噂になってたっけと、今更ながらに葉加瀬は思い出した。
「あら、信じてくれてなかったの?」
「ふ、普通はいきなり言われても信じられませんよ……」
加古はそんな葉加瀬の様子に笑いをかみ殺しながら、意地悪そうに言う。
葉加瀬は揶揄われていると分かっていても、加古のことを信じていなかったことがバレてばつが悪いのか、視線を横にそらしながら言い訳のようにつぶやいた。
「フフ、それじゃ入りましょ」
そんな様子も面白かったのか、加古は笑いながら事務所のドアを開ける。
事務所の中に入ると加古がすでに話をしておいたのか、中にいた職員から何か端末を加古が受け取ると、すぐに奥の部屋に通された。
「そこに座って」
「は、はい」
「コーヒーでいいかしら?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます……」
椅子に座り、少し居心地悪そうにしている葉加瀬の前に加古がコーヒーを置く。
葉加瀬がコーヒーに手を付けて少し落ち着いた頃合いを見計らって、手元の端末を操作していた加古は話を切り出した。
「まずは確認なんだけど、本当に幽霊が見えるのよね?」
「……はい」
加古の質問に葉加瀬は俯きながら絞り出すように答える。
葉加瀬にとっては幼いころから揶揄われ、いじめられ、気味悪がらてきた原因となったことだ。
無論、加古はサイドエフェクトの存在を知っているため葉加瀬の思うようなことをするわけがないのだが、そんなことを知る由もない葉加瀬の胸中には不安が渦巻いていた。
「そう。それでそのサイ──体質のことなんだけど」
「……信じてくれるんですか?」
「あら、嘘なの?」
何でもないような事のように言う加古に葉加瀬は慌てて首を横に振る。
「で、でも幽霊が視えるなんて……」
「信じてもらえるはずがない。……いえ、今まで誰にも信じてもらえなかったって言う方が正しいかしら?」
「……」
葉加瀬は再び俯き言葉は発さなかったが、その膝の上で強く握られた拳がその答えを代弁していた。
「……なぜ私があなたの言葉を信じているかというと、知っているからよ。あなたと同じような人たちをね」
「……え?」
「正確に言うと幽霊が視える人は葉加瀬君しか知らないけど、似たような特別な力を持っている人たちを知っているわ」
「そ、そんな人が……」
思わず呆然とつぶやく。
自分だけがおかしいのだと思っていた。
だが、正確には違うのかもしれないが自分と同じような人がいると知り、葉加瀬の心がほんの少しだけ浮き立つ。
「今から話すことは本来ならボーダーに入隊した人にしか話してはいけない機密事項なんだけど」
「そ、そんなこと話していいんですか? まだ、僕はボーダーに入ると決まったわけじゃ──」
「大丈夫よ。もしもの時は葉加瀬君の記憶を消すから問題ないわ」
「そうなんですか──―って、え?」
「まぁ、その話は置いといて」
「え? でも今、記憶をって」
「その話は置いといて?」
「は、はい……」
突然物騒なことを加古が言い出し、葉加瀬は思わずそのことについて詰め寄ろうとするも、加古の笑顔から放たれる圧にすごすごと席に戻った。
「その『幽霊が視える』という葉加瀬君の力。そんな特別な力のことを私たちボーダーは『
「……サイドエフェクト」
「そう。そしてサイドエフェクトを持つ人たちにはある共通点があるの。そしてそれが私があなたをスカウトした最大の理由よ」
「きょ、共通点ですか?」
「これ見てくれる?」
そういって加古は先ほどいじっていた端末を葉加瀬に渡す。
葉加瀬がその端末に目を落とすと、そこには自身の名前とその横に10という数字、それから何を現しているかわからないが色々とグラフなどが並んでいた。
「名前の横に10って表示されているでしょ? それは葉加瀬君のトリオンをボーダーの規格で数値化したものよ」
「トリオン?」
初めて聞く単語に葉加瀬は首をかしげる。
「ええ。トリオンというのはね──―」
曰く、人体が持つボーダー以外では未確認のエネルギーである。
曰く、ボーダー隊員が戦闘の際はトリオンで作られた肉体に換装して戦う。
曰く、
等々。
そんな説明を受けたものの、いきなり念やチャクラのような不思議エネルギーの話をされても俄かには信じ難い。
それが葉加瀬の率直な思いだったが、ここで加古が嘘を吐く理由もないし、何より自身のことを信じてくれた加古のことを葉加瀬自身が信じたいと思ったため、話を信じることにした。
「そして共通点の話に戻るけど、サイドエフェクトを持つ人のトリオン能力は普通の人よりも高い──いえ、逆ね。高いトリオン能力を持つ人が稀に発症する力がサイドエフェクトなのよ」
「じゃあ、僕の10ってトリオン能力も高い方なんですか?」
「高い方ってレベルじゃないわね。ボーダー隊員の平均が大体5か6くらいだからボーダーでもトップクラスよ」
「──―え?」
「葉加瀬君より高いトリオン能力者なんて片手で数えるくらいじゃないかしら?」
さらりと言う加古の言葉に思わず葉加瀬は絶句した。
葉加瀬自身は平均よりかは少し上なんだろう程度に考えていたが、今の加古の話からするに一般隊員の倍近い数値じゃないかと、自分のことながらに驚く。
「これが葉加瀬君をスカウトした理由よ。どうかしら? 私としてはぜひ入隊してもらいたいのだけれども」
「……ぼ、僕なんかに務まるんでしょうか?いくらトリオン能力が高いと言われても僕自身に自覚はないし、サイドエフェクトだって言っても幽霊が見えるなんておかしな奴に―――」
「そもそもだけど、幽霊が見えることがなんでおかしいのかしら?」
「だ、だって他の人とは違うんですよ!?そんなのおかしいでしょ!」
葉加瀬は思わず声を荒げる。
長い間、自分が周りと違うという疎外感と今まで誰にも信じてもらえなかった孤独感により、そんな根強い自己否定が葉加瀬の心に植え付けられていた。
「他の人と違う自分がおかしい。まずその考えが間違っているのよ」
だが、そんな葉加瀬の言葉を加古はバッサリと切って捨てる。
「葉加瀬君はおかしいんじゃなくて他の人より特別なのよ。才能があるといってもいいわ」
「…そんなこと初めて言われました」
「そうなの?葉加瀬君の周りは見る目のない人たちばかりなのね」
私は違うけどね、と笑う加古を葉加瀬は茫然と眺める。
いっそ傲慢に思えるほど自身の考えを中心として行動する彼女が、葉加瀬にはとても眩しく見えたのだ。
「私はね、才能ある人が好きなのよ」
「……え?」
「だから、才能ある人がその才能を発揮できずに埋もれていくのを見るのは堪らなく嫌なの」
加古はそういうと立ち上がり、葉加瀬を強い眼差しでまっすぐに見つめるとその手を差し出す。
「ボーダーに来なさい。葉加瀬君の才能はボーダーでこそ輝くわ」
そんな加古の言葉を聞いて葉加瀬の目から涙がこぼれ落ちる。
自身の言葉を信じ、才能があるとまで言ってくれたその言葉が葉加瀬は堪らなくうれしかった。
そして、流れる涙を拭うことなく葉加瀬は加古の手を取った。
「ボーダーに入隊させてください」
涙声で聞き取りづらい締まらないものだったが、決意の台詞は力強く響き渡った。
その後、葉加瀬は加古からボーダーへ入隊するための書類や、三門市への引っ越し、学校の転校などの説明を受けた。
しかしあとは入隊志願書を記入すれば、というところでさらなる問題に直面した。
保護者の許可である。
いくら本人にその気があっても、葉加瀬は未成年である。
学生のするアルバイトと違い、ボーダーには
そのため未成年の入隊者には保護者の許可が必要になるのだった。
その日の夜、家に帰った葉加瀬は両親にボーダーへ入隊したい旨を伝えた。
普段はほとんど会話のない両親は息子が自発的に話しかけてきたことに驚き、その内容でさらに驚いた。
騙されているのではないかとも疑った両親だが、葉加瀬の持ってきた書類や加古からもらった名刺などを見ると本物と信じた。
だが、信じたからと言って許可を出すかと言えば違う。
危険すぎると許可を貰えなかったのだ。
しかし、葉加瀬も退くことはなかった。
声を荒げながら、なんでダメなんだと強い口調で反論する。
初めて見たそんな息子の様子に驚いていた両親だが、売り言葉に買い言葉で話し合いは激化していく。
後から思い返せば、初めての親子喧嘩だったかもしれないと葉加瀬は語る。
日付が変わり、空が白むまで続けられた話し合いは、遂には両親が折れる形で決着した。
入隊を許可する代わりに月に一度は電話で報告することなど、色々と条件は付けられたがなんとか許可をもぎ取った。
最後に、辛いと感じたらいつでも帰ってきていいぞと言われたときには葉加瀬は再び涙を流した。
そして一か月後。
「――私からは以上だ、この後の説明は嵐山隊に一任する」
立ち並ぶC級隊員たちを壇上から見下ろし、ボーダー本部長の忍田はそう式辞を締めくくった。
そしてその忍田と入れ替わるように壇上に上がったのはA級部隊でもあり、ボーダーの広報担当部隊でもある赤いジャージ風の隊服に身を包む嵐山隊だ。
「みんな、改めて入隊おめでとう!それではこれよりポジション別に訓練の説明を行う。
「
隊長の嵐山と狙撃手の佐鳥に先導され、C級隊員たちはそれぞれの訓練場所に移動していく。
「いきなりで驚くかもしれないが、まず最初に行うのは対近界民戦闘訓練だ。まだ怖いかもしれないが、仮想訓練モードだからトリオン切れも痛みもない。恐れずに思いっきりやるんだ。制限時間は一人5分で、早く倒す程評価が上がるから頑張ってくれ!」
いきなり戦闘訓練と聞きC級隊員たちの間に動揺が走るが、仮想訓練と聞いてその動揺も収まっていった。
早く倒すほど評価が上がると聞いてやる気を出すものもいる。
「それでは順番に部屋に入っていくれ!」
そうして、C級隊員たちの初めての訓練が始まっていく。
そんなC級隊員たちの様子を上から眺める正隊員がいた。
「おう、堤。見どころありそうなやついたか?」
「諏訪さん、まだ始まったばかりですよ」
B級部隊である諏訪隊の隊長である諏訪とその部隊員の堤である。
二人は雑談をしつつも、階下で行われるC級の訓練を眺め、有望そうな新人がいないかをチェックしていた。
「あら?諏訪さんと堤君じゃない?あなた達も新人を見に来たの?」
そんな二人に背後から声をかけたのは加古であった。
「加古か。お前が見に来るなんて珍しいな」
「今回の入隊者にちょっと気になる子がいてね」
「加古ちゃん。気になる子って?」
加古の『気になる子』発言に、彼女にひそかに恋慕している堤は内心冷や汗をかきながら訪ねる。
「私がスカウトした子がいるのよ」
「…ああ、そういえば少し前にスカウト任務に行ってたっけ?」
「そうよ諏訪さん。その時にスカウトした子が今回いるから見に来たの」
「へぇ。それってどの子なんだい?」
「ほら、あの子よ」
そういって加古の指さす先にいた少年、葉加瀬に諏訪と堤が視線を向ける。
「…なんか加古がスカウトしたにしては普通っぽい奴だな」
「す、諏訪さん」
ズバッという諏訪に、同じようなことを思ってはいたが口には出してなかった堤が苦笑しながら窘めた。
そんな二人に加古は意味ありげに笑みを浮かべる。
「まぁ、見てれば分かるわ。ほら」
そう笑う加古の視線の先には、ちょうど訓練室に入る葉加瀬の姿があった。
『5号室、用意――始め!』
「アステロイド!」
「おお!?」
「マジか!?」
訓練室に入り、どうやら
そして、その様子を見ていた者たちはそのキューブの大きさに驚きの声をあげた。
「行け!」
八つに分割されたアステロイドはその威力を存分に発揮し、仮想訓練相手であるバムスターの装甲を次々と食い破った。
『5号室終了――記録、13秒』
「…すげぇトリオンだな。出水や二宮を除けばトップじゃねぇか?」
「加古ちゃんがスカウトしたのも頷ける。これはすごい新人が入ったな…」
「ね?なかなか面白い子でしょ?」
訓練室から出てその結果に盛り上がる周りに押され、オドオドと困ったように委縮する葉加瀬を見て加古は笑みを浮かべる。
正隊員となって再開する日も近そうだと、内心で楽しみに思いながら加古はその場を後にした。
おまけ
~スカウト任務終了後の一幕~
「やあ、加古さん。スカウトお疲れ様」
「……やっぱり。今回、なんで急にスカウト任務なんてやらされたかと思ったら、迅君の仕業だったのね」
「仕業ってそんな。人聞きが悪いなぁ」
「今回スカウトした葉加瀬君が何か重要なことに関わるの?」
「へぇ。あの子、葉加瀬っていうんだ」
「あら?お得意の予知で分からないの?」
「そんな便利な物でもないんだよね。これ」
「…まぁ、いいわ。それよりこれから炒飯作ろうと思ってたんだけだど、迅君食べるでしょ?」
「え…?ち、ちなみに具材は……」
「スカウトに行ったとき、色々と名産品を買ったのよね。今回はそれを使おうと思ってて――」
「な、なるほど?」
「そうね。今回は『白桃』と『ヨーグルト』を使ってみようかしら!」
「あぁ…(読み逃したな…)」
迅、無事緊急脱出。
以下、おまけ設定
Q:いつ葉加瀬のトリオンを計測したのか?
A:葉加瀬のトリオンは部屋に入った時から観測している。
何か機材を身に付けなくても、観測機器のある部屋内であれば遠隔でできる設定。
修がレプリカでのトリオン測定が初めて見たいな雰囲気だったのでボーダーのトリオン測定は非接触だったのかなと想像。
Q:時間軸はいつ頃なのか?
A:ざっくりと原作1年~半年ほど前を想定。
Q:主人公のトリガー構成は?
A:修と同じようにメインに射手用トリガー、サブにレイガストを入れた構成を想定。
ただし、トリオンが豊富なので防御寄りというよりかは、攻撃寄り予定。
Q:今後の予定は?
A:各キャラとの絡みを短編風で投降予定。